以前アップロードした「
ゲントの祭壇画(2007-07-11)」へのアクセスがこのところずっと多いようだ。ベルギーのゲント(ガン)、シント・バーフ(サン・バヴォン)大聖堂にあるあまりにも有名な絵画。どうしてアクセスが多いのかは分からないけれど、久し振りにE.ダネンス『ファン・アイク ゲントの祭壇画』(アート・イン・コンテクスト1、黒江光彦訳、みすず書房、一九七八年)を読み直していると、たくさんの本がそこに描かれていることに改めて気づいた。
ゲントの祭壇画の全体図および部分図
http://artmight.com/jap/gallery/search/(keyword)/ghent
祭壇画を閉じたときに見られる額縁に書き入れられた連句。これがこの祭壇画について知り得る同時代の唯一の情報であるらしい。
《何人も彼にまさることなき画家フーベルト・ファン・アイクは、[この作品に]着手し、技倆において彼に次ぐ弟のヤンが、ヨース・フェイトの要請によって、この任重き仕事を完成した。5月6日、フェイトは、この詩句によって、出現したものを気遣われんことを貴下に乞い願う》
1432年の年号も記されている。5月6日に教会に引き渡されたことを示す。その後この連句は塗りつぶされてしまったようで、一八三二年に額縁の洗浄によってふたたび日の目を見た。偽物ではないかという批判もあったようだが、ダネンスは真正のものだと断言している。
毛織物工業で繁栄した市だけに豪華な衣服や宝飾品がこれでもかと描かれている。祭壇画のテーマも「神秘の羔羊」、羊さまである。すなわち毛織物業の表徴。そして本は十八冊ほど描かれているようだが、例えばマリアの読む聖書は深緑の布で包まれ、花切れのところに真珠の玉飾りが付けられている。ゲントの守護聖人である洗礼者聖ヨハネのもつ書物にも見られるが、真珠玉はしおりひもの先にも、またバンドの端にもぶらさがっているから驚きである。
洗礼者聖ヨハネはイザヤ書の冒頭を開いているそうだ。ーーCONSOLAMINI(なぐさめよ)が読み取れるという。
祭壇画を閉じたときに描かれている中心テーマ「お告げをきく聖処女マリア」の部分。壁龕の棚に本が平置きされているのが注意をひく。真珠の飾りはここにも見られる。ほぼ同時期にイタリアで描かれたフラ・アンジェリコの「受胎告知」と比べてみるとおもしろい。
フラ・アンジェリコの「Annunciazione」
http://sumus.exblog.jp/14600977
同じく「預言者ミケア」部分。預言者も栞代わりの紙を挟むのか。なお、ここに描かれている書物はすべて写本。ゲントは教会分裂時代にはローマを支持しつづけ、ゲントの学者はパリ大学の系統に属していたという。この祭壇画と同じ頃にルーヴェン大学が創設され、ゲントの司祭たちも何人かはそこに籍を置いていた。写本活動も盛んだったようだ。そういった背景があって多くの書物が描き込まれているわけである。