生成AIが急成長するいま、私たち人間は、AIと共存しながら自分だけの強みを見つけ出すことが重要になっています。
「仕事を奪われる」などとAIを脅威に感じるより、むしろ協働し、そのうえで人間らしさや人間ならではのスキルを武器にすることが、私たちの大きな力となるはずです。
この記事では、あなたが今後も発揮できる強みの身につけ方について、掘り下げていきます。
カギは人間らしさ・人間ならではのスキル
人間にできて、AIにできないことはなんでしょう?
- AIは、莫大な量のデータを学習し、それに基づいて迅速に解決策やアイデアを提示する能力を持っています。一方で、人間の創造性には独自の深みがあります。それは個人の経験、感情、文化的背景、倫理的な側面、直感が組み合わさることで生まれるものです。
- AIは膨大なデータからパターンを抽出し、過去の傾向に基づいて変化を予測することができます(売上や市場トレンドなど)。しかし、これはあくまでも過去のデータに基づくものです。まったく新しい状況や、予期せぬ変化には対応が難しいため、そうした対応には人間の柔軟性と適応力が不可欠となります。
- AIは、人間が時間をかけて行なうような複雑な作業も、高速かつ効率的に処理し、作品などの生成を行なうことができます。しかし、人間の心に深く響く感情や、微妙なニュアンスを含んだ社会的文脈を織り込む行為は、人間ならではの領域だと言えるでしょう。
- AIは、パターン認識(規則性や特徴的なパターンを見つけて分類・予測するプロセス)に基づいて学習したデータから反応を示します。
しかし人間は、相手の微妙な感情の変化や状況に応じて、柔軟に対応することが可能です。つまり、信頼関係を築くうえで不可欠な他者の立場に立って深く共感し、その感情に寄り添う能力は、人間ならではのものなのです。
したがって、私たちがこれから強化すべきことは、結局のところ人間らしさと、人間ならではのスキルだと言えます。
そうしたことをふまえ、今回は、ストーリーテリングの強化・専門分野での知識融合・人間関係の構築と強化といった3つをピックアップしました。次項でその学び方・鍛え方について説明していきます。
1. ストーリーテリングの強化
ストーリーテリングとは、物語で伝えたいメッセージを強く印象づける方法のことです。製品やサービスの機能を伝えるだけでなく、それがもたらす価値や体験を物語として共有することで、より深い共感と信頼を得ることができます。
AIも高速で物語を創作できますが、コロンビア大学のコンピューター科学研究者(2025年秋よりニューヨーク州立大学ストーニーブルック校助教授)のトゥヒン・チャクラバーティ氏は、こうコメントしています。*1
- 「AIが生成した物語は全体的に、意味的にも内容的にも似ている」
- 「良い文章とは、説明するものではなく、想像させるものです。AIは常に説明しています」
同氏がそう語るのは、AIのつくり出す文章が「説明的で、ステレオタイプを多く含む」からです。*1
つまり、人々の感情に訴えかけ、想像させるような物語をつくるのは、人間ならではの強み。その事実をふまえ、今回は、ストーリーテリングイベントで何度も優勝経験がある Matthew Dicks 氏が、ワークショップの生徒に課す練習法の、“Homework for Life” を紹介します。
やり方は、毎日、その日に起こった “物語になるような瞬間” を振り返り、日付と要約を書き留めておくというもの。この実践で、世界の見方が変わったという医師・教育者・ストーリーテラーの Joel Ying 氏は、次のように述べています。*2
Homework for Life is a great way to collect the moments of your life. The stories of the small moments of life are the ones that audiences connect to most easily.
(Homework for Life は、人生の瞬間を収集するのに最適な方法です。人生の小さな瞬間の物語は、聴衆が最も簡単に共感できるものです)
※和約は筆者が行った
今日のちょっとした印象深い瞬間を思い出し、そこから生まれる物語を想像しながら、毎日書き留めてみてください。ストーリーテリングスキルの向上につながるはずです。
2. 専門分野での知識融合
知識の融合は、異なる分野の知識や経験を組み合わせて、新たな価値を創造する能力です。これは、人間の柔軟な思考力があってこそ可能だと言えるでしょう。
たとえば、テクノロジーと芸術、ビジネスと社会科学など、異なる分野の知識を組み合わせることで、革新的なアイデアや製品を生み出すことができます。
AIは、特定分野での分析に優れていますが、異なる領域を横断して創造的な解決策を見出す能力は、依然として人間のほうが得意です。
ただ、こんな事実もあります。まだ研究の途中段階ではあるものの――
『生成AIで世界はこう変わる』(SBクリエイティブ,2024)の著者で AI 研究者の今井翔太氏によれば、人間は経験から価値ある新しい組み合わせを見つけ、創造しますが、じつは生成AIも、膨大なデータ学習から、そうした組み合わせを見つかられるようになった(と言える)そうです。*3
だからこそ私たちは、パソコンの前に座ったまま、創造などしていてはいけません。直接その場に出向き、あらゆる背景、専門性、考えをもつ人々とリアルに接しながら、知識の融合を行なうべきです。
なぜならば、私たちにはAIにはない意識や主観的な体験が存在するから。それを感じたうえで生まれた創造は、こう感じるべきというモデルに従って反応するAIが生み出す創造とは、ひと味もふた味も違うはずです。
ですから、以下のような一般人でも参加できるイベントに、どんどん足を運んでみるといいのではないでしょうか。
- カンファレンスやセミナー(Tech系イベントや日経フォーラムなど)
- 東京ビッグサイト、パシフィコ横浜、幕張メッセで開催されるさまざまな展示会(一般向けの公開日が設けられている)
- コワーキングスペースのイベント(各地でさまざまなイベントが行なわれている。仕事や資格関連、趣味や遊びなど)
- 日本学術会議 公開シンポジウム(これなら誰でも参加化)
- ワークショップや勉強会等
これこそが、人間ならではの知識融合の強化の仕方です。
3. 人間関係の構築と強化
人間関係の構築は、感情や信頼を基盤とする人間特有のスキルです。AIは効率的なコミュニケーションを提供できますが、深い信頼関係を築くことは、いまのところできません。
なぜならAIは、パターン認識やデータに基づいて対応するのであって、人間のように感情や共感を理解したり、それらを自発的に生じさせたりできないからです。
もちろん、この状況が延々と続くとは言いきれません。前出の今井氏は、AIの社会的知能について、「人間のフィードバックを加えた強化学習などの調整を行えば、ある程度は実現可能であることがわかってきました」と伝えています。*3
とすれば、人間特有のものであっても強化が必要です。そこで提案したいのは、意識的に他者と時間を共有することです。たとば以下のとおり。
- 誰かと仕事で協力し合う
- 誰かを思いやるような行動をする
- 誰かと一緒に趣味や食事を楽しむ
あまりにも普通ですが、こうした行動の結果、人間関係の構築と強化が行なわれるはず。それに、これは人間にしかできないことです。
プログラムされた機能や設計の結果として、時間の共有を行なっているような状態になったとしても、AIが時間の流れを意識したり、それを理解して体験したりすることはありません(もちろん現時点で言えることですが)。
今後も発揮できる強みの身につけ方だと考え、他者と時間を共有することを楽しんでみてください。
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AIが得意なことはAIに任せて協働し、私たちは人間らしさ・人間ならではのスキルをより強固なものにして、予測不可能な時代を生き抜いていきましょう。
*1: MIT Tech Review|生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
*2: Living The Present Moment|Homework for Life ~ Matthew Dicks
*3: PRESIDENT Online|高学歴、高収入、高スキルな人ほど「リストラ候補」になる…東大AI研究者が証言する「AIと仕事」の意外な関係
Shinya
大学では経済学を専攻。集中力があり、長時間、長期間にわたって勉強し続けることが得意。現在は、資格試験に向けて効率的な勉強法の情報を収集中。心理学にも関心があり、コミュニケーション力の向上を目指してさまざまなメソッドを学び、実践している。