小学5年生の男の子と2年生の女の子がいる4人家族のYさん宅は、約61m2の1LDK。子ども2人で、しかも男女となると、部屋数を優先するのが一般的だが、「家族が長く過ごすリビング・ダイニング空間を広くしたい」との考えから、もともと住んでいた2LDKのマンションを1部屋なくすかたちにリノベーションしたのである。
「このマンションは結婚と同時に新築で購入したもの。もとの間取りのリビング・ダイニングは10畳足らずで、2人暮らしには十分な広さだったが、子どもたちが生まれて大きくなってくると狭さが気になるようになりました。ダイニングテーブルを置いてしまうと余計に狭いので、ちゃぶ台のような低いテーブルを置いて生活していました。食器の上げ下げにはいちいち屈まなくてはならず、腰への負担が大きくて。ダイニングテーブルで食事をしたいというのがリノベーションのきっかけだったんです」と妻は言う。
現在のリビング・ダイニングは14.5畳とゆったり。キッチンの近くには念願だった大きめのダイニングテーブルを置くことができた。リビング側には3人掛けのソファを入れているが、それでもまだ家族全員で寝転べるぐらい広い。
そんな開放的な空間で、異彩を放つのが2つの勉強机だ。一つは長男、もう一つは昨年、小学校に入学した長女のもの。勉強という機能も付加して、多目的に使われているのがYさんのリビングなのだ。
例えば、平日は仕事から帰ったお母さんが晩ごはんの支度をする間、子どもたちは机で宿題をして、ソファのお父さんはパソコンでメールのチェックをするというのは日常的な光景だ。休日なら、子どもたちが本を読んだり、iPadでゲームをしたりする傍らで、お母さんが新聞を広げ、ダイニングのお父さんはスマホでニュースやSNSを閲覧ということもある。就寝以外のほぼすべての時間をリビングで過ごすのが、Yさんファミリーのライフスタイル。部屋数を絞ってリビングを広くしたからこそ、同じ空間でそれぞれの時間を楽しむ「リビ充な暮らし」が満喫できるというわけだ。
それにしても、なぜ、わざわざ机をリビングに進出させたのだろう。
「分からないときにすぐに教えられるというのもありますが、一番の理由は家族で過ごす時間を増やすためですね。うちは共働きなので、平日に子どもたちと過ごす時間は寝るまでの数時間しかありません。それに、子どもはいつか巣立っていくもの。なんだか寂しいなと思って。机がリビングにあれば、勉強しているときも一緒にいられる。子どもが小さいうちはできるだけ家族みんなでいられたらいいなと思ったんです」(妻)
会話はなくても一つの空間にいれば、お互いの気配は感じられる。子どものちょっとした変化にだって気づけるだろう。一緒にいる。それも家族のゆるやかなコミュニケーションなのだ。
もちろん、小学生の子どもたちは自立心が芽生え始める年ごろ。この先、「個室が欲しい」と切望されることもあるだろう。そのときに備えて、リノベーションでつくられたのが縦に細長いユニークな居室空間だ。
この部屋は寝室であり、収納であり、子ども用スペースでもある。こちらもリビング・ダイニング同様に、多機能仕様なのだ。
玄関側に位置する寝室は3畳分とコンパクト。シングルベッドを2つ並べて、家族全員で寝ているそうだ。
もっとも、4人で寝るにはそろそろ狭くなってきているため、あぶれた人は布団で寝るのがルール。「布団で寝るのはだいたいお父さん!」とか。
寝室につながる位置には、タンス4つを並べたウォークスルー収納をレイアウト。家族全員の衣類をここに集めている。洗った衣類をたたんでしまうのは面倒な作業だが、ここで一気に済ませられるから効率的だ。
造り付けのクローゼットにあえてしなかったのは、可変性をもたせるため。タンスの位置を変えれば、寝室を夫婦の個室として使うことも可能というわけだ。
そして、「将来、子どもたちの個室に」と考えられているのが、ウォークスルー収納から続く子ども用のフリースペースだ。現在は、本棚と長女のピアノが並び、おもちゃや学校でつくった工作など物置き的に使われているが、
「いずれ二段ベッドをパーテーション代わりに置いて、上の段と下の段はどちらか一方から入れるようにすれば、小さいながらも個室にできます。出入りのことを考えて、リビングとの間には引き戸を2つつくってもらいました」
聞けば、壁の位置も二段ベッドの長さに合わせて決められ、結果、リビングをより広げることができたそうだ。
こうしたYさんの合理的な発想は、キッチンにも活かされている。元々の2LDKの間取りでは、約60m2の住戸に対してキッチンは約3.5畳と広め。対面式のスタイルも子どもが小さいうちは目が届いてよかったが、大きくなってくると意味がないように感じられたのだとか。
「対面式は食事の支度や後片付けをしながら家族でコミュニケーションが取れるのが魅力と言われていますが、私は集中して家事を済ませたいタイプ。すべて終わらせてからリビングで家族と話したり、くつろいだりするほうがいいなと感じていたんです」(妻)
そこで、リノベーションではキッチンを壁付けの独立タイプに変更。以前より小さくし、その分、リビング・ダイニングにスペースをまわして今の広さを生み出すことができたのだ。
立地や環境など住まい選びでは優先順位を決めることが鉄則と言われるが、間取り選びもしかりだ。家族にとって一番大切なものはなにか。
Yさんが実践する「リビ充」という生活のスタイルは、コンパクトな住まいであっても楽しく快適に暮らせることを教えてくれた。