厚生労働省が発表した外国人雇用状況の報告によると、日本国内の外国人労働者数が2023(令和5)年10月末時点で過去最多の2,048,675 人となった(※1)。増加は近年特に顕著であり、日本の少子高齢化に伴う労働力不足を補うため、外国人労働者の需要がさらに高まっていることがわかる。国籍別にみるとベトナム、中国などアジア諸国が多く、前年と比べ56%増のインドネシア、49.9%増のミャンマーなど、大幅に人数を増やしている国もある。日本の特定の産業分野における労働力不足を補うための「特定技能制度」を通じて来日する外国人も多い。特に、介護や農業、飲食料品製造業といった深刻な人材不足が続く産業分野では、既に外国からの人材が不可欠である。
このように、外国人雇用によって日本の労働力不足が解消される一方で、課題もまた浮き彫りになりつつある。外国人を雇用するにあたっては、受け入れる側の企業で生活面や労働環境など各種サポートをするか、専門の機関に支援を委託することになるが、これまで外国人雇用の経験や知識がないことでハードルが高いと感じ、積極的になれない企業や団体もあるという。日本全国の企業にインドネシア人材を数多く紹介し、登録支援機関でもある、立川市のエース・グローバル・サービス株式会社を取材した。
※1:届出が義務化された2007(平成19)年以降で最多
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●日本の労働力不足を補うための特定技能制度
特定技能制度は、2019(平成31)年4月に施行された日本の新しい在留資格制度の一部。特定の産業分野における労働力不足を補う目的で、外国人労働者が即戦力として日本で働くことを認める。特定技能には1号と2号があり、1号は12の分野ごとに設定された技能試験と日本語試験(日本語能力試験ではN4以上)に合格、または技能実習2号を修了することで、該当分野限定で通算5年まで在留可能とする。2号は介護以外の11分野が対象で、1号と比べより高度な技能が求められる。在留期間の更新の上限がなく、無期限の滞在が実質認められ、家族帯同も可。
●技能実習制度と特定技能制度の違い
技能移転による国際貢献が目的で、母国へ帰ることが前提の技能実習制度と異なり、特定技能制度は外国人を労働力として受け入れることが前提の在留資格。主な目的が労働力確保であるため、幅広い分野でより実践的な業務を担うことが期待されており、単純労働も対象(技能実習制度では対象外)。同制度は日本の労働市場において重要な役割を担っており、特に人手不足が深刻な分野での労働力確保に大きく寄与している(※2)。
※2:技能実習制度に代わる新たな制度「育成就労制度」新設のための関連法の改正が2024(令和6)年6月に可決・成立。
●特定技能制度の対象となる12分野
特定技能制度の対象は人手不足が深刻な産業分野に限定されており、1号では介護、建設、農業、宿泊、外食業などの12分野が対象(※3)。同制度の下で働く外国人労働者には日本人と同等の労働条件が保証され、受け入れる側の企業には生活面や労働環境など各種サポートが求められる。
※3:自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野の追加が2024(令和6)年3月決定、開始時期未定。
活動の特徴
●インドネシアと日本をつなぐエース・グローバル・サービス株式会社
現在日本に在留する特定技能1号のインドネシア人は38,998人で、ベトナム人に次いで多い(※4)。同社では2009(平成21)年1月より立川市でインドネシアの富裕層に向けた日本旅行の手配を始め、これまでに約6,000人以上を送客。さらに、2020(令和2)年からインドネシアに特化した日本企業への人材紹介、特定技能支援を開始。自社教育機関(日本語学校)をインドネシアの各地に14校運営(インドネシア政府公認)し、そこで日本語教育や技能試験教育を修了した人材を600人以上日本に紹介している。また登録支援機関として、紹介した人材が受け入れ企業でスムーズに働けるよう、入国前の諸手続きから入国後の生活面に関するサポート、就労開始後の相談など様々な支援を行う。
※4:2024(令和6)年4月末時点
●インドネシアと日本の社会課題の解決目指す
日本の課題(少子高齢化、労働力不足、地方の過疎化)と、インドネシアの課題(経済格差、地域格差、政治不安)の両方に貢献することを目的として、インドネシア人に特化した日本企業への特定技能人材の紹介と各種支援を提供する同社。重点領域は介護、農業、飲食料品製造業、外食業、宿泊、ビルクリーニングの6分野。日本人と同じ時給で働き、転職も自由な特定技能1号の人材のみを紹介することで、単なる労働力の補填ではなく両国の共存共生を目指し、一人ひとりの人権を尊重しながら支援する。
●インドネシアから見た日本は仕事があり魅力的な国
世界第4位の人口2億7,000万人(※5)を有するインドネシア。日本とは異なり若者世代が多い一方で仕事の数は少なく、主な産業は農業、漁業などの第一次産業で平均月収は50,000円程(ジャカルタの場合。地方だと約30,000〜40,000円)。そのため日本に来て仕事を得て、収入の一部を仕送りすることで、現地に暮らす家族の生活を守りたいと考えるインドネシア人は多い。また、日本食やアニメも人気があり、高校で日本語を学ぶ生徒も多く、現地には日本企業が多数進出しているため、日本でキャリアを積んだ後に現地でそれを活かした仕事に就き、子どもに高度な教育を受けさせたい親もいる。
※5:2023(令和5)年時点
●登録支援機関の支援内容は10項目
登録支援機関とは、外国人労働者の受け入れ先である日本企業から委託を受け、1号特定技能外国人が安定的かつ円滑に活動を行うために在留期間における支援計画の作成、実施を行う機関。具体的な内容は、入国前の支援計画書作成や事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保やライフラインなどの契約支援、入国後の日本語学習、相談や苦情の対応、日本人との交流支援、定期的な面談などの10項目。同社では登録支援機関として一番大事なことは紹介人材の地域への定着と考え、外国人が入ることにより職場の労働力不足が解消されるだけでなく、多文化共生による地域の活性化も目指している。
●教育段階から人材の強みや弱みを把握して一貫サポート
インドネシアは約300種族からなる多民族国家。同社では地域、民族ごとに異なる文化や宗教を把握分析し、人材紹介や支援に活かしている。例えばインドネシア人の約90%はイスラム教徒で頭部にヒジャブ(布)を巻く人が多いが、受け入れ先の規則で受け入れられない場合はキリスト教徒が多い地域の人材を紹介する。また住居確保の際は、民族により宗教や生活習慣が異なることを踏まえ、部屋割りに配慮する。このようにインドネシア人といっても民族、宗教、また個人で適性や性格が異なるため、教育段階から面談や性格分析を通し、それぞれにあった仕事や職場が紹介できる体制を構築している。
●働き始めてからも継続して支援
基本的に穏やかで柔軟、家族思いで思いやりの心がある人が多いインドネシア。そのため仕事に慣れるスピードは早く、介護施設であれば3ヶ月ほどで夜勤にも入るようになり、受け入れ企業からの苦情はこれまでほとんどない。しかし異国で働く彼らのストレスが少しでも減るよう、定期的な面談をはじめ、日本語トレーニング、試験講師の派遣など、それぞれのキャリア形成も見据えながら期間中の支援を丁寧に行う。同社の強みは日本とインドネシアの両国に拠点があり、代表をはじめ日本オフィスにもインドネシア人スタッフが多いため、インドネシア人の感覚に寄り添えること。紹介した人材はこれまで約600人以上(介護分野で350人以上)。そのうち離職は4人と大変少なく、また10人が介護福祉士の国家資格を取得。高齢者向けの福祉介護事業を立川市や国分寺市などで展開する某介護施設では同社が紹介した人材約30人が働く。「インドネシア人は真面目で働く意欲が高く、勉強熱心。受け入れ先では仕事に対する姿勢を評価していただくことがとても多い」と営業マネージャーの阿部さん。
●課題は受け入れ企業側の受け入れる心
現在の一番の課題は企業側の「外国人を受け入れる心」。外国人雇用経験のない企業向けには異文化コミュニケーションセミナーを開催し、宗教や外国人女性に配慮すべき事項、食事に関する相談なども受ける。また、「外国人=安い賃金で雇える」という認識を改めるため、労働条件改善の働きかけなども行う。日本語能力については不安に感じる企業が多く、近年求められる基準も上がっているため、特定技能人材は通常、日本語能力試験でN4以上(英検でいう4級程度)だが、同社はN3を基準としている。「日本に来た時点ではN4でも、半年から1年で自然とN3程度に上達していく。厳しい基準で優秀な人材が断られてしまうことがあるのが、とても残念」と代表のウィンディさん。
目指す未来
外国人が共に暮らし、働くことによって日本の社会課題である労働力不足が解消されるだけでなく、多文化共生により多摩地域の課題である地域活性化にも貢献すること。