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どうも、宴です。
神はもちろん偉大だけれど、人間にも偉大な存在がいる。それが大王。とくに日本の転換期を作り出したワカタケルはめちゃくちゃ偉大。
ということで、今回は池澤夏樹さんの『ワカタケル』をご紹介させていただきます。
<おすすめ記事>
ワカタケル/池澤夏樹
暴君であると同時に、偉大な国家建設者。実在した天皇とされる21代雄略の御代は、形のないものが、形あるものに変わった時代。私たち日本人の心性は、このころ始まった。『古事記』現代語訳から6年、待望の小説が紡がれた。(「BOOK」データベースより)
神話 | 9/10点 |
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ドキドキ | 8/10点 |
感動 | 7/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
雄略天皇
日本のルーツって不思議ですよね。一体、どこからが神話で、どこからが史実なのか。誰にもわからないロマンがそこには潜んでいます。それにしてもです。神話を越えて、そこからどんな時代を経て日本は成り立っていったのでしょうか。
本作『ワカタケル』にはその断片が眠っています。時は五世紀後半の古墳時代、第21代雄略天皇であるワカタケルが、大王となり日本の礎を作っていく物語です。
大王として
現代では天皇と言いますと、穏やかなで優しさに溢れる象徴としてのイメージが強いと思いますが、ワカタケルは全然違う荒くれ者のような印象です。その無頼漢ぶりには驚かされました。この段階では『天皇』という名称も、意味合いもなく、単純に大王として君臨していらっしゃるので、それも仕方がないのかもしれませんが。
ちなみにワカタケルはほとんど実在するであろう存在であり、名前が刻まれたと思われる剣が発掘されていたりします。ロマンですね。
史実と神話
ただ、少し時を遡ると、すぐそこには神話の時代があります。本作は人の物語ではありますが、神話の時代から完全に解き放たれているわけではありません。ワカタケルの前に突如、異形の存在や神話の存在が出現したりします。人々もまた神々の力が国を左右するものだと信じられてもいます。
史実と神話が入り混じった世界。これが本作で描かれる不思議な世界観です。日本のルーツが作られる時代小説でもあり、神々の残り香漂うファンタジーでもあるのです。
一歩間違えれば中途半端な作品になってしまっていたかもしれませんが、さすがの池澤夏樹さんは巧みの技術を存部に発揮し、ちょうどいい塩梅で描き切りました。時代小説としても、ファンタジーとしても楽しめる絶妙なエンターテイメントの完成です。
当時からするとワカタケルの時代は、明治維新レベルの変化があった時代です。神々の力や男と女の在り方。文字の出現と形ある国のはじまり。神話から解き放たれようとしている日本の姿がここにはありました。偉大な日本のルーツに震えがおさまりません。
心に残った言葉・名言
文字を教えられ、思うところを文字で伝えられると知った後、この我という文字に出会った。これこそ他ならぬこの己にふさわしい文字だ。みなが用いる「吾」ではなく「我」。
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「義とは何だ?」
「万民の取るべき道。天の定める道」
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人は時に狂うものだ。
神は人を狂わせる。
今の我、これは正気であるか?
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「恋だけで満ちて終わる者もある。吾らはそれで充分だった」
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「魂は人を離れてどこまでも行く。動くことで力となる。すなわち言霊。それに対して、紙に書かれ、木に書かれ、鉄の剣に刻まれた文字はその場を動かない。何百年も何千年も後まで残る。これもまた言葉の力」
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「私は文字というものが人と人を隔てるような気がするのです。歌はまずもって声であり響きであり、その場にいる者すべての思いです。文字になった歌はもう歌ではないような」
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「大王(おおきみ)とはそういう立場です。日照りも地震も嵐も、責は大王に帰します。だからこそ気力横溢の者でなければ務まらないのです」
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池澤夏樹さんの他作品
最後に
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日本のルーツに迫りたい人、神話に興味がある人、神と話すことができる人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。
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