【編集長の気になる1冊】僕たちはどこにだって行ける。『かいじゅうたちのいるところ』
父の部屋はジャングルだった 。
本棚の上によじ登り、下に置いたソファへ飛び降りる。そのままソファの上で飽きるまで飛びはねたあと、背もたれからひじ掛けまで立って歩き、そのままもう一個の椅子までジャンプで移る。
ガラス張りのテーブルの下にもぐりこみ、しばらく上を眺め、また本棚へ。
その間に面白そうなものがあればひっぱりだし、引き出しだって掻き回し放題。立派なマジックを見つけだした時は、父が大事にしていた机に思いっきり落書きをしてさすがに怒られた。窓から外に出ることだってある。
疲れてきたら、ソファの裏側にまわってお絵かきをしたり、読めない本を眺めたり。
なんてめちゃくちゃ、思い返すだけで大したかいじゅうだ。だけどそこで私は自由自在にふるまう。
たとえ外の世界でうまくいかなかったとしても、
その部屋の中で私は王さま!
かいじゅうたちのいるところ
いたずらっこの男の子マックスは、今夜もおおかみのぬいぐるみを着ると大あばれ。
「この かいじゅう!」
おかあさんに怒られても平気で言い返す。
「おまえを たべちゃうぞ!」
とうとうマックスは夕飯抜きで寝室に閉じ込められた。
ところがその部屋に、にょきりにょきりと木が生えだして……気が付けばすっかり森の中。そこへ波が打ち寄せてマックスは船に乗り込んだ。長い時間をかけて航海すると、たどりついたのは「かいじゅうたちの いるところ」。すごい歯をガチガチさせて、うおーーっとほえて、目玉をぎょろぎょろさせ、すごい爪をむきだしている。なんて恐ろしい! でもマックスだって負けていない。
「しずかにしろ!」
怒鳴りつけると、マックスは魔法を使ってあっという間に彼らの王さまになってしまったのだ。彼らは一緒に踊り、遊び、森の中を行進し……。
コルデコット賞を受賞しているこの作品は、国際アンデルセン賞をはじめ、数々の絵本賞を獲得しているモーリス・センダックの代表作。世界中の子どもたちを魅了しつづけているロングセラー絵本です。
なんといっても魅力なのは、威勢のいい男の子マックスとかいじゅうたちの緊張感あるやりとり。あんなに迫力のあるかいじゅうたちが、彼の手にかかると何だか愛らしく見えてくるのです。それでもやっぱり小さな男の子。疲れ切ったあとに思い出すのは……おかあさんの懐かしいあの匂い。
豪快でちょっぴり恐ろしくもあるこの絵本。だけど読めばすっかりその世界に入り込んで夢中になってしまうのは、細かく小さなしかけの積み重ね。くるくる変わるマックスの表情に、本心を読み切れないかいじゅうたちの存在。現実と夢の行き帰り。それは永遠のようでもあり、ほんの一瞬のようでもあり。安堵の気持ちで絵本を閉じ、すぐまた読み返したくなってしまう。大人が読めば、子どもの内面の豊かさを思い出させてくれるような1冊でもあるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
そこは自分の部屋ではなかったけれど、今でも時々夢に登場する。いったい元がどんな部屋だったのか忘れてしまうほど、毎回形が変わっている。驚くほど広かったり、どこか違う場所とつながっていたり。
マックスだってそう。
僕たちはどんなところにだって行けるのだ。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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