「マンション管理適正評価制度」をスタートさせたのは、マンション管理会社の業界団体である「一般社団法人マンション管理業協会」だ。マンション管理業協会に、制度創設の狙いなどを聞いた。
「マンション管理適正評価制度」ができたそもそものきっかけは、管理の質が市場で評価されていないことから、評価する基準をつくって、市場に情報開示していこうということだという。これまでは、そうした評価基準がなかったので、現時点でマンションを購入しようとする人は、不動産会社を通じて、管理規約や修繕積立金の積立額などの情報を入手して、自身で判断する必要がある。とはいえ、専門知識がないとマンションの管理を評価するのは難しいことから、売買の際に管理の質が重視されにくいのが実情だ。国土交通省の調査結果を見ても、「マンション購入の際に考慮した項目」(複数回答)で、共用部分の維持管理状況を考慮した割合は1割程度と低くなっている。
■マンション購入の際に考慮した項目
そこで管理業協会では、2019年に関連団体に呼び掛けるなどして『マンション管理適正評価研究会』を立ち上げた。研究会で検討を重ねた結果、2020年3月に報告書をとりまとめ、その「とりまとめ」を基にブラッシュアップして、評価制度を構築したのが「マンション管理適正評価制度」だ。
一方で、国の政策として、2020年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正が行われ、2022年4月に施行されることとなった。法改正により、国の基本指針に基づいて、地方公共団体がマンションに対して管理の適正化を推進する役割を担い、地方公共団体が適切な管理計画を持つマンションを認定する「マンション管理計画認定制度」が創設されることになった。
これを受けて、「マンション管理適正評価制度」の評価項目も、国の認定制度と齟齬がないように調整され、最終決定に至っている。したがって、2022年4月からは、「マンション管理業協会の評価制度」と「国の認定制度」の2つの制度が始まることになったが、管理業協会で2つの制度を同時に評価することもできる体制が整っている。
国の認定制度の目的は、高経年化したマンションが急増していることから、主にマンションの老朽化を抑制することにある。認定基準についても、管理組合が維持管理を適正に行えるルールになっているか、大規模修繕工事が実施できる費用を積み立てられる計画になっているか、などマンションの維持管理計画を重視した16項目(地方公共団体で独自の認定基準も追加できる)が設定されている。また、認定基準をすべてクリアしたマンションだけが認定される、という制度になっている。
これに対して、管理業協会の評価制度は、マンションの管理に求められる広範な審査項目が30項目設定され、国の認定制度より多くなっている。それぞれの項目はポイント制で評価され、マンションの管理レベルを総合的に判定する形だ。そのため、管理のレベルが高くても低くても評価が出され、評価は6段階(無星~星5つまで)で表示される。
例えば、筆者は住んでいるマンションで、持ち回りの理事長や大規模修繕工事の修繕委員などを経験して、マンションの管理状態をある程度把握しているが、筆者のマンションは、国の認定制度では認定されない可能性が高い。というのも、「区分所有者名簿や居住者名簿を作成し、一年ごとに更新している」という項目で唯一×がつくからだ。一方、管理業協会の評価制度では、おおむね評価基準をクリアしているので、総合判定で「★★★★★」になると考えている。
このように、似ているように見える制度ではあるが、目的や評価方法が異なるので、必ずしも結果が同じになるとは限らないわけだ。特に、管理業協会の評価制度では、管理全般が適正に行われているかの「見える化」がなされるので、管理組合だけでなく、サポートする管理会社にも参考になる指標となるだろう。
では、具体的に評価項目を見ていこう。評価項目は次の5つのカテゴリーに分かれ、それぞれの項目ごとにポイントが設定されている。
■評価内容(5カテゴリー)
例として、1の「管理組合体制」について説明しよう。国土交通省では、管理規約のひな型となる標準管理規約を用意しているが、ペット飼育や民泊などの問題を受けて、必要に応じて改正を行っている。これに準拠する形でその都度管理組合が管理規約を改正している場合、マンション新築当初から相当の期間が経っているのに管理規約を全く改正していない場合など、規約の整備状況によってポイントが変わる設定となっている。
また、3の「建築・設備」では、長期修繕計画についてだけでなく、マンションに義務付けられたさまざまな「法定点検」(エレベーターや消防設備の点検や水質の検査など)を行っているかといった、国の認定制度にはない項目も含まれている。ほかにも、4の耐震性の審査項目や5の緊急対応やコミュニティ形成などの審査項目などもあり、管理の質をうらなう広範な項目が審査対象となる。
審査結果は5つのカテゴリーごとにポイントが加算され、最後に総合評価を合計ポイントと6段階(無星から★5つまで)評価で表示される。総合評価でマンション自体の管理レベルがわかるだけでなく、どのカテゴリーが弱いのかなどの傾向もわかる仕組みだ。
■等級評価
総合計得点
90~100点 特に優れている ★★★★★
70~89点 優れている ★★★★☆
50~69点 良好 ★★★☆☆
20~49点 改善が必要 ★★☆☆☆
1~19点 管理に問題あるが、情報開示あり ★☆☆☆☆
0点以下 管理不全の疑いあり ☆☆☆☆☆
※項目によってはマイナスのポイントもあるので、総合評価でマイナスになる場合もある
評価された結果は、管理業協会の「マンション管理適正評価サイト」で公開される。ただし、マンションごとに異なるペット飼育や民泊の可否などについては、情報を開示するかどうかを管理組合で選べるようになっている。
管理組合が「マンション管理適正評価制度」を利用するには、まず管理を委託している管理会社等に相談し、おおよそどういった評価になるか事前評価をしてもらうことから始まる。その結果を基に、申請するかどうかを総会の決議で諮る必要がある。申請するとなれば、マンション管理業協会指定の講習を修了した管理業務主任者やマンション管理士に管理状態を評価させ、評価結果の登録を行う流れとなる。
この際に、登録料5500円(2022年度は無料)と評価・申請手数料(管理会社や評価者によって異なる)が必要となる。なお、1年ごとに更新する必要があり、更新されれば新しい評価の情報がサイトに公開される。(更新されない場合、一定期間でサイト上の表示は消される)
さて、4月からスタートしたばかりの制度だが、今後はどのように展開していく予定なのだろう。マンション管理業協会によると、管理組合の総会は基本的に年に1回の開催なので、評価制度への申請は徐々に増えていくと想定しており、総会の設定が多い5月、6月を経て7月以降に申請が増えてくると見込んでいるという。
申請数が増えて情報開示が進めば、住宅市場でマンションの管理評価が市場価値に反映されることが期待される。このほか、長期的には、維持管理の良いマンションの損害保険料の割引や共用部分の修繕に関わる金融機関の融資の優遇などがインセンティブになることを期待しているという。
管理業協会の評価制度も国の認定制度も、管理が良好なマンションであることを世の中に知らせる効果がある。が、管理組合の理事会は一般的に持ち回りで担当するので、費用を負担して申請しようと動くには、高いハードルがあると思われる。制度が普及して、現実的に住宅市場で売りやすくなったり高く売れたりするといった、強いインセンティブが必要になるだろう。
今後、評価されるマンションが増加し、購入を検討する際に情報が入手しやすくなれば、影響度が増していくことが考えられる。長期的な視点で見守りたい。