まず、「ZEH(ゼッチ)」について、復習しておこう。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、住宅の「省エネ」化で消費するエネルギーを抑えながら、太陽光発電などの「創エネ」や家庭用蓄電池などの「畜エネ」で、全体として消費エネルギーをプラスマイナスゼロ以下にすることだ。つまり、住宅が省エネ化されたうえに、創エネなどの設備を備えたものとなる。
住宅の省エネ化の基本は、まずは建物の断熱性能を高くして、外の暑さ寒さの影響を受けにくくすること。次に、住宅内で使う給湯器や照明といった住宅設備を省エネ性の高いものにすること。つまり、住宅の断熱性能の高さは、ZEHの基本中の基本でもある。
賃貸住宅への転居意向者に聞いたパナソニック ホームズの調査では、「ZEHの理解度」は、「聞いたことがあり、内容も知っている」が16.2%、「聞いたことはあるが、内容は知らない」が26.2%となり、ZEHについてはそれほど理解が広がっていないことが分かる。
一方で、「建物の断熱性能が高いことによるメリットの理解度」となると、「光熱費削減」については75.2%、「快適性」については74.0%の人が「知っている」と回答するなど、断熱性能のメリットについては多くの人が理解していることが分かった。
ZEHは本来、住宅の断熱性能を高めたものなので、「光熱費削減」や「快適性」のメリットを得られるが、建築コストが一般的な住宅よりも高くなるので、ZEH賃貸住宅の家賃は高くなることがある。そこで「家賃アップ額」が「光熱費削減」と同等であれば、ZEH賃貸住宅を選びたいかを聞いたところ、「選びたいと思う」という回答が45.8%に達した。
ただし、「ZEH賃貸住宅の物件をインターネット等で探す方法を知っているか」と聞くと、「知っている」のは20.8%にとどまった。
約8割が「ZEH賃貸住宅を探す方法」を知らないと回答したが、やむを得ない側面もある。一般ユーザーにとっては、省エネ性能のレベルの違いを把握することは難しいうえ、住宅を販売・賃貸する側も情報を提供する際に省エネ性能を独自に表現することが多いからだ。
実は、住宅の省エネ性能の水準を知る簡単な方法がある。それが、「省エネ性能ラベル」(下図参照)だ。2024年4月からスタートした「省エネ性能表示制度」の一環として、広告などで「省エネ性能ラベル」を表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにしたもの。
エネルギー消費性能は星(★)マークの数で、断熱性能は家マークの数と数字で分かるようにしており、任意ではあるが、年間の光熱費の目安も記載できるようになっている。住宅の省エネ化が一定水準であれば「ZEH水準」に、エネルギー収支がプラスマイナスゼロ以下になるZEHであれば「ネット・ゼロ・エネルギー」にチェックが入る。
ただし、省エネ性能ラベルを表示する対象となるのは、住宅や建築物を販売・賃貸する事業者(物件の売主や貸主、サブリース事業者など)なので、事業者ではなく個人が家主の賃貸住宅では対象にならない。さらに、表示することは「努力義務」となっているので、表示されないケースも多いのだ。
(詳しくは、2024年4月スタートの新制度は、住宅の省エネ性能を★の数で表示。不動産ポータルサイトでも省エネ性能ラベル表示が必須に!? 参照)
では、パナソニック ホームズの調査結果に戻ろう。
この「省エネ性能表示制度」については、「聞いたことがあり、内容も知っていた」のは11.0%とまだわずかだった。次に「省エネ性能ラベル」があると、ZEH賃貸のように環境貢献度の高い賃貸住宅が選びやすくなると思うか」聞くと、61.7%が「思う」と回答した。
一般ユーザーに「省エネ性能表示制度」の理解がもっと深まること、広告をする際にラベルを表示する住宅がもっと増えること、この両輪が回るようになれば省エネ性能にこだわった住まい探しがしやすくなるだろう。広告の際にSUUMOなどの不動産ポータルサイトでも、広告の中にラベルを表示することを可能にしているが、残念ながら「省エネ性能ラベル」を表示している事例はまだ極めて少ない。
さて、住まい選びの際に重視されるのは、予算、立地、広さ(間取り)の3大項目になるが、近年では「住宅の性能」が重視される傾向にある。猛暑が長く続き、リモートワークなどで自宅にいる時間も長くなっている。光熱費や快適性が、以前より気になるのは当然の流れだ。
不動産ポータルサイトの検索項目に、「省エネ性能ラベル」が加わって、簡単に検索できるような状況が待ち望まれる。住宅業界全体で普及に努めてほしいものだ。