リサイクルとごみのこと | 国立環境研究所
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知ってほしい、リサイクルとごみのこと

はじめに

 SNS上で、ある投稿が話題になっていました。投稿の内容は、“日本のリサイクル率”について。

 現在日本ではごみを捨てる際に、自治体ごとに定められた規則に従って、ある程度の分別を捨てる側が行い、廃棄することが義務付けられています。

 自治体ごとに分別ルールは異なりますが、結構な手間がかかると思う方もいるのではないでしょうか。

 そんな中、話題の中心にあったのは、ひとつのグラフでした。

世界のリサイクル率をまとめたグラフの写真

ブログ「東京23区のごみ問題を考える」より引用。

 OECD加盟国(ヨーロッパを中心に、アメリカ、日本を含む35か国の先進国が加盟する国際機関)のうち34ヵ国のリサイクル率を比較したもので、日本のリサイクル率は19%。下から5番目に位置する数値で、「焼却とエネルギー回収」については断トツ1位の71%。

 自治体の指示に従って手間をかけながらも分別しているのに、リサイクル率は低く、焼却がほとんどだという事実に、多くの方から驚きと疑問の声が寄せられていました。

 では、ここで挙げられている数値は、一体何を意味するのでしょうか?

 私たちの暮らしにも深く関係するごみ問題について、国立環境研究所の資源循環・廃棄物研究センター田崎智宏室長に話を聞きました。

 日本と各国のごみ事情やその背景、そして考えなければいけないことついて、対話オフィスがまとめた内容をご紹介します。

 目次 
リサイクルのイメージ写真

焼却主義からリサイクルへ

 グラフの中で77%と示されている通り、日本の焼却率はかなり高く、世界単位で見ても例外的に焼却に頼っている国になります。

 この背景としては、日本は土地がない、いわゆるごみの埋め立てが難しいという点があります。

 そのためごみを埋め立てる場合、焼却することで体積を減らし、できるだけ少ない面積でたくさんのごみを埋め立てるようにしてきました。それにより、焼却技術の向上、焼却施設の充実が進み、廃棄物処理=焼却といった流れが成り立つことに。

 日本でも紙やびんなどの有価な資源ごみは、もともと分別されてリサイクルされていましたが、1991年の廃棄物処理法改正で、埋め立てを減らすために、使えるものは分別してリサイクルしようということが明確化されました。

 そして2000年には、廃棄物の適正処理よりも、リサイクルを始めとする3R(リデュース、リユース、リサイクル)(※注1)を優先させる循環型社会形成推進基本法が制定されたのです。

※注1 3Rとは?
リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の頭文字をとったもので、環境のことを考えた廃棄物の処理方法を示します。
リデュース:ごみを減らすため、そもそもの使用量を少なくすること。必要以上の消費、生産NO!
リユース:一度使用したものを製品や部品として再使用すること。バザーやお下がりなど。
リサイクル:ごみを再資源化し、新しい製品の材料として利用すること。ペットボトル、びん、缶など。

3Rのイメージ写真

世界各国のリサイクル事情

 リサイクルをするためには、ごみを分けることが必須です。

 例えば、ペットボトルを再資源化する場合、パッケージや蓋などのペットボトル以外の素材が入っている場合には必ず取り除く必要があります。

 日本ではその作業を、ごみを出す時に私たちが行っているので、そのために手間がかかると考える方もいらっしゃいますよね。

 では、他の国ではどうなのでしょうか?

 すべての国が同じ方法を取っているわけではありませんが、アメリカやカナダなどでは、ほとんど分別(※注2)せずにとりあえずごみを集めてしまい、その後に施設で選別(※注3)するという仕組みを取っているところもあります。缶、びん、ペットボトルをまとめて回収する場合などです。

 この場合、ごみを出す私たちの手間はかかりませんが、機械選別にしろ人の手による選別にしろ、集めてから選別するための設備と費用が必要となります。

 でもこのような方法は、そもそもごみを出す段階で、人々が「ごみを分けて出す」ルールを守ってくれるとは考えられなかったり、出来なかったという状況があったからこそ生まれたものでもあります。

 日本の場合には、リサイクルなどに必要な「分ける」プロセスを、できるだけ市民にお願いするというアプローチを取っており、それが良くも悪くも成功しているという違いもあるんです。

 また、グラフの中でリサイクル率が一番高いドイツをはじめとするEU諸国では、EUの埋立指令という、基本的には直接的な埋め立てはゼロにしようという規制があります。

 焼却をもともと好まない国が多いということもありますが、埋め立てもだめ、焼却もしないとなると、残るのはリサイクルですよね。そんな背景もあって、EUではリサイクルにかなり力を入れるという形が確立しました。

 同じ埋め立てができないという条件でも、先ほどの話でも出てきたように、焼却技術が向上しリサイクルが後回しになった日本と、焼却を選択しなかったためにリサイクル技術が向上したEU。

 そんな考え方や対策の違いも、このグラフの結果には反映されています。

※注2、3 “分別”と“選別”とは?
ごみ用語として出てくる“分別”と“選別”分別は、ごみを出す人がごみの素材・種類を分けること。選別は、集まったごみのなかから特定の素材、種類を選びとって分けること。ここでは、あらかじめ分けてから出すことが分別、集まったものを分けることが選別として使い分けています。

リサイクルのイメージ写真

リサイクル率とは?

 では、そもそもリサイクル率とはどのようにして出されるのでしょうか?一般的な定義は、以下になります。(※注4)

リサイクル率=リサイクルされたモノの量/もともとあった廃棄物などの総量

 こういった計算上、分母と分子にどんな数字が来るかで、かなり違いが生じますよね。では、分母と分子になる数値は各国共通の定義で導き出されているのでしょうか?

 答えはNO。各国により分母、分子とする数値を決める定義はさまざまで、分母とする値の出し方については、EUでは4つの定義に分かれています。

①缶、びん、ペットボトルなどの主要な資源ごみ(家庭系)だけの場合

②その他の家庭系資源ごみ(例:生ごみ)を含む場合[①+生ごみなど]

③家庭ごみ全体の場合[②+その他の家庭ごみ(可燃ごみなど)]

④家庭ごみだけでなく事業系ごみを含む場合[③+事業系ごみ]

 EUでは、主に②と④が使用されていますが、この4つの定義のうちどれを分母にするかだけでも、それによって数値が違ってきますよね。日本では④を採用しています。

 さらに問題はこれだけではありません。この定義の中でも、下記のようにどの段階のごみの量をカウントするかによっても差が生じます。

A)廃棄物の発生量

B)廃棄物を排出(搬出)した量

C)廃棄物がリサイクル施設に入った量

 分子については、サーマルリサイクル(後程詳しい説明をしますが、熱や電気を回収することと考えてください)がリサイクルされた量に含まれるかどうかでも、その数値は大きく変わります。

 その他にも、リサイクル施設に入った量を、そのままリサイクルされた量としてカウントする場合があります(実際には、その中からリサイクルとして使えるものと使えないものに選別するため、決して、その量はリサイクルされたモノの量とイコールではありません)。

 このように、各国で計算に使われている数値の出し方はさまざまです。

 4つの定義やどの段階での量をカウントするかは特に決まりがなく、国によって異なるため、基本的にここで計算された数値だけを見て比べることは、正確な判断材料にはなりません。

 SNSで話題になったグラフの基であるOECDのデータにも、以下の注意書きがありました。

『地方自治体の廃棄物の定義、対象となる廃棄物の種類、および情報を収集するために使用された測量方法は、国や時期によって異なります』

 ただ、話を聞いた田崎さんによると「①~④の定義の違いによって誤差が生じるとしても、せいぜい10%前後ほどという報告がある」とのこと。

 では、こういった背景を理解した上で、その中でも決して高くはない日本の19%という数字をどう見たらよいのでしょうか。

※注4 環環11月号「リサイクル率の違い」より。詳細はこちら

ここでポイント

その他にも日本の場合、リサイクル量として反映されないものがいくつかあります。
例えば、古紙。自治体が収集するものとは別に新聞店など、事業者が独自に回収した場合、それはごみ排出量にもリサイクル量にもカウントされません。
スーパーなどでのペットボトル回収も同じです(中には、スーパーなどからの使用済みペットボトルの収集を自治体が行っているところもあり、この場合はカウントされます)。
一般廃棄物の排出量、リサイクル量は、あくまで自治体が収集するごみに限定されています。
(国環研ニュース35巻4号「ごみのリサイクル率」より)

リサイクルのイメージ写真

サーマルリサイクルについて

 次に、先ほどからの図で示されている日本の77%の焼却のうち、71%を占める「焼却とエネルギー回収」に注目したいと思います。

 サーマルリサイクルとは、「エネルギー回収」ともよばれ、熱や蒸気などとして回収することです。日本では、発電や施設の暖房、周辺施設への温水供給などに使われています。

 サーマル“リサイクル”というぐらいなので、これもリサイクルのひとつとして考えることはできるのですが、今のところ国の統計の一般廃棄物のリサイクル率には反映されていません。

 もしこれが反映されれば、日本は19%に71%が足された90%と圧倒的なリサイクル率になるのですが、(発電効率が低い施設での焼却までカウントしてしまうという問題もさることながら)このようにしてしまうことの注意点があります。

 サーマルリサイクルは、焼却時の熱量をエネルギーとして利用するわけなので、ただ焼却するよりは有意義なことです。

 ですが、それを理由に焼却を増やしてよいのでしょうか。

 自治体によっては財政事情などにより、手間やお金がかかるリサイクル施設などを減らして、分別せずに燃やしてしまえる大きな焼却施設を作るというところがあります。

 燃やせるすべてのものを焼却してしまうということは、まだ使える、リサイクルできる資源まで分別されずに燃やされてしまっているということ。エネルギー回収をするからという理由が、焼却することへの免罪符として使われかねません。

 廃棄物の処理に関しては、対策の優先順位があります。

 まずは3R(リデュース、リユース、リサイクル)があり、その次に熱回収、最後に適正処理と続き、この順番に考えていくべきという原則論があります。

 環境面、経済面などの理由により、社会決定の上でこの順番にそわない判断も認められてはいますが、燃やせるものはすべて燃やしてしまうという焼却の動きは、この原則論に反することです。

 リサイクルできるものまで燃やし、それをエネルギー回収としてしまうのは大きな疑問点でもあります。

 リサイクルできるものはきちんとリサイクルし、どうしても出来ないものは焼却によるエネルギー回収にまわす。

 それが一番望ましい流れではありますが、もしサーマルリサイクルがリサイクル率としてカウントされた場合には、なんでも焼却でOKといった流れが大きくなってしまう危険性も含んでいるのです。

ここでポイント

焼却処理などによる熱を回収して利用することをサーマルリサイクル(エネルギー回収)といいますが、欧州などでは、リサイクルとは何度も使えるもののことを指し、サーマルリサイクルはあくまで熱を回収しているだけという判断により「リカバリー」と言われ、リサイクルとは差別化されています。
また、エネルギー回収効率が一定水準に満たない場合は「エネルギー回収」としてカウントすることができません。

日本のリサイクル率を上げるには?

 環境省が定めている一般廃棄物の排出量、リサイクル率、最終処分量に関する国全体の目標値では、平成32年度に27%のリサイクル率を目指しています。

 ごみの廃棄物量などは、人口減少や経済停滞の影響により順調に減少していますが、リサイクル率は平成19年から横ばいの状態が続いており、27%の目標を達成するにはより一層の努力が必要です。

 では、もし日本のリサイクル率を上げるならば、具体的にどのような対策をすればよいのでしょうか?

ごみの排出量及び最終処分量(左軸)、リサイクル率(右軸)の推移と平成32年度の目標値のグラフ

国立環境研究所ニュース35巻4号「ごみのリサイクル率」より引用。

 1991年の廃棄物処理法改正以降、これまで燃やしていたものをリサイクルにまわしながら、少しずつ上がってきた日本のリサイクル率。

 紙やペットボトルなどは、すでに高いレベルでのリサイクルがされており、もしこれ以上にリサイクル率を上げるのであれば、「日本は生ごみの対策を進める必要がある」と田崎さんは話します。

 韓国を始めとする他の国々では、生ごみ対策に力を入れており、それがリサイクル率の向上にもつながっています。

 現在、日本では家庭からの生ごみの多くが焼却されています。また、多くの自治体で家庭用堆肥化器具等の購入補助がされていますが、家庭で生ごみを堆肥化しているのはごく一部に留まります。

 堆肥化、あるいはメタン発酵などの方法で生ごみをリサイクルする場合には、生ごみの分別が必要であり、手間はかかりますが、それだけでもリサイクル率は高くなります。

 ここで問題になってくるのは、今の日本の体制の場合、リサイクルを頑張れば頑張るほど、私たちの労力が大きくなるということ。

 でもそれではあまりにも大変なので、例えば、今後生ごみを分別する代わりに、一部の資源ごみは分別せずに回収し、機械選別などで処理をするという方法も考えられます。

 実際にカナダなどでは、ごみを機械で選別する広大な施設を持っており、市民の手間をかけずにリサイクルのための選別を行っているところもあります。

 リサイクル率も上げたい、でも手間はかけたくないとなると、現在の私たちのごみの処理方法から変えるという選択肢が出てくるのです(なお、技術の開発や調節・習得が前提となることは指摘しておきます)。

ここでポイント

日本とカナダ、米国などの諸国とは、そもそもごみの収集と分別の流れが異なります。
日本:市民が分別→自治体が回収→リサイクル・処理 *分別→回収
カナダ、米国:とりあえずざっくり回収→施設で、機械選別(または人が手選別)→リサイクル・処理 *回収→選別
手間はかかるけど選別に費用があまりかからない日本、手間はかからないけどその分の選別費用を負担しているカナダや米国など(ただし、日本も自治体ごとに異なるように、カナダや米国でも州によって異なりますので、全体的な傾向と理解ください)。
ここでは手間か費用かという問題が生じます。

ごみ問題とこれから

 SNS上では、手間をかけてごみ分別しているのに、すべて燃やしてしまっているのでは?という疑問もありました。

 田崎さんに聞いたところ、「基本的には分別された通りに処理がされているはずだが、そういった自治体が全くないとは言い切れない。噂で議論するのではなく、どの市町村のどのごみ区分で、そういうことがされるかを特定して議論すべきだろう。

 リサイクル施設の改修などで、一時的にやむを得ず、そういうことをしている場合もあるので、当該自治体に事情をきちんと聞く必要がある」とのこと。

 まずは自分が住んでいる地域の自治体で、ごみがどのように処理されているかを把握し、きちんと目を向けて知っていくことが大切なのです。

 これまで見てきたように、ひとくちにリサイクル率といっても国によってさまざまな背景、事情などがあり、それを考慮せずに、ただの数字として比べて判断してしまってはよくなさそうです。

 ですが、グラフが表している数字は、多少の注意は要るものの、ある程度の目安にはなるでしょう。

 もしリサイクル率を上げるというのであれば、先ほども言ったように生ごみの対策が望ましいのですが、そのための手間がかかることもきちんと考えないといけません。

 その手間を省くために、何か他のところを機械選別などで楽にすることも可能ですが、そこにはまた費用といった別の問題も生まれます。

 またそのような機械選別施設を導入する場合には、ある程度の規模が必要で、日本の自治体ごとの小規模な単位での処理では、経済的にも得策とは言えません。欧米などのような大規模な選別施設が実現していないのは、そんな日本独自の事情もあります。

 そして、焼却処理がある程度行われるという前提があってのリサイクルの取り組みとなるため、他国に遅れをとっているのも本当のことですよね。

 もしこれを改善するのであれば、今の焼却主義から脱出し、リサイクル施設に費用を割くような体制が必要となり、私たちの協力も必要となります。

 これまでの日本の背景や体制を考えるといきなり変わることは難しいかもしれませんが、私たちがもっとごみ問題について興味を持ち、現状を知って声を上げることができれば、状況はいつだって変わる可能性があります。

 また、今回はリサイクルの話を中心にしましたが、ごみとなるモノを元から断ったり、ごみの量を減らしたりすることも大切です。

 今回の記事をきっかけに、まずはごみ問題やリサイクルについて知ってもらい、考えてみることで、これから私たちがしなければいけないことについて判断してもらえたらと思います。(終)

焼却施設の煙突の写真

[掲載日:2017年11月30日]
取材協力:国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室 田崎智宏室長
資料協力:国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室 河井紘輔主任研究員
取材、構成、文:前田 和(対話オフィス)

参考関連リンク

●環境省「環環11月号」
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201711.html

●国立環境研究所「国環研ニュース35巻4号」
https://www.nies.go.jp/kanko/news/35/35-4/35-4-04.html

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