【今週の今日の一冊】親子で読みたい、令和の子どもたちに伝える平和の絵本
まもなく8月。8月は1年のうちでもとくに平和への思いが高まる時期ですね。
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻も未だ収束への道が見えず、ニュースなどで戦争の様子を見聞きしている子どもたちも多いと思います。でも実際に自分のまわりで戦争が起きたら……と想像することはなかなか難しいのではないでしょうか。
戦争が起きると何が変わるのでしょう。毎日の生活は? 学校は? 食べ物は? 家族や友だちは?
今週は、子どもたちの身近なところから戦争について考え、平和の尊さが伝わる絵本を集めました。
夏休みに親子で一緒に読んでみませんか。
2023年7月31日から8月6日までの絵本「今日の一冊」をご紹介
7月31日 平和のボクと戦争のボク、なにが変わるのだろう?
月曜日は『へいわとせんそう』
「へいわ」と「せんそう」。
確かに違う、このふたつ。
平和の方がいいに決まってる。
…だけど。
「へいわのボク」と「せんそうのボク」ではなにが変わるんだろう。
詩人・谷川俊太郎と、一度見たら忘れられないモノクロームのドローイングが話題のイラストレーターNoritakeが取り組んだ、平和と戦争について考えるこの絵本。左右のページにはさまざまな人や物や場所の「へいわ」の状況と「せんそう」の状況が並び、ひとめでその違いが見えてくる。
例えば…
「へいわのボク」はいつも通り。いつもと同じに立っている。
「せんそうのボク」は座り込んでしまっている。
「へいわのワタシ」は勉強をしている。これもいつも通り。
「せんそうのワタシ」は何もしてない。
「へいわのチチ」はボクと遊んでくれて、「せんそうのチチ」は完全武装をして一人で闘っている。「へいわのハハ」は絵本を読んでくれるけど、「せんそうのハハ」は…。食卓を囲む「へいわのかぞく」、食卓には誰もいない「せんそうのかぞく」。手に持っているモノだって、木や海や街だって、明らかに全然違う。
それは、行き来が可能な世界ではない。
「せんそう」が終われば戻る世界でもない。
何かがなくなった、だけでは終わらない。
どこまでも深い「黒」と、少し光を放つような「白」の2色で構成されている場面に、シンプルだけど、これ以上ないくらいわかりやすい「ことば」。この絵本のどのページを見ても、まるでマークや記号のように、直接、目と頭に働きかけてくるのです。そして頭に残るのです。
でも、谷川さんは最後に大切な希望を見せてくれます。それは…。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
8月1日 トットちゃんの戦争体験から伝わる平和への願い
火曜日は『トットちゃんの 15つぶの だいず』(2023年7月24日発売の今年注目の新刊)
もし、一日の食べものがだいず15つぶだけになってしまったら……。
この絵本は、トットちゃんの戦争体験を、トットちゃんの目線で語ったおはなしです。戦争がはじまるとどんどん食べるものがなくなり、トットちゃんは、たった15つぶのだいずで一日を過ごすことになります。
この絵本で描かれる、これまでの戦争絵本と違う大きな特徴を2つ挙げてご紹介します。
1つめは、「一日の食べものがだいず15つぶ」という子どもたちが感覚として掴みやすい表現がなされていること。学校へつくまでに3つぶ食べてしまって残り12つぶになったこと、防空壕の中で不安な気持ちから残りのだいずを全部食べちゃおうか、がまんしようかと気持ちをいったりきたりさせるトットちゃんの姿。子どもたちは、だいずが残り何つぶかということを真剣に数えながら、トットちゃんの気持ちに心を添わせて読んでいくことでしょう。
2つめは、トットちゃんの笑顔です。
これまで、戦争の絵本で描かれる子どもたちに笑顔の場面はほとんどありませんでした。もちろん戦時下のつらい状況の中ですから、暗い顔をしていたり泣いていたりするのが当たり前といえば当たり前なのですが、でもきっとその中でも子どもたちの中にはわずかな喜びがあったり、ホッとする瞬間があったり、笑顔になることもあったと思うのです。お話の中で、トットちゃんは読者である私たちにたくさんの表情を見せてくれます。それは子どもそのものを全身で表現しているようなエネルギー溢れるトットちゃんだからこそ実現したことかもしれません。感情豊かなトットちゃんの戦争体験だからこそ、よりリアルに迫ってくるものがあります。平和で安心だった毎日の生活に戦争が入り込んできて、さまざま感情を動かしながら戦争を生き抜いていくトットちゃんを、子どもたちは、友だちのように感じて読みながら、お話に没頭していくことでしょう。
そんなトットちゃんの明るさやひたむきさによって、あたたかい世界が展開していく『トットちゃんの 15つぶの だいず』。そのあたたかさの源は、平和や子どもにとっての幸せであり、だからこそ、その幸せを守らなければいけない、戦争になるとそれが失われてしまうという現実の悲しさが一層伝わるのです。ただこのおはなしは、戦争の悲惨さだけを伝えるのでは終わりません。読み進めた先に現れる最後のページは、子どもたちにも大人にも、大きな希望を見せてくれます。同時に、今の暮らしと過去の戦争が地続きであることも教えてくれるのです。
女優の黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代を描き、大ベストセラーとなった『窓ぎわのトットちゃん』。そのもうひとつのおはなしとして『トットちゃんの 15つぶの だいず』が誕生しました。子どもたちに語りかけるような親しみやすい文章を書かれたのは、児童文学作家の柏葉幸子さん。ジブリの「千と千尋の神隠し」に大きな影響をあたえた『霧のむこうのふしぎな町』など、魅力的なファンタジーを次々に生み出されており、子どもから大人までたくさんのファンがいらっしゃいます。
絵を手がけたのは、絵本『バスが来ましたよ』など、やさしい絵が人気の絵本作家、松本春野さん。いわさきちひろさんの孫でもある松本春野さんは、トットちゃんへの深い理解と愛情をもって、新たなトットちゃんを生み出して下さいました。松本春野さんは絵本ナビのインタビューで、たくさんの「自分といっしょだ」を見つけてほしいとメッセージを寄せてくれました。
トットちゃんの戦争体験を自分のことのように感じながら想像し、平和を考える大きな一歩に……。
親子で一緒に、たくさん会話しながら読んでみてください。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
8月2日 ずっと一緒にいるはずだった持ち主たちをさがして…
水曜日は『さがしています』
広島県倉橋島で産する「議院石」という、火をくぐっても存在しうる石。
そんな独特な存在感を持った石に支えられるように、次々と登場するカタリベとしての「物」たち。
両方揃ったちょっと小さめの軍手、中のご飯は焦げてしまっている弁当箱、色鮮やかなワンピース、そして8時15分で止まったままの時計・・・。
彼らは語ります。ヒロシマで体験したあの日、あの瞬間のことを。そして今も探し続けている大切な人、持ち主たちのことを。
カタリベたちに出会い、じっと耳を傾け、それを言葉にしたのはアメリカ生まれの詩人アーサー・ビナード。平和記念資料館に収蔵されている展示物に幾度となく向き合い、その物たちにひそむ物語を通訳者として言葉で伝えたいと思ったというのが始まりなのだそう。
その直接のきっかけとなったのは、日本に来日してから「ピカドン」という言葉を知った時。原子爆弾という言葉と違って「ピカドン」は生活者たちが生み出した言葉。それが彼に新しい視点を与え、核の本質を見通すレンズになったといいます。ウランの核分裂が、暮らしを破壊しつくして、はかりしれない命を奪ったのです。確かに「ピカドン」はその実体験を端的に体感的に表わしている言葉なのかもしれません。
実際にこの作品に登場しているのは、資料館に収蔵されている約2万1千点の中から選んだ14点。
それぞれカタリベとなった物たちのプロフィールとして、巻末に持ち主やその家族の物語が収められています。いかに丁寧に取材をし、カタリベたちと向き合ってきたのかが伝わるページとなっています。
この写真絵本に登場するのは、そうした「物」たちだけです。
怖いことはありません。恐ろしい場面もありません。
静かにその日の事を語るだけです。ずっと一緒にいるはずだった持ち主たちを思っているだけです。
でも、確かに彼らはヒロシマを知っています。
そして、今の時代を生きる私たち日本人をじっとみつめているのです。
私たちは、そこから何を感じとらなくてはいけないのでしょう。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
8月3日 同じ今を生きる、他の国の子のことを想像してみよう
木曜日は『ぼくがラーメンたべてるとき』
ぼくがラーメンたべてるとき、地球の裏側ではなにがおこってる?ぼくがおやつを食べてるとき、世界の子はなにしてる?遊んでる、働いてる、倒れてる・・・長谷川義史が世界の子たちへ平和への願いをこめました。
8月4日 現代を生きるかえでちゃんに平和の願いを込めて
金曜日は『ひろしまの満月』
広島の郊外に、長く空き家となっている一軒の家。その庭の池に、長生きのかめが一匹、住んでいました。長いあいだひとりでいたせいで、かめは自分の名前さえ忘れかけていました。そんなある日、家に越してきた二年生のかえでちゃんと出会ったかめは、自分の名前が「まめ」であること、名前をつけてくれたまつこちゃんとその家族のこと、そして、ずっと心の奥底にしまっていた記憶を思い出します。それは、いま思い出しても心が破れそうに辛い、1945年8月の満月の日に起きたことでした……。
ひろしまに原爆が落ちた日と、その前後のまつこちゃんの家族の姿を、その時からずっと生きているかめのまめが現代を生きるかえでちゃんに伝えます。数十年前にまつこちゃんが体験した出来事と思いをかえでちゃんはどう受け取ったのでしょうか。さらにこの物語を手にする子どもたちはどう受け取ることができるのでしょうか。
戦争を描いたお話ではありますが、まめのゆったりした佇まいとかえでちゃんの素直なかわいらしさ、やさしいお庭の自然がやわらかな雰囲気をまとっていて、低学年の子でも気負いなく手に取っていただける物語です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
8月5日 家族のアルバム写真が語りかけてくる多くのこと
土曜日は『ヒロシマ 消えたかぞく』
原爆投下前、戦争中であっても、広島の町には笑顔にあふれた家族の日々の暮らしがありました。散髪屋さんである鈴木六郎さん一家の6人家族も、少しの不安はあったかもしれませんが、毎日笑顔で楽しくくらしていました。お父さんの鈴木六郎さんは、カメラが趣味。たくさんの家族写真を撮りためていました。
あの日。1945年8月6日。
一発の原子爆弾がヒロシマのまちに落ちました。
六郎さん一家は全滅しました。
長男の英昭くん(12歳)と長女公子ちゃん(9歳)は、通っていた小学校で被爆。英昭くんは公子ちゃんをおんぶして、治療所があった御幸橋まで逃げました。衰弱した公子ちゃんを「あとで迎えに来るからね」と治療所にあずけ、英昭くんは親戚の家へ避難しましたが、高熱を出し、数日後に亡くなります。公子ちゃんの行方はわからなくなりました。次男まもるくん(3歳)と次女昭子ちゃん(1歳)は、六郎さんの散髪屋さんの焼け跡から白骨で見つかりました。お父さんの六郎さん(43歳)は、救護所でなくなりました。救護所の名簿には「重傷後死亡」と記録されていました。家族がみんな亡くなってしまったことを知ったお母さんのフジエさん(33歳)は、井戸に身を投げて亡くなりました。
たった1発の原爆が、六郎さん一家を消し去ってしまいました。
この本を開くことで、原爆の残酷さ、戦争のむごさを、読む人の身に引き寄せて考えるきっかけとなったら、という願いを込めてつくりました。また、愛情あふれるすばらしい家族写真の数々から、幸せにくらす人間の何気ない日常こそが大事であることに気づかされます。それは、幸せな平和を作っていくのは、私たち自身であると訴えかけているようにも思えます。
家族で平和を考えるために、最適の写真絵本です。
合わせておすすめ。
2019年7月に刊行された絵本『ヒロシマ 消えたかぞく』は、悲惨な戦争を幸せな家族の風景から伝えた新しい切り口として話題を呼びました。刊行後は、シニア世代を中心に多くの反響が寄せられ、あの家族を自分自身に重ねて読む人が多いことが分かりました。本書は1500枚以上あったアルバムの写真から絵本ができるまでを紹介し、戦前、戦中、戦後の家族や、亡くなった家族、生き残った家族、また今を生きる家族など、「かぞく」をキーワードに、戦争、平和、いのちについて問い続ける著者・指田和の活動のノンフィクションです。
8月6日 日常の中にある「平和」の尊さについて考えてみよう
日曜日は『日・中・韓平和絵本 へいわって どんなこと?』
「平和」というのは日常の本当にさり気ない瞬間に存在しているのだと改めて思います。
おいしいごはんが食べられて、夜ぐっすり眠れる。
当たり前だと思っているのは幸せなことだけど、やっぱり本当は当たり前のことじゃない。
いやだという意見が言えたり、ごめんなさいとあやまること。
これだって小さな事に思えるかもしれないけど、実はこれができないと大変なことになる。
そして何より大切なのは・・・。
戦争の場面もいくつか登場します。でもこれは怖がらせるためではなく、こどもが自分達の意思で平和な世界というものをつくっていけるんだというメッセージも込められているようです。
作者は『あやちゃんのうまれたひ』や『ぼくのかわいくないいもうと』など、温かな目線で家族や子ども達を描き出している浜田桂子さん。
日本、中国、韓国三カ国の絵本作家とともに平和を訴える絵本シリーズの第一作として練られてきた作品ですが、読んでみればやっぱり子ども達への深い愛情を感じてしまいます。親子で読みながら、会話をしながら、平和について考えるきっかけになってくれればいいですよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
さまざまな表現から伝わってくる平和への願い…。
記事のタイトルを親子で、としてはいますが、大人の方も読んだことのない本があったら、手にとってみてくださいね。
秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)
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