HEMS(ヘムス)とは、自分の家でどれくらいのエネルギーを使っているのか、モニターやスマホなどで手軽に確認できるシステム。照明など家電のオンオフをしたり、エアコンの設定温度を変えたりといった機能もあり、上手に活かせば省エネ、つまり電気代やガス代の節約につなげられる。注文住宅や分譲マンションなど新築住宅を中心に導入が進められており、2030年までには全世帯に普及させるのが国の目標だ。
しかし、ここで疑問。エネルギー消費の状況が分かるだけで、人はちゃんと省エネできるものなのだろうか?
今日はどれくらい電気を使っているのか、去年と比べてどうかなどがモニターを見ればひと目で分かり、その場でエアコンの設定を変えたりもできる。はじめのうちは物珍しくて一日に何度もチェックし、こまめに室温のコントロールをしたりするだろう。でも、そのうち面倒になったり飽きたりしそうだ。ダイエットだって、最初のうちはこまめに体重計に乗って食べ過ぎにも気をつけたりするが、だんだんと面倒になって、気がついたときには体重計は部屋の隅でホコリだらけ。身に覚えのある人は多いだろう。
面倒くさがりで、飽きっぽい。そんな人でも省エネ効果を出してしまう「HEMS」を開発中なのが北海道ガス(以下、北ガス)。電気などエネルギーの消費量だけでなく、「部屋の熱」に着目して省エネ効果を上げる北ガス独自のHEMSなのだが、ほかに心理学や行動経済学の視点も取り入れ、楽しみながら省エネしてしまう仕掛けがされているという。この「北ガス版HEMS」とはどんなものなのだろう。
北ガス版HEMSが部屋の熱に着目した理由には、北海道ならではのエネルギー事情がある。
「冬の寒さが厳しい北海道では、暖房に利用するエネルギー量が関東の約3.7倍。夏のエアコン消費分が少ないとはいえ、年間エネルギー量の合計は約1.6倍にもなります。省エネを実現するには、以前から取り組まれている電力の省エネに加えて、暖房に使われるエネルギーをいかに減らしていくかが大きな課題でした」(北海道ガス株式会社スマートエネルギー推進部長・栗田哲也さん。以下同)
北海道では、冬になると24時間ずっと暖房をオンにしている家も少なくない。その場合、使っていない部屋や、家族が寝室にいる就寝時間帯のリビングが必要以上にポカポカになっていることも。もっと効率的にエネルギーを使えれば、省エネ効果は高めることができるはず。
「就寝時のリビングや、日中に窓から日差しが入って室温が上昇しやすい部屋、不在の時間帯など、暖房エネルギーを減らせる余地は多くあります。よりきめ細かな制御をすることで、省エネを実現できると考えました。ただし、快適性は維持しなければなりません。そこで、部屋の環境を細かく調べる『住環境マルチセンサー』を導入。部屋の温度、湿度、照度、CO2濃度、人の有無などを測定して、そのデータを分析。それぞれの家庭にぴったりの暖房の自動制御と省エネアドバイスができるようにしました。ここまで詳細な住環境データを利用するHEMSは、他に例がないのではないかと思います」
HEMSを導入しても飽きてしまい、モニターをチェックしなくなる。その課題をクリアするために取り入れたのが「プッシュ通知」。部屋があたたまり過ぎると「設定温度より+2度以上の差があります!」と通知されたり、就寝時間帯でリビングに人がいないのに暖房がオンになっていることがセンサ検知で分かったら、モニタの画面には「就寝中も暖房中?タイマー設定を使ってみましょう」といった、省エネへ誘導するプッシュ通知があらわれる。さらに、通知画面にはタイマー設定ページへのリンクも張られているので、設定も簡単。
省エネへ行動をするようアドバイスするだけでなく、省エネをするとほめてくれたり、他の世帯と比べた省エネ成績を教えてくれたり、省エネしたいという気持ちが自然に芽生え、行動するよう考えられている。
現在、札幌市内の一般家庭100世帯がモニターとなり、省エネランキングなどで楽しみながらHEMSでの省エネを体験している。
モニターとして参加している札幌市のAさんは、建売住宅を購入した際に、エコジョーズと、ガスで発電するシステム「コレモ」を導入。もともと省エネ意識の高いAさんだが、省エネのためにほかにできることをと考えてモニターに応募したそうだ。
「以前は部屋の設定温度を、子どももいるし高めのほうがいいのかなと思い22度にしていました。でも、HEMSを使ってみたら快適な室温がきめ細かくコントロールされるので、実はわが家は19.5度くらいでも寒いと感じないで暮らせるという発見がありました。ランキングも楽しみだし、ガス代や電気代が安くなりそうでうれしいです」(Aさん)
今、自分の家の光熱費やCO2排出量が何位なのかがリアルタイムで分かるのは楽しいし、「よし!順位を上げてみせるぞ」と省エネへのモチベーションも上がりそう。飽きっぽい筆者でも、プッシュ通知に励まされて続けることができそうだ。
北海道ガスでは、モニター100世帯が1年間、HEMSを使用して得られたデータから、どんな言葉でアドバイスをすると行動に移してもらいやすいのか、見やすい画面はどういうものなのかなどを検証。その結果をもとにより使いやすく効果のあるシステムへ更新し、2018年の商用化をめざしているそうだ。