うっかり家賃を払い忘れたり、お金が足りなくなったりして、家賃を滞納するとどうなる? どれくらい滞納すると、督促や連帯保証人への連絡を受けたり、強制退去を言い渡されたりするの? 賃貸物件の管理運営を手がけるハウスメイトマネジメントの伊部尚子さんに聞きました。
家賃決済にはいくつかの方法がありますが、法人ではなく個人の契約の場合、自動引き落としが主流。その場合、「銀行で、この口座から引き落とされていないという滞納リストが取りまとめられ、引き落とし日から3営業日くらいの間に管理会社に上がってきます」とハウスメイトマネジメントの伊部さん。その後、一般的にどのような経過をたどるのか、続けて見ていきましょう。
家賃を滞納した場合、最初の督促は支払い期限の翌日~3営業日程度で始まるケースが多く見られます。この段階で、貸主や管理会社から電話や手紙での督促が行われますが、もし賃借人と連絡が取れない場合、連帯保証人に対しても連絡が行われます。滞納が2~3か月続くと、内容証明郵便による正式な請求が行われ、契約解除の通知が送られることもあるので注意が必要です。
銀行から上がってくる滞納リストには「忙しくてうっかり忘れた人やたまたま口座の残高が不足していたというケースもかなり含まれるので、最初は督促というよりも連絡。引き落としができていなかった旨、電話かメールで連絡を入れると、ほとんどの人は数日中に振り込んでくれます」
このとき、まずは電話に出るべき。電話がつながらず、折り返しの電話やメールの返信もなく、なおかつ振り込みもなかった場合、いよいよ督促は次の段階へと進みます。「現地に手紙を入れに行ったり、内容証明郵便で送ったりと、文書での督促となります」
強制退去に至るまでの流れは、家賃滞納が一定期間続くと、賃貸人と賃借人との信頼関係が破綻したと見なされ、明け渡し訴訟が提起されることがあります。訴訟が進むと、裁判所から訴状が届き、指定された期日までに答弁書を提出する必要があります。最終的に裁判所が退去命令を出すと、強制執行が行われ、賃借人は物件を退去しなければなりません。
強制退去は法的手続きを伴うため、時間と費用がかかることが多く、賃貸人にとっても大きな負担となります。そのため、強制退去は最後の手段として用いられ、まずは賃借人との交渉や支払い計画の提案が行われることが一般的です。
本人への連絡から、連帯保証人への連絡に切り替わるタイミングは、例えば電話連絡から何日後などと明確に決まっているわけではなく、「これまでの滞納の有無や対応の仕方などによって変わります」と伊部さん。
例えば「契約したばかりで、自動引き落としが始まるまでの期間の振り込みを忘れるケースや、いつも忘れがちだけれど連絡を入れればすぐに振り込んでくれるとわかっている場合などは、すぐに連帯保証人に連絡をするようなことはほとんどありません」
それよりも「今まできちんと払っていたのに、いきなり滞納リストに上がってきて、電話もつながらないという場合、早い段階で連帯保証人に連絡を入れることがあります。家賃だけでなく、部屋で倒れているなど本人の安否も心配になってくるので『連絡がつかないのですが大丈夫でしょうか』と連帯保証人に確認をする必要が出てくるからです」(伊部さん)
家賃を滞納してしまっている状態で管理会社から電話やメールがあると、決まりの悪さからスルーしてしまう人も少なからずいるのだそう。それでも、ここで逃げずに電話に出る、メールに返信するのが、事態を悪化させないための鉄則。「この段階で何らかのコミュニケーションが取れないと、連帯保証人に連絡せざるを得なくなってしまいます」
ここまで解説したのは、管理会社が督促をする場合の流れ。最近は親などに連帯保証人を頼む代わりに、家賃保証会社を利用するケースが増えていますが、「家賃保証会社を利用する場合は、家賃保証会社から入居者に督促が行われます」と伊部さん。
家賃保証会社を利用する場合、家賃の振込先がどこであるかによってタイミングが変わります。「振込先が家賃保証会社であれば、管理会社や大家さんが滞納を知る前に入居者に督促を行います。また、振込先が管理会社や大家さんであれば、そこから連絡を受けて家賃保証会社が入居者に督促を行うため、督促が行われるのが少し遅くなります」
違うのは、督促の流れだけではないよう。「家賃保証会社からの督促は、管理会社や大家さんからの督促よりもスピーディーに進み、訴訟手続きに進むのも早くなる傾向があるようです」
家賃が支払われない状況が、目安として3カ月以上続くと、裁判所でも「信頼関係が破綻している」と見なされ、立ち退きを要求する「明け渡し訴訟」が可能に。このとき入居者が話し合いに応じず、今後も支払えないだろうと判断され、大家さん側の勝訴となれば、建物明け渡しの強制執行となってしまうこともあります。
ただし「訴訟を起こすとなると、時間もお金もパワーもかかるので、大家さん側としても基本的には避けたいと思っているもの。そこで、明け渡し訴訟で強制執行となる手前に、任意による退去、という方法を取ることがあります。この場合、話し合いによって退去に合意し、滞納分を分割で支払うなどの覚書を交わした上で退去、という流れを目指します」
連帯保証人をつけて家賃保証会社を利用していない場合、「裁判費用は大家さん負担となり、手間もかかるので、できれば訴訟を起こさずに済む方法を考えるケースも多いですが、家賃保証会社は一定の訴訟費用を最初から経費として見込んでいるため、事務的に訴訟に踏み切る傾向があります」
家賃滞納は深刻な結果をもたらす可能性があります。主なリスクを編集部がまとめました。
以下のケースに当てはまる場合、家賃滞納によって「信用情報機関」が管理するブラックリストのようなデータベースに登録される可能性があります。
金融機関やクレジットカード会社などの一部保証会社では、信用情報機関のデータにアクセスし、借主の財務状況を把握することができます。
いわゆるブラックリストに登録されると、以下のような深刻な影響が生じる可能性があります。
クレジットカードの利用制限 | 新規のクレジットカード申し込みが困難になったり、既存のカードの利用が制限されたりする可能性がある |
---|---|
ローン審査への影響 | 住宅ローンや自動車ローンなど、各種ローンの審査に不利に働く可能性が高くなる |
賃貸物件の契約への影響 | 家賃をクレジットカード払いする物件や、信販系の保証会社を利用する物件の契約が困難になるおそれがある |
信用情報の悪化 | 個人の信用情報に傷がつき、さまざまな金融サービスの利用に支障をきたす可能性がある |
こうしたリスクを避けるためには、家賃の支払いを確実に行うほか、滞納を避けることが大切です。万が一支払いが困難な状況に陥った場合は、早めに大家や管理会社と相談し、対策を講じるようにしましょう。
家賃の支払いが難しくなるのは「例えば働き方改革によって残業代が出なくなった、共働きだったのに妻が産休に入った、給与の減額など、さまざまな事情で、以前と同じような収入が得られなくなったケースがほとんど。今までの収入がずっと続いていたら払えたのに、という人が多いようです」と伊部さん。
そのような場合の対処法がいくつかあります。
今の収入でも払い続けられそうな、もう少し家賃の安いところに早めに引越してしまうのが一番。どこかに引越すにはまた初期費用が、と不安になったら、フリーレントがついている物件、敷金・礼金などの初期費用を抑えた物件も探してみましょう。経済状況を立て直すため、一旦実家に戻るという人も多いようです。
個人の責任によらない離職・廃業などで経済的に困窮し、住居を失った/失うおそれがある場合、短期間の家賃補助が受けられる「住居確保給付金」などを申請できるケースも。安い物件に引越すのも難しい場合は、生活保護や生活困窮者自立支援制度などの公的支援についても自治体に相談してみましょう。
生活保護による家賃補助についてもっと詳しく
→一人暮らしで生活保護による家賃補助は申請できる? 申請条件や不動産のプロに聞いた賃貸物件探しのコツについて解説
親や祖父母など親族に払ってもらうケースも。滞納分をまとめて払ってもらい、その間に安い物件を探すというのが、コツコツと分割で払うより手っ取り早く生活を立て直すことができます。
また、払えないときも「とにかく督促の連絡に答えること。例えば怪我をしたなど、一時的に払えない事情がある場合は、払えない理由・いつまでに払えるのかを管理会社に伝えてください。連絡が取れない状況が続くと、管理会社側も不安になるので、督促を次の段階に早く進めることになります。連絡がつけば、状況によっては分割での支払いなどの相談に応じることもあります」
家賃の支払いが難しくなったときは、わかった時点で早めに管理会社に連絡するのが鉄則。そして、家賃を払えないような状況を防ぐためには、毎月支払えるぎりぎりの金額ではなく、さらに低めの家賃の物件を探すことが大切です。家賃以外の生活費もできるだけ抑えて、余裕のある生活を心がけましょう。
滞納すると、まずは本人に連絡が入る。これをスルーすると連帯保証人に連絡が入ることも
家賃を払うのが難しくなったら、その時点で管理会社に分割などの対応を相談してみよう
家賃が払えなくなったら、より家賃・初期費用が安いところを探して早めに引越しを