目黒駅から徒歩約15分。閑静な住宅街にあるTさんの住まいは、築48年という古いマンションの住戸をリノベーションしたものだ。リノベーションのテーマは「ホテルライク」。どんな方法でマンションを手に入れ、どんなやりとりで住まいづくりを進めていったのか、住み心地はどうなのか、リポートを試みた。
■PROFILE
本人/Tさん(会社員・30代)
■住まいDATA
物件種別:マンション(SRC造7階建て)
所在地:東京都目黒区
築年数:48年
専有面積:67.71㎡
購入費用:2960万円
リノベーション費用:1450万円
工事期間:約3カ月
物件仲介・設計監理:ブルースタジオ
「ずっと賃貸でいいかなと思っていたんです。賃貸なら多少気に入らないところがあっても、次に引越すまで我慢すればいいけど、購入してしまったらそうはいかないでしょ」
もともとインテリアに興味があり、住空間にこだわりを持っていたTさんだけに、間取りや内装が決まっている分譲マンションを購入するのはどうしても納得がいかなかった。そんなTさんの持論を変えたのは、近年増えてきた中古を買ってリノベーションするという考え方だった。
「最近は、物件探しから設計・施工までをワンストップで提供してくれるサービスがあると知り、これなら全行程がスムーズに進むだろうと、ブルースタジオさんのセミナーに参加してみたんです」
セミナーに参加することでさらに意を強くし、すぐに物件探しが始まった。それと併行してTさんが行ったのは、自らが抱いているリノベーションへのイメージをPowerPointで作成し、ブルースタジオの担当者にプレゼンテーションすることだった。
「事前にそれを渡しておけば、僕が何を望んでいるかひと目で分かりますし、物件選びから考慮していただけると思ったんです」
Tさんが購入を決めたのは、目黒区で築48年というマンション。当初、エリアにはこだわらなかったが、逆にそれによって収拾がつかなくなり、最終的には勤務先に近い目黒に絞った。偶然だったが、角住戸で3面採光という好条件の物件だった。
Tさんがつくったプレゼン資料の1ページ目には「表テーマはホテルライク、裏テーマはバランス」とある。さらにページを繰ると、そのテーマに沿ってリビング、ダイニング、キッチンから寝室、浴室、廊下、収納にいたるまで、具体的な要望が雑誌から切り抜いた写真とともに提示されている。浴室を例にとれば、バスタブの形状に始まって、「レインシャワーは絶対アイテム!」、「ソープは壁のくぼみに置きたい」という具合だ。
「リビング・ダイニングは幅広の無垢のオーク材を使いたかったんです。そこに置くソファも<TRUCK>のFK SOFAと決めていました。いっぽう、寝室の床はカーペットでとお願いしました」
全体はシャープでクールな「ホテルライク」な印象だが、無垢材のぬくもり、コンクリート打ち放しのザラザラな天井、ピンクのトイレなど、裏テーマの「バランス」もしっかり実現された。
リノベーションでいちばん気をつかったのは、あれもしたいこれもしたいと積み上げすぎないこと。確かに、Tさんには数多くのこだわりがあったが、「できるだけその気負いを見せない」ようにしたという。例えばダイニングの壁の棚板。大きな食器棚を置きたくないので最小限の食器が置ける棚板だけにした。キッチンも必要な設備はそろっているが、できるだけコンパクトに。削ぎ落とすというマイナスの発想だ。
「立地からすると、この金額では新築マンションを買えないだろうし、買えてもきっと思うような住まいじゃなかったでしょうね。僕は自分の家の中にお金を使いたかったんです。新築では外観だったりブランドだったり、そうはいきませんよね(笑)」
将来ずっと住み続けるかどうかは分からないものの、すべて自分の背丈や独自のこだわり、ライフスタイルに合わせてつくったというTさん。金額以上の出来映えにはとても満足している。