今から半世紀ほど前、洋光台駅周辺は、横浜市と日本住宅公団(現UR都市機構)により賃貸住宅、分譲住宅や一戸建てなどが立ち並ぶ住宅地として開発されました。駅前には高層棟、スーパーや商店などがあり、その周辺にずらりと低層棟、一戸建てが広がっていて、その街並みは映画『シン・ゴジラ』にも登場しています。
そんな洋光台団地は、駅前の高層棟を中心とした洋光台中央、中層5階建てを中心とした洋光台北、洋光台西というUR賃貸住宅団地として1970年に誕生していますが、開発から半世紀、入居者の高齢化と共に建物自体も年を重ねています。そこで、UR都市機構が依頼したのが建築家の隈研吾氏です。言わずもがな、新国立競技場などを手掛けた日本を代表する建築家。なんと横浜生まれ・横浜育ちで、洋光台団地が建設されているのを電車の窓越しに見ながら通学していたという逸話もあるとか。そんな隈研吾氏が佐藤可士和氏に声をかけるかたちで参画してもらったのが、この「団地の未来プロジェクト」です。
今回、プロジェクトを担当したUR都市機構で東日本賃貸住宅本部神奈川エリア経営部ストック活用計画課の柴田岳さんによると、隈研吾氏と佐藤可士和氏の監修により、団地の持つ「価値」を再発見できたといいます。
また、柴田さんは、「お二人は、プロジェクト開始当初より、団地のことを、『人が集まって住まう』ということの良さ、建物と建物のあいだのゆとり、土地の余白を持った『価値のあるものだ』と高く評価されていました。コロナ禍が起きた今、半屋外空間でゆるく人々が集える場所があるってこんなにも豊かなことなんだ……と改めて実感します」といいます。
今回のリニューアルプロジェクトのすごいところは、隈研吾氏も佐藤可士和氏も、今ある団地を美しく見せる、広場を活用する、再活用する、コミュニティを活性化するといった点に注力している点です。建築家やクリエイティブディレクターの色が全面に出てくる建築物やデザインとは違って、「住む人の居心地のよさ」を全面的に追求している気がします。プロジェクトでリニューアルした洋光台北団地がどのように変わったのか、もう少し見ていきましょう。
こうして見ると、団地ってここまでオシャレになれるんだなあ、と思う人も多いことでしょう。実際、建築やデザインが好きな人の見学も多いそうです。想像していたよりもずっとキレイで、筆者もとても感動しました。神は細部に宿るといいますが、団地の良さを最大限見抜き、細部をバージョンアップすることで、今の暮らしに最適化されています。5階以下には基本的にエレベーターはありませんが、建物の室内はリノベーションにより新しくなっていますし、部屋の広さとしてもシングルはもちろん2人家族なども暮らしやすいことでしょう。
「手前味噌ですが、最近、この団地に引越してきたUR都市機構の若手職員がいるんです。団地の暮らしがすごく新鮮に映るみたいですね」(柴田岳さん)
取材日はイベント実施日ということもあり、団地を行き交う人は年配者から若い人、子育て世代とさまざまでした。思い思いにベンチでのんびりおしゃべりしているのを見ると、なんともいえない愛おしさがこみ上げてきます。
「洋光台中央団地のアーケードの2階には、UR、有識者、洋光台まちづくり協議会、行政が連携し、洋光台の情報発信基地として『洋光台まちの窓口(まちまど)』を立ち上げました。女性スタッフを中心に、団地やその内外に暮らす人たちの輪が自然と広がっています。団地の良さは『人が集まって住まう』こと。人と人の交流が生まれることでもあります。この『まちまど』ではこうしたゆるいコミュニティを生み、育てる仕掛けをしているんです」(柴田さん)
先述したURの若手職員も「まちまど」のお二人を通じて、地域に溶け込んでいるようです。
「駅周辺にスーパー、コンビニ、ホームセンターなど買い物施設も集まっているし、生活も便利です。こうして顔なじみができ、会話があるのも当たり前になりましたね」とうれしそうです。
青山さんも伊藤さんも洋光台地域にお住まい。今回のプロジェクトで、見た目が大きく変わった団地をより愛着のあるものへ、つながりの感じられる街へ、と日々、ゆるやかに活動しています。
「イベントにもサークルにも興味はあるけれど、地域の方々に情報が届いていないということも多い。『ココでこんなイベントをやっていますよ』とゆるく背中を押してあげることが、豊かなコミュニティにつながると思っています。コロナ禍を経て、集いたい、話したい・聞いてほしいという思いはより強くなったのではないでしょうか」と青山さん。
筆者は洋光台団地の近くで生まれ育ち、友人が暮らしていた街なので、懐かしさと新鮮さ、うれしさがこみ上げる取材となりました。今後10年で、高度経済成長期に大量に建てられた築50年~60年を迎える建物が急増することになります。たくさんの建物が急速に老朽化していくなかですが、単に「古いもの」「陳腐なもの」と壊されるのではなく、最大限活用され、洋光台団地のように心豊かな暮らしの舞台となることを願っています。
●取材協力
洋光台団地