スティーブ・ジョブズ Apple のAI革命  - TABACO ROAD

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スティーブ・ジョブズ Apple のAI革命 

1985年のビジョンがついに現実に。

 

初代iPhoneの登場より数十年前、Appleの共同創業者だったスティーブ・ジョブズ氏はある会合でパーソナルコンピューティングの将来展望を語った。その内容は今日見るジェネレーティブAIのイノベーションに驚くほど近似している。

1985年のスピーチで、ジョブズ氏はすでに大規模言語モデルがある現代でこそ実現可能な世界を思い描いていた。そして、コンピュータ業界が「絶不調」であることを認めつつ、パーソナルコンピューティングには「とてつもない勢い」があり、遠からず「知的なフリーエネルギー」の時代がやってくると語った。

ジョブズ氏は1990年代のインターネットバブルとその崩壊以前から、いつの日かコンピュータが人間に代わって出典や文献をあたり、過去と現在の世界の天才たちに質問するような時代が来るだろうと予見した。その具体例を示すように、「少年時代のアレクサンドロス大王アリストテレスに師事していたと聞いて、『心底うらやましかった』」と冗談交じりに述べている。

WWDC 2024で発表されたAppleのAI革命

「願わくは、いつの日か次のアリストテレスが生まれたら、そのアリストテレスの世界観をコンピュータに取り込みたい」とジョブズ氏は語った。「そしていつの日か、普通の学生がアリストテレスの記した言葉を読むだけでなく、アリストテレスに質問して答えを得られるような世界が来ればよい。これはそのはじまりだと私は思う」。

6月に開催された毎年恒例の開発者会議「WWDC 2024」で、AppleはAIを用いる各種新機能を発表した。もはや本人に訊ねることは叶わないが、ジョブズ氏も自分の会社がかつてのビジョンに大きく近づいたと感慨深いことだろう。

WWDC 2024ではAppleオペレーティングシステム(OS)やアプリに搭載される各種AI機能の最新情報が発信され、メディアの話題をさらった。顧客中心のイノベーションを重視すると再確認する一方、普遍的かつ一般的な「AI」という言葉を使わず、もっとAppleらしい「AI」つまり「Apple Intelligence」に置き換えて「誰もが使えるAI」を謳った。

AppleのAIまわりのアップデートは多様な製品におよぶ。iPhoneMacBookApple Watch向けの機能にとどまらず、Siri、モバイルアプリ、VisionProのような比較的新しいプラットフォームを含め、ソフトウェアのメジャーアップデートが発表された。

さらに、オープンAI(OpenAI)との新たなパートナーシップ、この提携によりAppleのOS各部にChatGPTを統合することなども紹介された。

これらアップデートの多くが利用可能になるのはことし後半のことだが、ここで問題となるのは「その最大の受益者は誰なのか」ということだ。これらの機能をテコに、AppleGoogleマイクロソフトのようなAIイノベーション先行者に追いつくことができるかもしれない。

AppleとオープンAIの提携がもたらす新たな機能

オープンAIはAppleのハードウェアとブランド力の恩恵に預かることができるかもしれない。そして消費者から見れば、日常生活でジェネレーティブAIを活用する新たな方法が見つかるかもしれない。

フォレスターバイスプレジデントで主席アナリストのトーマス・ハッソン氏は、消費者向けのブランドに関する限り、ジェネレーティブAIの扱いについていまだその最適解を見いだせずにいると指摘する。そしてAppleも例外ではないとする一方、WWDCでは例年通り、カスタマーエクスペリエンスの改善に資する開発者向けの各種ツールが紹介されたことにも言及した。

また、Siriのメジャーアップデートに注目し、Apple端末に搭載された音声AIのイノベーションに拍車をかけるかもしれないと期待を寄せた。

「重要なのは、ブランド各社がAppleの各種端末上で実現できるこうしたカスタマーエクスペリエンスの改善の積み重ねであり、その総和を消費者がどう認識するかということだ」とハッソン氏は述べている。Appleは『盛りすぎ、バズりすぎ』なAIの言葉の使用をかたくなに拒否し、以前から機械学習のような多くの異なるAI技術に投資してきたと強調した」。

Siriの改良に関しては、エージェンシーの関係者も音声インターフェイスへの将来的な影響について思案するところがあるようだ。iPhoneMacBookに限らず、カープレイ(CarPlay)やVisionProに至るまで、各種Apple端末の相互運用性の構築に有用かもしれないと見る向きもある。

また、バイスやアプリを横断して新しいタイプの検索最適化を加速させるかもしれないとの期待もあるようだ。

Appleのハードウェア全体に一貫性を持たせられるものがあるとすれば、それはこの種の音声インタラクションモデルにほかならない」と、VMLでテクノロジー担当バイスプレジデントを務めるクリス・ウェザーズ氏は話す。

「未来を予測するのは難しい。しかし、いま目の前にあるパンくずのいくつかを見て、これから数年後にそれらがたどり着くであろう一点を見つめれば、答えはそこにある」。

Appleの機能を通じてジェネレーティブAIにはじめて触れる人も出てくるかもしれない。ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group、BCG)が2万人の消費者を対象に行った全世界調査によると、35歳以上でジェネレーティブAIツールを使ったことのある人はわずか20%だった。

 

SiriとAIがもたらすアプリエコシステム

AppleのデバイスでAIとやりとりするには、ChatGPTのほかに、新しい機能としてSiriが操作する「App Intents」を使うこともできる。BCGのマネジングディレクター兼シニアパートナーであるマーク・エイブラハム氏によると、今回のアップデートは検索エンジンの使い方だけでなく、アプリ内のバーチャルアシスタントや複数アプリを横断した検索の使い方をも一変させる可能性があるという。

エイブラハム氏はBCGで北米のマーケティング、セールス、プライシングプラクティスの責任者を務める人物だが、「将来的にはアプリそのものが変容するだろう」と指摘する一方、「このようなツールをもっと容易にアプリに組み込めるようになること、それは今後起こりうる最善の方向性のひとつだ」と述べている。

「成否の決め手は、開発者がもっと容易にテクノロジーやオープンAIやそのほかのジェネレーティブAIツールにアクセスできるか否かだ。Appleマイクロソフトと同様にこの分野で多くの賭けに出るだろう。これらのツールをもっと容易にアプリに統合できるなら、それこそが変化だ」。

オープンAIとの契約が、Appleが過去に結んだ契約、たとえばGoogleApple端末のデフォルト検索エンジンにするという契約と比べてどう位置づけられるのかという点も気になるところである。ちなみに、Googleとの契約は現在、米司法省と係争中の反トラスト法違反訴訟でも注目されている。

Appleは将来的にはほかのAIプロバイダーとも連携するのだろうか。先週のブルームバーグBloomberg)の報道によると、AppleとオープンAIの契約には金銭の支払に関する取り決めは含まれていないというが、将来的には何らかの収益分配が行われる可能性も残されているようだ。

AppleがオープンAIを含め、他企業との提携を進めるに伴い、プライバシー上の懸念や安全上の課題など、ジェネレーティブAIをめぐるさまざまな問題によって、Appleが長年維持してきた神がかり的な人気に陰りが生じることはないのだろうか。

答えを出すのは時期尚早だが、Appleは「プライベートクラウドコンピュート(Private Cloud Compute)」の発表を通じて、プライバシーとの新たな向き合い方を示している。

信頼性とプライバシーを巡る新たな挑戦

ガートナー(Gartner)のバイスプレジデントでアナリストのニコール・グリーン氏は、「AppleがジェネレーティブAI関連の能力や提携を拡大するうえで、消費者に信頼されるブランドという同社の高い評判は死活的に重要となるだろう」と述べている。Appleプライバシーとデータ保護へのコミットメントを強調し、同社のAIモデルがユーザーのデバイス上でローカルに実行され、しかもAppleがデータにアクセスすることは決してないと保証した。

また、グリーン氏によると、Appleはこの方針を強化するため、クラウドベースのアプリケーションを使用する企業には、いかなるデータ収集も行っていないことの証明として、コード監査を受けることを義務づけるという。

「現在に限っていえば、Appleはデータの収益化を行っておらず、デバイスの販売に注力している。したがって、この方針は彼らの現在のビジネスモデルと整合性がある」とグリーン氏はいう。

「残る問題は、この方針がオープンAIとの関係にどう適用されるかということだ。Appleは自分たちのやっていることを検証するために、自社のハードウェアをオープンAI以外にも解放するともいっている。これはゲームチェンジャーであり、独特の立ち位置だが、そのすべてをどう監視するのかは、いまのところ不透明だ」。

膨大なユーザーエコシステムを持つAppleは、ジェネレーティブAIとハードウェアの統合を通じて、顧客基盤を効果的に収益化する絶好の位置づけにある。携帯電話に取り込むコンテンツは膨大な量にのぼる。「コンテンツの作成に限らず、その真正性や来歴の証明など、AppleがAIの利用拡大に貢献できる場面は少なくない」とグリーン氏は考えている。

Appleが重視するのは(エンタープライズではなく)あくまでもコンシューマーだ。彼らがどのような形でカスタマーエクスペリエンスの領域にジェネレーティブAIを取り込むにせよ、このテクノロジーの文化的あるいは社会的な普及に甚大な影響がおよぶことは間違いない」とグリーン氏は語った。

 

自社のユーザーに対するAppleのアプローチは、オープンAIのような企業とは大きく異なる。後者の場合、売り込みのポイントはAIモデルの能力が最優先で、AIモデルが実現する機能は二の次になりがちだ。AppleとオープンAIの関係が緊密化するに伴い、シンプリシティ、プライバシー、倫理といったAppleの哲学は、オープンAI独自の文化に浸透していくのだろうか。

現代のアリストテレス(人かそうでないかは別として)でも、まだその問いに答えることはできない。

 

引用記事:

スティーブ・ジョブズの「予言」と Apple のAI革命。1985年のビジョンがついに現実に (DIGIDAY[日本版]) (smartnews.com)