路線価とは、相続税や贈与税を算出する際の基準となる地価のこと。毎年1月1日時点の地価を基に道路の一定区画ごとに1m2当たりの評価額を求め、7月1日に国税庁が発表している。
地価の調査地点のうち住宅地や商業地、工業地などの標準宅地の前年からの変動率は、全国平均でマイナス0.4%。7年連続の下落となったが、下落幅は0.3ポイント縮小した。
都道府県別では、首都圏の1都3県や大阪府、愛知県など大都市圏で平均値が上昇しており、東京都や大阪府などでは上昇幅が前年より拡大した。愛知県の上昇率は1.0%で大阪府(0.5%)より高いが、前年より0.2ポイント縮小している。一昨年は円安効果で愛知県内の自動車産業などが活況を呈し、不動産取引も活発化したが、昨年は盛り上がりにも一服感が出たようだ。
全国で上昇率が最も高かったのは、東日本大震災からの復興関連で土地需要が強まった宮城県で2.5%アップ。次いで福島県が2.3%の上昇だ。この2県は東京都の上昇率(2.1%)を上回っている。
一方、都道府県庁所在都市の最高路線価のうち最も高かったのは東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通り、すなわち「鳩居堂」前で30年連続だった。ここの路線価は上昇率も日本一で、14.2%アップしている。
最高路線価の上昇率が2ケタに達したのは、ほかに名古屋市中村区名駅1丁目の名駅通り(11.5%)、広島市中区胡町(えびすちょう)の相生通り(10.2%)、大阪市北区角田町の御堂筋(10.1%)となっている。今年3月の北陸新幹線開業でにぎわう金沢市堀川新町の金沢駅東広場通りは9.3%アップで上昇率6位、富山市桜町1丁目の駅前広場通りは4.8%アップで同12位にランクインした。
大都市圏を中心に地価が上昇している要因には、アベノミクス効果で株価などが上昇し、いわゆる“資産効果”でマンションなど不動産の需要が高まっていることが挙げられる。日銀による金融緩和で銀行の手元資金が増え、不動産投資や再開発事業にお金が回っていることも大きい。加えて東京都心では2020年のオリンピック需要も効いている。
だが、地価が上がったからといって手放しで喜べない面もある。というのも、今年1月1日の税制改正で、相続税が大幅に増税されたからだ。特に影響が大きいのは基礎控除の引き下げで、去年までの「5000万円+1000万円×法定相続人数」から、4割下がって「3000万円+600万円×法定相続人数」に改正された。法定相続人数が妻と子どもの合計2人の場合、相続税がかからない資産の額が7000万円から4200万円にダウンしたのだ。相続税というとこれまでは資産家だけが払うものと相場が決まっていたが、これからは「普通の人」でも相続税を払わなければならないケースが増えるだろう。
ただでさえ相続税が増税されたのに、路線価がアップすればますます課税対象者が増える。そうなると、地価の高い大都市圏で土地を買うのを諦めたり、地方に移り住む人が増えるのではと思う人もいるかもしれない。しかし実際はその逆だ。
というのも、高くなったとはいえ不動産は時価よりも低く評価されることが多いので、現金を持っているより相続税が安くなるのが普通だからだ。さらに地価の高い都心では同じ価格で郊外より狭い土地しか買えない点もミソ。親の自宅の土地が狭いと、同居している子などが相続するときに「小規模宅地等の特例」という、評価額が8割引きになる特例をフルに利用できるケースが多くなる。この特例の対象面積は330m2までなので、郊外などでこれより広い土地だと特例が使えない部分が出てしまうのだ。
そのうえ、タワーマンションなど高層階の住戸は建物の評価額も大きく下がる。建物は階数に関係なく、建物の構造や床面積、築年数で評価額が決まるからだ。高層階の住戸は低層階よりも価格が高いのが通常なので、それだけ価格(時価)と評価額の差が大きくなる。高層階の高い住戸を買えば、相続税は安くて済むということだ。
つまり地価が上がり、相続税の負担が重くなればなるほど、高層マンションを買いたがる人が増えることになる。都心のタワーマンション人気はまだまだ衰えることはなさそうだ。