[目次]
満州、沖縄、神戸を結ぶ線…………佐野眞一
桑港の鶯 サンフランシスコ古本屋めぐりの記…………山内功一郎
花の巴里で古本屋を怒らせる方法…………林哲夫
二冊の回想記を読む 古書往来番外編…………高橋輝次
幻脚記 五 夏の女優…………鈴木創士
エエジャナイカ 4
私は完璧であったことはありませんが、私は現実なのです…………北村知之
淀野隆三日記を読む 五…………林哲夫
みずのわ編集室 5…………柳原一徳
÷÷÷
北村知之
エエジャナイカ4
私は完璧であったことはありませんが、私は現実なのです
12月18日(木)
うっすらと目が覚める。暗い部屋のなか手さぐりで時計をさがしていると、あやまって床に落としてしまった。ガシャンという音のあとに、コロコロと電池が転がっていく音がした。しかたなくまた手をのばして携帯電話をみつけて、開いてみると十三時をまわっていた。窓と雨戸をあけて、目をしかめながら外を見まわす。うす青い空のしたを、幼稚園から帰る女の子と母親が歩いていった。一週間ぶりに洗濯をしようとおもっていたけれど、あきらめて布団と枕だけ干す。鍋をコンロにかけて、湯が沸くまでに顔を洗う。カップのうどんに湯をそそいで、じっと五分間待つ。それから鼻水をすすりながら食べる。
そのままテーブルで、村上春樹訳の『ティファニーで朝食を』を読む。どうもフィリップ・シーモア・ホフマンがちらついて困ったけれど、インスタントのコーヒーをつくっては飲みつくっては飲みしながらページをくる。気がつくと台所は寒く、あたりは暗くなっていた。
12月19日(金)
スニーカーの親指のところに穴があいてしまった。三宮のガード下にある三畳くらいの靴屋で、やけに眠そうな店主から同じものを買う。閉店まえのあかつき書房をのぞいて、均一台から田中英光『オリンポスの果実』(新潮文庫)と内田百間『馬は丸顔』(旺文社文庫)を買う。各一〇〇円。せっかくなので八島の東店によって、肉豆腐煮とネギいりの玉子焼きでビールを一本飲む。店内はみごとに背広姿のおじさんたちで満席だった。
帰宅してテレビをつけると、「探偵!ナイトスクープ」の総集編をやっていた。みなさんわけわからんことを考えてますな、とまったく感心する。たしかチェーホフの手紙にも、「人が笑うのは、滑稽な時か、理解できない時か」と書いてあった。
通勤の鞄にいれていた、吉川幸次郎、三好達治『新唐詩選』を読みおえる。二ヶ月ちかくかかったので、どうしてこの本を読みはじめたのか忘れてしまった。賀知章というひとの「袁氏の別業に題す」という詩。
主人相職らず
偶坐林泉の為なり
漫に酒を沽うを愁うる莫れ
嚢中自ずから銭有り
財布があれば金はあるものだ、というのがおもしろい。
[以下本誌でどうぞ]
みずのわ出版