最初に『花のち晴れ~花男 Next Season~』のあらすじを簡単にご紹介しましょう。
道明寺司率いるF4が卒業してから10年後、かつての輝かしさを失いかけた名門「英徳学園」。大手化粧品メーカーの令嬢だった主人公・江戸川音(えどがわ・おと/杉咲花)は、超セレブが集うこの学園に通っているが、親の会社の倒産をきっかけに貧乏生活に転落。とある事情で“隠れ庶民”として身分を隠しながら高校生活を送っていた。
ひょんなことから、落ち目になった学園を再興するべく奮闘している、神楽木ホールディングスの御曹司で、C5のリーダー神楽木晴(かぐらぎ・ハルト/平野紫耀)と出会う。“第二の道明寺”として、また、学園のカリスマとして人気を誇る晴だが、じつはメンタルが弱い“ヘタレ男子”。そんな晴と音は互いに惹かれ合うが、パーフェクトな婚約者・馳天馬(はせ・てんま/中川大志)がいる音の気持ちは揺れ動き……。
クライマックスまで残すところあと3話。“自分らしく生きる”をテーマにした痛快青春ラブコメディーは、今夜放送の第9話でまたも大波乱が!運命が再び音と晴を引き寄せ……!登場人物たちの恋模様にハラハラドキドキ……ますます盛り上がりをみせるストーリーから目が離せません。
そんな第9話のリハーサルがまさにこれから行われようとしている直前、横浜のスタジオを訪問。主人公・音と、晴の部屋について、どのようなところにこだわっているのか、美術スタッフさんに教えてもらいました。
まずは、音の部屋から。杉咲花(すぎさき・はな)さん演じる音は、母親・由紀恵(ゆきえ/菊池桃子)とアパートで二人暮らし。生粋のお嬢様である母親は、裕福だったころの暮らしが忘れられないため、しっかり者の音がアルバイトをしながら家計を支えています。
「アパートについては、具体的な家賃設定はないのですが、ロケハンを行い外観から先に決めました。音は都心の学校に通っている設定なので、ちょっと都心らしさが見え隠れするようなところを意識しました」
こうした背景を踏まえて、音の部屋づくりには次のようなことを意識したそう。
ちなみに、大手化粧品メーカーの社長令嬢として何不自由ない暮らしをしていた音が、アパートへ引越してきたのは半年前。その時間的な流れもセットに反映させているのだとか。
「ここに住んで半年なので、家の美術セットにしてはさっぱりした飾りにしています。あえて引き算することで、過剰に飾ることを避けて、『この半年間、音はどういう生活をしてたんだろう』と想像しながらつくりました」
「音のお母さんは、生粋のお嬢様で夫の倒産による貧乏暮らしを受け入れられていないというか、まだセレブな生活を引きずっているという設定です。その心理描写をソファに込めています。このソファのデザインをどうするかについては、かなり悩みました。当初、中世フランスの宮殿にありそうな、ロココ調のソファを検討していたのですが、衣装合わせで由紀恵さんのキャラクターが固まっていくなかで、ロココ調だとファンタジー感が強すぎるかなと。なので、もう少し落ち着いたトーンで、大人っぽくて品の良さがあり、かつ誰が見ても高級感が伝わるであろうデザインということで、こちらの絢爛豪華なソファにしました」
植物や鳩の柄が独特なこちらのソファは、英国老舗高級百貨店のハロッズをはじめ限られた高級専門店へ商品を提供する「DURESTA」というブランドのもの。ソファは十分な時間をかけて選んだそう。
続いて、音の部屋へ。
「基本的にインテリアは、お母さんとリサイクルショップに行ってかき集めた想定です、音が『かわいい』って思いそうなアイテムをところどころに飾っています。音は、自分が置かれた状況をよく理解していて、無駄遣いはいけないという意識のもと暮らしているので、極力シンプルに、ガーリーになりすぎないようにしました。同じ貧乏設定でも、『花より男子』の主人公・牧野つくしの部屋はもう少し物があるのですが、それにくらべると音は物がかなり少ない。それは、もともと裕福な家庭から急転落して間もない江戸川家の家庭事情と、そんな貧乏な暮らしを受け入れた、音の覚悟や潔さを表現したかったからなんです」
とはいえラブコメディーとあって、シリアスになりすぎないように、貧乏暮らしのわびしさのなかにもチャーミングな要素をちりばめるなど、部屋の空気感づくりにおけるあんばいはかなり試行錯誤したそう。
「音を演じる杉咲さんの醸し出す、かわいらしさは残したほうがいいかなと思って、壁は古いアパートならではの古めかしい風合いを取り入れつつ、カラフルなベッドカバーで色味を入れたり、カーテンはネコの柄にしてみたりしました。あと、もうちょっとお金があったらいろいろ飾っちゃう子なのかなって思って、動物の雑貨なども部屋のところどころに見え隠れするように置いています。音の部屋については、完全に貧相な空間に演出してしまうと本当にかわいそうな感じになって、作品のトーンが下がってしまうので、貧乏ななかにもかわいらしさを出したいと思ってつくりました」
また、「音のパーソナリティはキッチンで出しています」とのことで、お金がないなかで頑張ってやりくりしていることが伝わるようにつくり込んでいるそうです。
「最初は予定していなかったのですが、キッチンの壁面をコルクボードにしてDIY感ある棚を設置することで、いろいろ飾れるようにしました。こうすることで、半年間の生活が伝わるかなと思ってます。ちなみに、美術スタッフ的に頑張っているのは、“豆苗の育ち具合”。地味なところかもしれませんが、時間的なつながりに違和感が出ないように、撮影スケジュールに注意しながら、高さがそろうように頑張って管理してます。これが結構大変です(笑)」
音の部屋の次に、超お金持ちな神楽木晴の部屋をのぞかせてもらいました。
晴の部屋にも、キャラクターのパーソナリティを感じさせる仕掛けが。
「晴は超お金持ち一族の御曹司ですので、部屋はゴージャスにする予定でした。ただ、外観やダイニングなど住まいの一部は、実在の建物を借りて撮影することになり……それを見た瞬間に豪華すぎてヤバイな…って(笑)。晴の部屋もこの邸宅に見合うようにしないといけないと思って、まずは部屋全体が一目で豪華だと思える内装にしました」
「床から腰高くらいの高さに張る別仕上げの壁『腰壁』は、高級感が伝わるようにチョコレートブラウンを使いたかったので、それにあう壁色は試行錯誤しました。結果的に、グレーがかったブルーがしっくりくると思い、オリジナルで調合しました。また、腰壁の縁飾り(モールディング)は意匠性があって空間の格式を上げる要素なので、晴の部屋の縁飾りは幅広にしています。腰壁の高さは、晴を演じる平野紫耀(ひらの・しょう)さんの身長にあわせて、ヨリ気味で撮影したときにブルーの壁だけ、とか腰壁だけにならないように、両方バランスよく映り込むほうが見栄えが良いので調整しています」
壁色については、前シリーズの道明寺司の部屋が“攻撃的な赤”だったことから、今回はへタレで子どもっぽい晴のキャラクターも鑑みて、対照的な寒色系のブルーを採用したそう。
「友人が集まるソファスペースには、ボルダリングの壁があってかなりカラフルな印象になるので、ベッドスペースはどっしりとしたお金持ち感を出すためにトーンを落としたデザインにしました。飾っている絵画やデザインパネルは、お金持ちならではの豪快でダイナミックな感性を表現しています。インテリアやオブジェは晴ではなくお父さんが選んできた想定なので、渋くて落ち着いたデザインを基調としています」
「とにかく大きいキングサイズベッドは、恋や家柄のプレッシャーに悩む晴が悶々(もんもん)とする場所。飛び込んだりゴロゴロしたりするシーンもあるため、演技の動きや画角、背景に映り込む壁とのバランスも考慮して、高さのあるヘッドボードをセレクトしました」
ちなみに、晴の部屋をデザインするにあたっては、国内外の洋館の写真集を10冊以上購入してイメージをふくらませたそう。こうした細かな美術スタッフさんのこだわりから、ストーリーには出てこないバックストーリーも想像できそうです。
今回のドラマでは、「貧乏庶民」と「お金持ちセレブ」の生活、それぞれが対照的に描かれていますが、部屋のつくりこみにはセオリーがあるそうです。
「まず、部屋の空間密度が違います。例えば、豪邸の空間をつくるうえでは、とにかく無駄に物を置かないことが鉄則。広い空間って、つい置物や家具で埋めたくなるんですが、“でかい空間にぽつん”は美術スタッフの合言葉です。“埋めないことが飾り”っていうのは豪邸ならではかもしれません。一般的に貧乏な家の設定の飾りのときは、ところ狭しと物を置き、ごちゃつかせて飾りこむときが多いです。そういう意味では、物が少なくてすっきりと片付いた音の部屋は元令嬢の面影を残しているといえるかもしれません」
もちろん家そのものの広さはどうにもできませんが、ちょっとでもゴージャスな雰囲気を演出したいなら、“空間の密度”を低くするといいかもしれません。また、“実際に暮らす部屋”とは異なる、ドラマのセットならではのデザインのこだわりについて、次のように教えてくれました。
「出演者の映像や作品には必ず目を通しています。役者さんの目線の高さや髪色のような見た目の情報はもちろんですが、できるだけその役者さんのもつ雰囲気とか立ち居振る舞いも観察するようにしています。
役者さんの醸しだす雰囲気やしぐさや姿勢など、芝居のなかでできるだけそのキャラクターの魅力として自然に出るように。それが結果としてキャラクターに空間がなじむということなので、そのあたりを鑑みながらデザインしているつもりです。
…ってここまで語っておいて何ですけど、僕個人としてはあまり美術に注目してほしくないんです(笑)。あくまでも芝居の背景ですので、さりげなく存在するものでありたい。ただ、作品をちゃんと見てもらえるように、説得力のあるデザインに仕上げたいとは思っています」
最後に、美術スタッフさんならではの“今後の見どころ”について聞いてみました。
「第9話から、それぞれのキャラクターが大きな決意をもとに、一皮むけていきます。特に晴は、急激な成長ぶりを発揮。ちなみに、7話まで開運グッズが陳列されていた棚には、幼少期は自己啓発本や図鑑が置かれていましたが、成長とともに移り変わる晴の心理状況を表わすバロメーターでもあります。8話の放送で、棚の上の開運グッズは金の豚だけになりました。この棚がこれからどう変化するのかも、注目してもらいたいです」
『花のち晴れ』の世界観を引き立てる、音と晴の部屋のインテリア。細部にわたり考え尽くされていることが分かりました。役者さんの演技はもちろんのこと、美術スタッフさんのこだわりポイントにも意識を向けてみると、作品をより一層楽しめそうです。