わずか20年で2回もガラガラポンが起きた成都のスーパー業界 - 中華IT最新事情

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わずか20年で2回もガラガラポンが起きた成都のスーパー業界

人類史上、これだけ短い時間の間に劇的な変化をしたというのは、中国の小売業以外にないだろう。わずか20年前には、個人商店と公設市場ぐらいしかなかったのに、今や成都市はスーパーの激戦区だ。しかも、20年の間にプレイヤーの総入れ替えが2回も起きている。その成都のスーパー史を媒食記が解説した。

 

15年前は、ガードマンが監視をしていた中国のスーパー

中国の小売業界は、常に荒波の中で変化をし続けている。それまで食品や日用品は、公設市場、個人商店で買うことが多かった中国に、カルフールやウォルマートなどの海外資本の大型スーパーが登場したのが、90年代なかば。それでも2000年代半ば、北京五輪以前は、このようなスーパーで買い物ができるのは、経済的余裕のある一部の市民に限られていた。

この頃は、出入り口にはガードマンが立ち、バッグはコインロッカーに預けてから売り場に入らなければならなかった。自由に商品を手に取れるというスーパーの販売方式が珍しかったために、万引きを警戒していたのだ。

それからわずか15年。今や、無人コンビニ、無人スーパーは珍しくなく、店舗規模も超大型店からキオスク規模までバラエティに富む。わずか15年で、ここまで変化をした国はそうはないのではないだろうか。

tamakino.hatenablog.com

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イトーヨーカ堂の成功が成都市の小売業界に火をつけた

成都市の場合、最初のスーパーは国内系だった。1994年に登場した互恵スーパーだ。食品、日用雑貨などを売る店だ。

ところが、成都市の場合、他の都市と異なるのは、1997年にイトーヨーカ堂が進出をしてきたことだ。当初は、高級百貨店として開業し、価格も高く、成都市民にとっては商品も魅力が感じられなかったが、当時成都イトーヨーカー堂の社長だった三枝富博氏は、食品中心の品揃えにするという大きな方針転換をおこなった。三枝氏は、成都市民の家の冷蔵庫やゴミ箱を調査し、どのような食品が求められているかを分析、中国人の食習慣を前提にした品揃えにし、そこに日本的な実演販売、試食販売を組み合わせていった。価格は他の販売店よりも高いものの、イトーヨーカ堂は、高級食品を置いているスーパーとして成功した。三枝氏は、中国の流通を改革した人物として中国国務省から表彰されている。

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成都で最初に登場したと言われる互恵スーパー。当時としては大型店で、自分で商品をピックアップするセルフ方式は目新しいものだった。

 

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成都のスーパー史にとって大きかったのが、イトーヨーカ堂の成功。高級百貨店としてスタートしたが失敗、すぐに高級食品スーパーに方針転換をし、これが成都市民に受け入れられた。勝因は、徹底した市場調査と素早い決断だった。

 

日仏港台米の外資系スーパーの激戦区に

このイトーヨーカ堂の成功を見て、にわかに成都はスーパーの激戦地になった。2003年にフランスのオーシャン、カルフール、香港のパークンショップ、2006年に米ウォルマート、2012年には国内系の永輝と、ほぼすべてのブランドが成都市に参入した。

そして、激しい価格競争、品質競争をしていくが、これは成都のスーパー史では1.0時代と呼ばれ、その後の激変の序章にしかすぎなかった。

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▲フランス系大型スーパー、カルフール。当初は大量の品揃えで大人気だったが、ECサイト登場後の変化に追従できず、現在は売上不振に苦しんでいる。

 

ECサイトの隆盛で、既存スーパーは一気に経営不振に

スーパー激変のきっかけは、ECサイトの流行だった。中国人がスーパーでいちばんよく買うものは食用油だ。中華料理は油を大量に使うので、大量に買わなければならない。しかし、自分でスーパーに行って油を買い、持って帰るのは、なかなかの大仕事だ。そこで、油はECサイトで買い、宅配してもらう人が増えていった。

もうひとつは、消費者の生活レベルが上がり、安売りセールの効果が薄れていったことだ。安くても質の悪い食品は買わない。多少高くても美味しい食材を求めるようになっていった。

大量に仕入れて安く売る、目玉商品で消費者を引きつけて、ついでにその他の商品を買ってもらい利益を出すという手法が通じなくなった。

このような変化に、国内系スーパーは比較的よく対応していったが、外資系スーパーはどうしても対応が後手に回った。本社の決済を必要とするため、決断に時間がかかるからだ。そこで、外資系スーパーから、経営不振の波が始まった。

2016年には香港系のパークンショップが閉店をする。その他のカルフール、ウォルマートなどは営業を続けているが、経営は非常に厳しい状態になっている。

成都スーパー史2.0時代は、大手外資スーパーの凋落のステージとなった。

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▲香港系のパークンショップは、ECサイトの影響と消費者の嗜好の変化に追従できず、撤退をすることになった。

ECサイトには真似できないコンセプトのスーパーが登場

現在、成都市のスーパー史は3.0時代に突入し、再び出典ラッシュとなり、激しい競争が始まろうとしている。

今、集中しているのは「ECサイトでは買えないもの」を売るスーパーだ。ECサイトがどうやっても売ることが難しい食品、それは生鮮食料品だ。今年2018年初め、アリババ参加の「盒馬鮮生」(フーマー生鮮食料)だ。エビ、蟹などの海鮮を中心に販売するスーパーで、周囲3km以内に30分配送も行う。売り場で調理加工もしてくれ、支払いはスマホ決済、イートインコーナーでそのまま食べることもできる。海鮮の売り場とレストランが合体したような新業態だ。内陸部である成都市で、新鮮な海鮮料理が食べられることはかつてなかったことで、成都市民の間で早くも大人気になっている。

一方で、この時期に伊勢丹成都に参入した。4月8日に開業したばかりで、「食の安心、安全」をコンセプトに、日本食品と中国食品を販売する。イートインコーナーも用意し、その場で食べることもできるようになっている。

この伊勢丹のスーパーもECサイトを強く意識している。専門店街には、ベーカリーのジョアン(その場で焼き上げる)、山本精肉店などECサイトでは購入できない商品を中心にしている。

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▲現在、人気となっている海鮮スーパー「盒馬鮮生」。新鮮な海鮮食材を買うことができ、イートインコーナーですぐに食べることもできる。これもECサイトには真似ができない業態。

 

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伊勢丹の中に出店したベーカリー「ジョアン」。その場でパンを焼き、焼き立てを食べることができる。伊勢丹は、ECサイトにはできないことを中心にしている。

 

小売業の寿命は10年以下。生き残る鍵は決断スピードの速さ

このような状況は、中国の他都市でもおおよそ似たような状況だ。沿岸部では、これにさらに無人コンビニ、無人スーパーも加わって、激しい消費者獲得競争を繰り広げている。

忘れてはならないのは、最初のスーパーが登場してわずか20年の間に、2回もプレイヤーが総入れ替えになるという「洗牌」(麻雀用語でシャッフルの意味。中国では市場の激変を表現するときによく使われる表現)が行われていることだ。つまり、新しいコンセプトで成功をしても、10年は持たないということだ。

重要なのは、市場の変化に追従できる決断スピードの速さだ。それが遅れるスーパーは、振り落とされていく運命にある。