「なんだか空が広いなー」。東京を歩いていて、ふとそう感じたことはないだろうか。もしかしたらその正体は「電線や電柱がない」からかもしれない。なぜ電線と電柱がある街、ない街があるのだろうか。自民党も対策に乗り出すなど、今、まさに進められている電線地中化のメリットやその背景を探ってみた。
筆者が「電線と電柱がないな」と気づいたのは、大手町を歩いていたとき。そのまま丸の内、東京駅周辺まで歩いていったが、街灯や街路樹はあっても、電線と電柱はない。どうしてなのか、気になって調べてみると、なんと東京都23区の幹線道路の約半数で電線地中化が進んでいるという。担当している東京都道路管理部安全施設課、課長の望月裕さんに聞いてみた。
「ご存じのように道路には国道、都道、市町村道路などの種類があります。現在、無電柱化が進められているのは、主要な国道、都道といった幹線道路です。だから、幹線道路沿いは電線がなくても、一本路地を入ったら市区町村道に電柱、電線があるということも珍しくありません。無電柱化はエリアのような面ではなく、線のイメージで進められてきたのです」と解説してくれた。
実はこの無電柱化プロジェクトは、約30年前から「電線類地中化計画」として、地道に進められてきたものだという。
「東京の無電柱化のそもそものはじまりは、景観を守ることと、都市のバリアフリーの充実だったのですが、進めていくなかで、防災の点でも意義のあることが分かってきました」(望月さん)という。
確かにベビーカーを使う身になると、電柱があることで歩きにくさを感じることもしばしば。ベビーカーなら使わないという選択肢もできるが、車椅子やシルバーカー(高齢者の手押し車)ではそうもいかない。
また、阪神淡路大震災の発生時には、電柱が道路に倒れてしまい、救援が遅れたこともあり、電柱地中化が「防災に強い街づくりに欠かせない」として認識されるようになったという。近年、頻発している台風やゲリラ豪雨を考えても、災害に強い街づくりになるというわけだ。
とはいえ、23区の市街地全体の幹線道路で、地中化が完了しているのは48%、全国の幹線道路に目を向けてみてもわずか15%。欧米主要都市はほぼ100%であることを考えると、その差はまだまだ大きい。
しかも、今の日本では年7万本ほどのペースで電柱が増えているという。そのため、自民党の小委員会では新設する道路は原則、電線地中化とする案をまとめるなど、さまざまな手が打たれているのだ。
現在、無電柱化が進んでいるのは東京の都心部。筆者が感じたように丸の内、大手町や銀座などは、かなり電線地中化が進んでいるのだという。
「センター・コア・エリアといって、山手通りと荒川で囲まれた地域の主要道路から整備しています。このエリアの幹線道路や主要な駅のまわりは利用者が多く、無電柱化も進んでいます。あとは観光面ですね。特に東京スカイツリーの開業にあわせて、空を見上げることが増えるだろうと考え、浅草通りは重点的に整備を進めました」(望月さん)
では、今後日本中で、急ピッチで電線地中化が進められていくのかといえば、そう簡単にはいかないようだ。
「電線地中化の工事は、“電線共同溝工事”といって、単純に電線などを敷設すればいいのではなく、既設されているガス管や上下水道の移動や再整備が必要になるため、かなり大掛かりな工事になるんです」(望月さん)
しかも電気電話、ガス、上下水道とすべてインフラなのでとめるわけにもいかず、かといって道路工事のために主要道路を昼間、通行禁止にするわけにもいかないので、工事ができるのは夜間となることが多い。しかも新設した電話、電気の切り替えには道路に面する一軒一軒の了解が必要とあって、膨大な手間と時間がかかる。
ちなみに、電線地中化工事にかかる時間をきいたところ、500mの無電柱化を進めるのに必要な期間は6年にもなるとか(!) そのため、東京オリンピック開催の2020年に主要エリアを無電柱化するには、今から超急ピッチでプロジェクトを進めなくてはならないのだという。
「主に競技場周辺の道路の無電柱化を進められるよう、地元の区などと協議をしています」(望月さん)。ただ、こうした苦労の末に無電柱化が進められていても、「実はなかなか気づいてもらえないんです」(望月さん)という。街路樹が生い茂っていて分からないというのがその理由のようだが、それも少し残念なこと。今度、東京の道路を歩く機会があったら、ぜひ電線や電柱の有無にも注目してみてほしい。