マンションの屋上に、勝手に入ると不法侵入になるのでしょうか? 住んでいる分譲マンションに屋上庭園やバーベキューコーナーをつくり活用することはできるのでしょうか。マンションの屋上について使い方のルールや注意点について解説。一級建築士でマンション管理にも詳しい鈴木哲夫さんに話を聞きました。
例えば自分が住んでいる分譲マンションの住戸が低層階だったり、周辺の建物に景色が遮られたりしていても、屋上に入ることができれば景色を眺められます。バーベキューや屋上庭園なども楽しめればなお楽しいでしょう。しかし、残念ながらマンションの屋上は立ち入り禁止が多く見られます。それはなぜなのでしょうか。
屋上は高所にありますから屋上を開放してしまうと、落下などの事故の可能性が生まれます。立ち入り禁止にすることを前提に分譲されたマンションの場合、屋上に柵(フェンス)がない場合や、あっても低い場合が多く立ち入ることは非常に危険です。
また、転落防止の柵があったとしても、建築基準法では手すりの高さは1.1mあればよいため、乗り越えられない高さにはなっていないケースもあります。屋上に持参したグラスや本を落としてしまったり、椅子やタオル、敷物などが風に飛ばされたりして、事故につながることも考えられます。高所からの落下はたとえ小さな物でも、ぶつかると大きなダメージを与えます。タオルや敷物が飛ばされ、下を通っていた車のフロントガラスを覆うようなことになれば、大事故を引き起こすかもしれません。
屋上は区分所有者全員の共用部分。管理組合で管理を行うことになります。
「誰でも立ち入れるように開放してしまうと、管理組合での管理が難しいため施錠をしているのが一般的です」(鈴木さん、以下同)
マンションの屋上には何があるのでしょうか。
「空調に関わる設備、水道管や電気配管などのライフラインが露出した状態で設置されていることがあります。触れると危険な設備機器がある場合、点検などの特別なとき以外は屋上に立ち入りができないようにするのが基本です」
マンションの屋上に自由に出入りできるとなれば、家族や友達と集まって食事をしたりしたくなるもの。静かに過ごすのであればいいのですが、開放的な気分から騒いでしまうケースも多いでしょう。
「話し声や大声といった騒音には近隣からの苦情が寄せられます。また、屋上を活用する仕様にしていない場合、屋上の床から振動が伝わり、マンション内の住戸にも迷惑がかかります」
クレームに対応しなくてもいいように、管理組合では管理規約や使用細則で屋上への立ち入り禁止や火気使用の禁止などを盛り込んでいるのです。
エントランスにオートロックがあっても、開放した屋上に出入りするのは居住者だけとは限りません。マンションは、居住者以外のさまざまな人が出入りします。居住者がオートロックを開錠したタイミングで、一緒に侵入しようとする人もいます。
「ロープを使ったり、外壁の凹凸に手や足をかけたりして屋上から下り、油断して窓の鍵をかけていない住戸に不法侵入するという窃盗の手口もあります」
防犯上も、やはり屋上の施錠は必須事項と考えられます。
マンションの屋上は共用部分ですから、その使用方法については管理組合が担うことになります。つまり、立ち入り禁止にしたり、開放したり、どちらにするかは管理組合の考え方によるところが大きくなります。では、屋上を活用しているマンションはあるのでしょうか?
「屋上を居住者に開放している場合、屋上全体ではなく、一部分に専用エリアを設けて活用しているケースがほとんど。床面には振動や衝撃を吸収するマットを敷き、バーベキューなど火気は禁止しているのが一般的です。ただし、利用者のマナー違反で近隣から苦情が寄せられ、新築当時から屋上が開放されていたマンションでも、後に開放を取りやめることが多いようです。
なお、普段は屋上は施錠されていても、花火大会など特別な日の限られた時間帯だけ使用できる場合や、流星群が観察できる日などに区分所有者の申請によって目的に合わせた限定開放をする場合もあります」
屋上を活用しているマンションは多くはないですが、どのような使い方をしているのでしょうか。その場合、どのような問題点が発生しがちなのでしょうか。
「マンションの新築時に消防署と協議し、指導を受けて設置されたバーベキューコーナーであれば、ルールを守ることを前提に使用できます」
しかし、もともとバーベキューコーナーがなかった屋上でバーベキューを行うのは問題が多いそう。
「管理規約で火気使用が禁止されていれば線香花火でも禁止です。バーベキューをしたことで、近隣から消防署に通報され消防車が何台も出動。厳しい指導を受けた事例もあります。また、屋上のコンクリートの床の上で直火でバーベキューを行い、防水層を熱で溶かし損傷させてしまった事例もあります」
マンションの新築時から庭園(菜園)として計画されていた場合は、防水処理など屋上庭園に必要な措置が取られているはず。花や野菜を育てる楽しみも生まれますし、マンションの住民同士のコミュニケーションも育つでしょう。屋上部分の断熱効果も向上します。
気をつけたいのは、後付けで庭園をつくる場合です。
「土の荷重の問題を解決することが屋上庭園への改造の大前提です。また、防水層に植物の根が届かないような処理(縁切り)をしないと、根が防水層を貫通し、マンション内で漏水につながるケースがあります。屋上庭園は植栽の管理が難しく、雑草が多くなり、害虫やネズミが棲みつく問題も発生します。管理組合で菜園の管理グループをつくり管理できればいいですね」
ペット可マンションで、屋上にドッグランがあれば気軽に愛犬を遊ばせることができます。しかし、鳴き声などで近隣からクレームが入るケースがあるほか、排泄物の片付けマナーを守らない使用者がいる場合はマンション内でのトラブルにもなります。
ビオトープとは生き物が暮らす場所のこと。水辺や植物、昆虫、魚などがバランスよく生育できる環境を、マンションの屋上につくるケースもあります。
「小規模でも水面をつくってトンボなどの生物生息環境を整備しているケースがあります。難しいのは水温管理など。水温が上がると有毒性のある藻が生えたり、トンボの幼虫(ヤゴ)が死んでしまったりします。水場は日陰にする、水温を管理するといった環境維持が重要です。屋上庭園と同様、屋上の断熱性能アップという効果もあります」
マンションの屋上を積極的に活用しているケースは多くはありません。しかし、期日を限定した開放も含めて、今後、上手な屋上活用を検討していきたい、という場合はどんなことに気をつければいいのでしょうか?鈴木さんに注意ポイントを教えてもらいました。
屋上直下階に対する配慮
人が出入りするようになった場合、歩行による振動が階下に伝わらないよう吸音や衝撃吸収仕様のマットを敷くことが必要。
防水層に配慮
屋上庭園や菜園などの植物の根が防水層を貫通して漏水の原因になるケースもあります。庭園などを設ける場合は屋上緑化のノウハウが豊富な会社に相談するなど慎重に検討しましょう。
近隣への影響(騒音や臭気など)の配慮
屋上に人が出入りすることで、騒ぐ声や、ドッグランなどを設けた場合のニオイなど、これまではなかった問題が出てくることも。近隣に迷惑がかからないようにルールづくりも必要です。
片付けや清掃マナーを守る
屋上を使ったあと、ゴミが残っていたり、テーブルや椅子、敷物などが放置されたりすると、汚れや害虫の発生につながります。軽いものや、風を受ける面が広いテーブルや敷物などは、風にあおられて落下する恐れがあります。屋上を使用した人が片付けや清掃のマナーを守ることが大切です。
騒がない。飲酒も禁止が無難
大勢の人が集まり、開放的な気分になるとついつい騒いでしまいがち。アルコールが入れば声も大きくなります。近隣のマンションや、屋上に近い上層階の人のストレスになりますから、屋上では騒がないようにしましょう。
振動を与えるような動作をしない。(燃えにくい厚いマット敷とする)
新築時に屋上活用を前提としていなかったマンションの場合、屋上の防水は非歩行仕様で施工されているのが一般的。屋上直下階への騒音が問題になるため、屋上の床が振動するような動作は避けること。または、吸音・衝撃吸収仕様の燃えにくい厚いマットを敷くこと。
ボールなど遊び道具を持ち込まない
ボールが床でバウンドする音や人の足音は屋上直下階への騒音になります。また、ボールや遊び道具が落下し、地上の人や車などに当たる、道路に落ちて破片などが人に当たるなど、大事故につながります。
喫煙・花火など火気使用禁止
共用部分での火気使用は管理規約内の使用細則で禁じられているマンションが一般的。花火はもちろん、タバコの火もNGです。
楽器等演奏やカラオケ機材持ち込みの禁止
楽器の音やカラオケの歌声は、近隣からのクレームのもとになります。
野鳥への餌やりの禁止
屋上に餌台を置いたり、餌をまいておくと、やがて野鳥が集まってくるようになり、フンや羽根、食べ残しが舞い、屋上を使う人の健康被害の原因になったり、近隣への迷惑になります。安易な餌やりは自然界で生き抜く野鳥の力を弱めるなど別の問題にもつながります。
居住者がいつでも使用できるように屋上を開放しているマンションもあります。その場合、屋上への扉は常に鍵がかかっていない状態なのでしょうか。
「居住者に開放しているマンションでも、誰でも出入りできるという状態ではなく、各住戸のキーで出入りするようになっているケースが一般的です。ただし、居住者に開放はしていても、管理員室で鍵を管理し、自由に出入りできないマンションもあります」
マンションは経年劣化などに合わせて大規模修繕工事が行われます。工事の対象は屋上や外壁、バルコニー、給排水管など。屋上では防水工事が大規模修繕工事の項目に入っています。屋根からの浸水を防ぎ、雨漏りを防ぐために大切な工事です。
では、屋上を開放していないマンションの場合、人の出入りが少ない分、屋上が傷みにくく防水工事の間隔を長くできる、ということはあるのでしょうか?
実は、屋上の防水工事の仕様にはいくつかの種類があります。
「屋上の防水は露出アスファルトや塩ビ系シートでの防水が多く、これらは一般的に非歩行仕様。点検や清掃程度の歩行レベルを想定したもので、表面は弱い仕様です。一方、コンクリートで防水をしている仕上げの場合は、不特定多数の人の歩行にも耐えられる歩行床です。ただし、直下階への騒音が問題になることがあるので、開放スペースをつくる場合は音や振動対策のマットを敷く必要があります」
非歩行床と歩行床を比較すると、耐久性が高いのは歩行床です。
「屋上を活用する場合、屋上の防水層の上に押さえコンクリートなど耐久性の高い無機系の材料を施工するか、石などで床仕上げがつくられている状態。防水層が外気から隠されているので劣化が抑えられ、新築時の施工不良がなければ長寿命化が期待できます」
一方、開放していない屋上に使われる非歩行床の防水仕様の場合は、防水層が露出しているため太陽光や雨などの影響や点検などで消耗し、歩行床に比べて耐久性も低くなります。屋上を活用していないからといって、防水工事を行う時期の適切な間隔が長くなるわけではありません。
マンションの屋上は安全面、防犯面などから立ち入り禁止になっているケースが多い
管理組合が管理を行い屋上を開放している物件でも、開放スペースは屋上の一部分、時期を限定など制限があるのが一般的
屋上の開放・活用を前提としていないマンションで、屋上庭園やドッグランなどを設ける場合、床の損傷や漏水、騒音などのトラブルに対応する必要がある
開放や活用を前提としていない屋上は非歩行床仕様。開放を前提とした歩行床の方が耐久性が高い