シェアビレッジがあるのは、秋田県五城目町という小さな町。秋田県といえば高齢化率や人口減少率といった、ややさみしいニュースで耳にすることが多いが、今、この五城目町には、このシェアビレッジをはじめ、新たな移住者がやってきていて、にぎわいをみせているという。
「村民はいつでも自分の村に行き、古民家で暮らしを体験できるというコンセプトや、年貢や一揆、寄り合いというネーミングなどが、インパクト大だったようです。あわせて“村長”が各地で講演したり、視察が訪れたりしていくうちに、ジワジワと村民が増えていったかたちです」と話すのは、古民家の家守をする半田理人さん。地元秋田県出身で、もともと村民だったが、現在はスタッフとして「シェアビレッジ」に関わっている。
そう、現在のシェアビレッジ村民はなんと1667人にものぼるという! 村民の多くは20代〜30代半ばが中心で、首都圏など都市部に在住、男女比でいうとやや女性のほうが多いそう。
「もともと、この築130年超にもなる古民家を今後100年先に残すために、ということで村長がはじめた企画です。この古民家の姿そのものが、若い世代を惹きつけているのかもしれません。以前のオーナーさんも、若い世代にこの家を利活用して欲しいと望んでいたので、それは良かったなと思っています」と話す。
現在、スタッフが事務所として利用するスペースなどには絵が飾られているが、それも以前のオーナーさんのもの。「オーナーさんがリノベーションをしていたおかげで、僕たちはトイレやお風呂といった最低限のリフォームで済ませることができました」。こうした建物を残したいという思いが、次世代に引き継がれているかっこうだ。
順調に村民は集まっているようだが、課題はあるのだろうか?
「多すぎて思いだせないですが(笑)、1つは地元の人の理解を得ること、また、できる限り体験を提供すること、に尽きると思っています。現在の収益の柱は宿泊ですが、これだとどうしても村民のみなさんの目線が『消費者』になってしまう。そうではなく、足を運んで学びがあるような、村民としての経験を得ていってほしいですね」(半田さん)
現在でも、自転車でサイクリングをしたり、茅葺き屋根の修繕をしたり、羽釜(はがま)でごはんを炊いたりと、ワークショップや体験メニューもあるが、もう少し内容を充実させたいという。
「移住者の方を講師に招き、節分や端午の節句など、旧暦にあわせて行事をしています。すると、単なるカレンダーにあるイベントではなく、その行事がある意義を痛感できるようになります。悩みは冬ですね、本当に寒かったですし、春も待ち遠しかった(笑)。あと、近年は暖冬で積雪が読めないので、雪を使ったイベントが企画しにくいんです」
一方で、建物の維持・管理も悩みのタネにもなっている。
「茅葺き屋根はすべて葺き替えると1000万円はかかるといわれています。ただ、そうした費用を捻出するのは難しく、この集落では屋根を4方向ごとに分けて、数年ずつ葺き替えを行ってきました。知恵ですね。昨年11月には、茅葺き屋根の原材料となるすすきの刈り込みをワークショップとして開催したんですが、地元の人からは、『なんで労働力を提供するのに、さらにお金まで払わなくてはいけないの?』という声もあり、なかなか理解を得るのは難しいなあと。一方で都会からは“体験”を求めて多くの人に参加していただき、本当に助かりました」という。
2016年の夏には、プロジェクト発足後2回目の茅葺き屋根の葺き替えを行うという。もともと、茅葺き屋根の葺き替えは、集落でお互いに協力しあいながらやってきた。集落に人が減ってしまった今、こうしたインターネットでゆるやかにつながりながら、「建物」を維持していくというアイデアはとても現実的な方法かもしれない。
「これは、私個人の思いですが、今までのような地域のつながりとは違って、風のようにゆるやかに、助けあったり、何かを提供しあう。遠くに暮らしていても、思いをはせる。そうした思いが集まるコミュニティであれば、これからも維持していけるのではないでしょうか」と力説する。
地方を取り巻く環境は、依然として厳しい。それでも、こうした新しい取り組みや出会いが、地域を少しずつ、でも確実に元気にしていくのかもしれない。