親子にとって、貴重なスキンシップの場でもあるお風呂。だが、家庭内での事故のうち、浴槽などで溺れてしまい、命を落とすケースは実は少なくないという。
「厚生労働省の人口動態統計でも分かるとおり、子どもが命を落とす事故のうち、少なくないのが溺死です。長年、統計をとっていますが、この傾向は変わっていません」と教えてくれたのは、ミサワホーム総合研究所で顧問を務める栗原潤一さん。
実は、“浴槽に水を残して使う「残り湯」が危ない!”というニュースが続いたため、一時期よりも残り湯をする人が減ったものの、2011年の東日本大震災をきっかけに、災害対策として浴槽に水を残している家庭が増加し、まだまだ溺死が多いのだという。溺死事故の発生場所は、家庭内では浴室が多いという。
「もともと、子どもは頭が大きく、重心が高い。あわせて筋肉も未発達なので、大人よりもバランスを崩しがち。そこに10cmでも水が残っていれば、あっという間に溺れてしまうのです」(栗原さん)
そういえば、前回、ご登場いただいたSafe Kids Japanの太田由紀枝さんも、「洗面器やベビーバスで溺れる事例も報告されています。大人からすると顔を持ち上げればいいのではと思うかもしれませんが、子どもの筋力では、上体を起こすことができないんですよ」と話していた。あわせて、流れる水が好きな子が多いことも教えてくれた。
「お風呂でもトイレでも、スイッチやレバーを押す→水が出る→渦をまく→流れる、という一連のアクションによって変化が起きる、というのは子どもにとっても何よりおもしろいもの。かっこうの遊び場でもあるのです」(太田さん)
そういえば、筆者宅の息子も1歳ごろ、やたらお風呂の「自動湯はりスイッチ」を押し、お湯を掛け流し状態にして遊んでいた。メーカーにチャイルドロックの有無を問い合わせたが、「ロック機能はない」と返答された記憶が……。今、振り返ってみると、あの時浴槽に栓がしてあればお湯がたまってしまい、溺れる危険があったのかもしれない。ただ、こうした子どもの行動特性を知っておくことが、まずは家庭内事故予防の一歩になるように思う。
対策としては、やはり浴槽にお湯や水を残さないこと、浴室に子どもが入れないように、面倒でも浴室ドアに施錠しておくのがいいという。
「浴槽のふちの高さが、およそ50cm程度あれば、のぞきこんで転落、溺れることは少ないのですが、基本的には子どもが入れないようにしておくのが望ましいでしょう。浴槽のフタのうえに乗って遊び、浴槽に落ちてしまい溺れたというケースもありましたし、浴室の床はつるつるとすべりやすく、硬いタイルであることも多いので、浴室での転倒事故も危険なんですよ」と栗原さん。
浴室のドアにカギがついていない場合は、外側上部に簡易の補助錠をつけておくのがいいとか。取り付けるのは面倒だが、子どもが理解するまでの、ある一定期間だけだと思って対策を講じたいもの。ちなみに、浴室に手すりがあるのは高齢者だけでなく、大人や子どもの安全対策にも有効だそう。子どもを抱いて浴槽内で転倒したときなどに、自然と手のいく場所に丈夫なものがあると、支えになるのだとか。
見落としがちなのが、トイレと洗濯機だ。前述したとおり、子どもによっては、水を流したり、ぐるぐるまわる渦に興味しんしんの子もいる。
「便器をのぞきこんでいて、頭が抜けなくなったという事例もありました。鼻と口元がおおわれてしまえば、便器での溺死の危険もあります。ほかにも、二槽式洗濯機の洗濯槽を見ていてバランスを崩し、溺れたというケースも。洗濯機はフタをして、まわっているときはロックがかかるものを選んで」と太田さん。トイレも浴室と同様、外側上部に補助錠をつけ、子どもだけで入れないようにしておくのがよさそうだ。
「住まいを選ぶときに、子どもの安全対策を重視する人はいません。だからこそ、住宅設計者があらかじめ対策を講じておかないと」と栗原さん。
とはいえ、住まいを選び、そこで暮らすのは私たち自身だ。小さな子どもがいる家庭であれば、予算や徒歩分数などのスペックとあわせて、「子どもの安全対策がなされているか」という視点で、住まいを検討してみてほしい。住まい・製品選びをするときに「安全対策」にまで考えがおよぶ人は少ないだろう。また、実際に住んでから、もしくは子育てしながら「危ないな」と気がつくことのほうが多いはず。子どもの興味や成長にあわせて、適宜、対策をとり、ひとつでも不幸な事故を減らしていきたい。