「忍耐強く勉強を頑張っているけど、一向に身につかない……」と悩んでいる人は、勉強法に関する勘違いをしている可能性が。じつは、「勉強するなら○○すべき」といった思い込みが効率化を妨げているかもしれないのです。
今回は、勉強を効率化するにはどのような思い込みをやめるとよいかをお伝えし、勉強の仕方をどう改善すれば効率化につながるかについて紹介します。実践例とあわせてご覧ください。
1.「ながら勉強」で勉強効率を上げる
「勉強にはまとまった時間が必要」と考えていませんか?
多忙の合間をぬって勉強する社会人が、「長時間机に向かわなければ勉強はできない」という考えでいては、「今日は時間がとれないから、勉強はまた今度……」となり、なかなか勉強は進まないでしょう。たくさんの勉強時間を確保しようとするよりは、通勤時間やスキマ時間を駆使して “ながら勉強” をするほうが効果的です。
「ながら勉強で本当に大丈夫なの?」と心配する方もいるかもしれません。ですが、ながら勉強は勉強のハードルを下げるのに一役買ってくれると語るのは、教育事業などを手がける株式会社カルペ・ディエム代表の西岡壱誠氏。
2時間勉強しようと思ったときに、1時間勉強して、1時間休んで、もう1時間勉強しようと思っても、「休んだあとの勉強」ってとてもハードルが高いです。
(中略)そんなとき、ちょっとできる勉強の登場です! 高いハードルを見事に下げてくれます。
そして、本格的な問題を解くなど集中力を要する勉強には向かないものの、ながら勉強は「『単純作業系の勉強』であれば、効率がアップしやすい」そうです。
(カギカッコ内および枠内引用元:プレジデントオンライン|テレビやラジオの「ながら勉強」はむしろ集中力を高める…東大生が「受験勉強の息抜きに勉強」をできるワケ)
そんなながら勉強のひとつとして、別の作業をしながら “聴く” 勉強法が挙げられます。
実際、株式会社オトバンク代表取締役会長の上田渉氏が提唱するのが「耳勉強法」です。「耳から本の朗読や講義、講演、対談といったオーディオブックを聴」いて学ぶもので、使うのは聴覚だけ。(カギカッコ内引用元:上田渉 (2022),『超効率耳勉強法』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.)
机に向かう必要がないため、“移動しながら” や “作業をしながら” でも勉強できそうですね。
一般的な勉強法と違い、ノートに書かない、テキストを開かない勉強法ですが、聴くだけでも勉強の効果は期待できます。2020年に脳内科医の加藤俊徳氏が行なった実験では、「『ラジオを聴く』という行為が、脳の成長に有益な働きをもたら」すことが実証されました。「音声情報」を聴き続けることで「言葉を想像力で補完する脳の働きが強化される」そう。(カギカッコ内引用元:PR TIMES|ラジオを聴き続けると記憶系脳番地※が最大2.4倍、聴覚系・理解系脳番地※が最大2倍成長することが明らかに)
この実験で扱われたのはラジオですが、同様に耳勉強法も脳の活性化が期待できそうです。
「耳勉強法」を試してみた
筆者にも「勉強は長時間机に向かってするもの」という先入観があり、仕事の繁忙期はつい勉強を後回しにしがちです。そこで、耳勉強法を取り入れ、会計について勉強することにしました。
前出の上田氏は、音声を聴いて学ぶ以外に方法を指定していないため、筆者なりに以下のルールを設定。
- 「audiobook.jp」アプリを活用、スマートフォンで音声を聴く
- 再生速度は1.5~1.8倍
- 勉強時間は移動中と家事の最中
筆者は以前から利用していたアプリを使用しましたが、別のオーディオブックやスマートフォンの読み上げ機能を活用するのもいいでしょう。
なるべく短時間で効率よく勉強をするため、再生速度はやや早めに設定。実際に勉強しているときの画面がこちらです。
移動中のほか、家事の最中に実践してみた結果、わずか4日間ほどで1冊を聴き終えることができました。別のことと並行して勉強できるため、テキストを開いて目で読むのに比べ、飛躍的に効率が上がったと感じます。さらに、毎日のルーティンに取り入れやすく、習慣化が容易なのも大きなメリットです。
また、ひと通り聴いただけで大まかな内容を押さえることもできました。重要箇所については数日空けても覚えていられましたので、すぐに忘れる心配もなさそうです。記憶の定着が不安な人は、気になる部分だけ聴き直しをするといいでしょう。
2.「違う内容」を混ぜて勉強効率を上げる
1時間勉強する場合、どう進めるのがいいと思いますか? 「この単元について参考書を読み込んだら、例題を解いて……」と、同じ内容について続けて勉強するといいのではないか、と思う方は多いのではないでしょうか。
じつはそうした勉強の進め方は、必ずしも効率がいいとは言えません。ひとつの内容をまとめて勉強するより、別の勉強内容と並行して進めるほうが効果的なのです。
アメリカの心理学者ディック・シュミット氏が、次のように述べたそうです。
Schmidt explains that repetitive drilling on the same task is called “block practice.” You do the same thing, over and over, in one block of activity. Schmidt argues that a better way to learn is to practice several new things in succession, a technique called “variable practice” or “interleaving.”
(訳)シュミットは同じ課題を繰り返し訓練することを「ブロック練習」と呼びます。ひとつの活動ブロック内で、同じことを何度も行ないます。シュミットによると、よりよい学習方法は「変動練習」または「インターリーブ」と呼ばれ、連続していくつかの新しいことを練習するテクニックです。
(引用元:APM reports|Variation is key to deeper learning ※和訳は筆者が補った)
シュミット氏の言う勉強法を計算問題の演習に当てはめると、“公式A関連の問題を5問やったあとで公式B関連の問題を5問解く” のように公式ごとにまとめて勉強するのではなく、“公式Aの問題を1問、公式Bの問題を1問、公式Cの問題を1問、また公式Aの問題を1問……” というように複数の公式を並行して勉強するイメージです。
一見混乱しそうですが、宮崎大学の尾之上高哉氏と生物化学研究所の井口豊氏が行なった実験においても、このような学習方法の有効性は確認されています。実験では、「大学生66人が、学習を1週間の間隔をあけて2回行い、2回目の学習の1週間後にテスト」を実施。また、学生たちを4つのグループに分け、2回の学習法は各グループごとに、次のように指定しました。
- 「2回ともブロック練習」
- 「1回目をブロック練習で2回目は交互練習」
- 「1回目を交互練習で2回目をブロック練習」
- 「2回とも交互練習」
「交互練習」とは、前出のシュミット氏の説明にあった「インターリーブ」という学習法のことです。
実験の結果、テストの正答率は「4>2=3>1」で、最も高かったのが4つめのグループ。尾之上氏・井口氏は、「交互練習の機会が増えるに従って,学習内容の定着が進む」と結論づけています。(カギカッコ内引用元および参考:尾之上高哉、井口豊 (2020), “ブロック練習と口語練習の単独効果と複合効果の比較検討,” 教育心理学研究, Vol.68, pp.122-133.)
その効果を確かめるべく、簿記3級の試験対策を用いて筆者が実践してみます。
「交互練習」を試してみた
前述の実験同様、複数の単元の問題をランダムに解くことに。1日目のノートがこちら。【問題1 簿記とは】の単元から7問、【問題2 仕訳】の単元から2問、【問題3 3分法と分記法】の単元から1問……という具合に解答しています。
どの単元の、どの問題をやったか問題番号を明記し、翌日以降も3つの単元の問題を回答し続けました。
そして5日目のノートがこちら。初日に2問解いていた【問題2-1】は、正答率が上がったので5日目には1問だけ解くことにしています。代わりに同じ単元の【問題2-2】を解く……といった具合に、成果を見て配分を調整しました。
交互練習を続けたところ、初日は間違いが多かったものの、続けることで「前回はここで間違えたから気をつけよう」と対策でき、正答率がアップ。記憶の定着を実感しました。複数の単元の問題を毎日少しずつ解くことで、自然と復習を重ねられたのでしょう。
そして、この方法は参考書を読む際にも活用できると感じました。たとえば、第1章だけをじっくりと読んでその日の学習を終えるのではなく、第1章と第2章を少しずつ読むというように、複数の章を並行で読むのです。読み進めるうち、内容が定着していくのではないでしょうか。同じ勉強を続けるのに飽きてしまう人は、試してみるといいかもしれません。
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勉強を頑張っている人が勘違いしがちなふたつのことを紹介しました。より効率よく勉強するために、いつもの勉強法を改善してみてくださいね。
プレジデントオンライン|テレビやラジオの「ながら勉強」はむしろ集中力を高める…東大生が「受験勉強の息抜きに勉強」をできるワケ)
上田渉 (2022),『超効率耳勉強法』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
PR TIMES|ラジオを聴き続けると記憶系脳番地※が最大2.4倍、聴覚系・理解系脳番地※が最大2倍成長することが明らかに
APM reports|Variation is key to deeper learning
尾之上高哉、井口豊 (2020), “ブロック練習と口語練習の単独効果と複合効果の比較検討,” 教育心理学研究, Vol.68, pp.122-133.)
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。