ビジネスパーソンであれば、誰もが求められる論理的思考(ロジカル・シンキング)。
仕事で「あなたの提案はまったくロジカルではない」とプレゼンで言われたり、「あなたが言っていることはまわりくどくて筋が通っていない」と言われたりしたことは多くの人が経験しているのはないでしょうか?
ただ、その論理的思考の方法が世界共通でも普遍的なものでもなく、それぞれの国の価値観に紐づいた思考の型があるのならどうでしょうか?
私たちが普段ビジネスで「論理的思考」と呼んでいるものや求められるものが、文化的基盤によって異なるものであるとしたら?
ビジネスで要求される「論理的思考」が、日本人にとって苦手である理由が存在するとしたら?
この記事では、「論理的思考」が文化的基盤によって4つに分類されることを指摘し、
目的に応じて形を変えて存在することを主張したスリリングな1冊『論理的思考とは何か』をベースに、私たちが日々仕事で求められる論理的思考について解説し、1分でできる論理的思考を鍛えるゲームをご紹介します。
- ビジネスで要求されるアメリカ式の論理的思考(ロジカル・シンキング)
- アメリカ式の5パラグラフエッセイとは?
- 論理的思考はひとつではない
- 日本人の論理的思考の文化的基盤
- 英語の論理が学べる無料ウェビナーのご案内
- まとめ
ビジネスで要求されるアメリカ式の論理的思考(ロジカル・シンキング)
名古屋大学教授の渡邉雅子氏の『論理的思考とは何か』では、暗黙のうちに世界共通で不変の論理と論理的思考があると受け止められている理由として、以下の2点を挙げています。
- 論理学が必然的に正しい結論を導く論理形式の規則を見つけたこと
- より日常的には論理的な書き方としてアメリカ式のエッセイが分野を問わず多くの書籍で紹介されていること
「より日常的」とは、アカデミックな分野以外(≒ビジネス)と読み替えてもいいでしょう。
実際、書店のビジネス書コーナーを覗けば無数の論理的思考をテーマとした書籍がいまかいまかと読者の手にとられるのを待っています。
そのほとんどが「どうすれば、ロジカルに仕事ができるか」「ロジカルでいることがビジネスパーソン必須スキル」であるように喧伝されています。
しかし、よくよく書籍を読むと中身はそれほど大きな違いがありません。なぜでしょうか?
それは、ビジネス書で説かれている論理的思考(ロジカル・シンキング)がアメリカ式の作文の型であるエッセイの5パラグラフエッセイの構造をもとにしているからです。
アメリカ式の5パラグラフエッセイとは?
5パラグラフ・エッセイの構造
5パラグラフ・エッセイの型は以下のとおりです。
〈エッセイの型〉
- 序論:主張
- 本論:主張を支持する三つの根拠(真実)
- 結論:主張を別の言葉で繰り返す
よく言われる「結論ファーストで話す」というのは、このアメリカ式エッセイの構造に端を発しています。
5パラグラフ・エッセイの目的と特徴
アメリカ式エッセイは、「証拠を挙げて主張の正しさを証明し、読み手を説得することを目的」とすると渡邉氏は指摘します。*
このエッセイの最大の特徴は、結論ファースト、つまり最初のパラグラフ(段落)で結論となる主張が提示されることです。
主張を始めにもってくることで、主張と関係のない余計な情報が極力削ぎ落とされ、主張の根拠を3つだけ述べる非常にコンパクトでソリッドな型になっているのが特徴です。
そして、主張部分を読みさえすれば、書き手が何を言いたいのか瞬時に把握することができます。
経済的な合理性に根ざした、このアメリカ式エッセイを基にした論理的思考がさまざまな分野でスタンダートとなっているなか、はたしてこれだけが論理的思考と呼べるのでしょうか?
渡邉教授は、その点についてカプランの研究を引用しながら論理的展開は言語圏によって違いがあると述べています。
論理的思考はひとつではない
言語圏による論理展開のパターン
アメリカの応用言語学者であるカプランは、世界30か国以上の留学生の小論文を分析し、言語圏別に論理展開の特徴を分析し、視覚化しました。
カプランによれば、英語圏は直線的な論理展開になっています。これは先ほどのアメリカ式の5パラグラフ・エッセイが主張→根拠(真実)→主張となっていることからもイメージしやすいかと思います。
ロマンス語とは、フランス語に代表される言語圏です。ロマンス語圏では、余談を交えて紆余曲折しながら論理が展開されることが視覚化されています。
私たち東洋はどうでしょうか。渦巻き型に視覚化されているこの図は、主張(中心)から遠いところから始め、間接的に主題に近づいていくことを表しています。
カプランが分類した言語圏による論理展開のパターンはそのほかもありますが、英語圏は「直線型」の、日本は「渦巻き型」と論理展開のパターンと言えるでしょう。
論理的であることとは?
渡邉教授は、「論理であること」を下記のようにまとめています。
論理的であること=「読み手にとって記述に必要な要素が読み手の期待する順番に並んでいることから生まれる感覚である」
「読み手」という部分が非常に重要なポイントで、書き手と読み手のあいだに必要な要素や期待する順番に並んでいることが合意されている必要があると指摘しています。
つまり、論理的であることは社会的な合意の上に成り立っている、ことがポイントとなります。
ビジネスパーソンのみなさんが、提案がロジカルでないと言われたり、筋(論理)が通っていないと言われたりするのは、読み手(伝える相手)にとって必要な要素が不足していることと、読み手(伝える相手)が期待する順番に展開されていないことが大きな要因。
ビジネスにおいて、読み手(伝える相手)が一般的に期待しているのは、経済合理性に基づいたアメリカ式の論理展開であることが多いのが現実です。その点が日本人にとって論理的思考を難しくしている一因です。
では、日本の論理的思考とはどのようなものなのでしょうか?
前述の渡邉教授は、この論理展開のパターンの背景にある文化的基盤について研究をすすめています。
日本人の論理的思考の文化的基盤
政治・経済・法・社会で論理を分類する
渡邉氏は論理のパターンをどの国にも存在する「政治」「経済」「法」「社会」という4つの領域で分類しています。
渡邉氏によると、どの領域の論理と価値観を重視しているかは、その国の教育で教えられている作文で判断することができていると述べています。
日本は「社会の論理」を重視する
「社会の論理」で重視されるのは、社会の構成員から「共感される否か」であると渡邉氏は指摘しています。
共同体を成り立たせる親切や慈悲、譲り合いといった「利他」の考えに基づく個々人の「善意」が社会領域の道徳を形成する。道徳形成の媒体となるのが「共感」である。
つまり、日本が大事にしている論理は「共感」がキーワードになっているということですね。
これを体現しているのが、日本の作文(感想文)です。
感想文の構造
日本の教育では、感想文について特定の構造を教えています。日本で教育を受けた読者のみなさんは、このような形式で感想文を書いた経験があるでしょう。
〈感想文の型〉
- 序論:書く対象の背景
- 本論:書き手の体験
- 結論:体験後の感想=体験から得られた書き手の成長と今後の心構え
アメリカ式の直線型の5パラグラフエッセイとは形式がまったく異なります。そして、先ほど見てきた渦巻き型の論理展開(主張から遠いところから始め、間接的に主題に近づいていく)になっています。日本ではこういった作文を通して、「社会の論理」を形成していると考えられています。
アメリカは「経済の論理」を重視する
ここまでお読みいただければ、お気づきになった方も多いでしょう。アメリカは「経済の論理」を重視しています。
「経済の論理」では、限られたリソースで、効率的に、最大限の収益を上げることを目的としています。
アメリカ式の5パラグラフエッセイでは、「目的達成までの時間、つまり結論に達するまでに必要とされるステップの短さに効率性が現れる」と渡邉氏は著書で記しています。
アメリカは「経済の論理」を、日本では「社会の論理」を重視しており、教育で目指すところの違いがより浮き彫りになったのではないでしょうか。
ここまで、日本とアメリカの文化的基盤によって論理的思考に違いがあることがわかりました。とはいえ、ビジネスの現場ではアメリカ式の論理的思考が大勢を占めているのが現状です。
最後に、このアメリカ式の論理的思考を鍛えるゲームを紹介します。
1分でできるアメリカ式の論理的思考を鍛えるゲーム
「意見+理由」を日本語で1日3つ言ってみる
練習の方法はとてもシンプルです。
何か目についたものを下記の「型」どおりに意見と理由をセットでパッと1日3つ言ってみることです。
- (私は)◯◯が好きです。なぜなら〜だからです。
- (私は)◯◯が嫌いです。なぜなら〜だからです。
たとえば、あなたが通勤で最寄り駅まで行くときのことを想像してみましょう。
犬を散歩している人、コンビニ、駅とは逆方向に歩いている夜勤あがりの人(おつかれさまです)、開店前のスーパーに並んでいる人、銀行のATM……
目についたものについて、ひたすら「好き」「嫌い」というシンプルな主張に理由をつけていきます。
たとえば、
- (私は)犬が好きです。なぜなら、犬はかわいいからです。
- (私は)コンビニが嫌いです。なぜなら、最近お弁当の量が減っているからです。
- (私は)銀行のATMが嫌いです。現金を触りたくないからです。
- (私は)私はスーパーが好きです。野菜がたくさん売っているからです。
なんだ、こんなことかと拍子抜けされた方も多いかもしれませんね。
騙されたと思って目についたものについて「好き」「嫌い」のシンプルな主張に理由を考えてみましょう。意外とむずかしいことに気づくはずです。
なぜ難しいか?それは、日本人の多くが自分の意見に理由を添えて考える習慣がないからです。
渡邉氏によると、これには意識的な訓練が必要だと述べています。
アメリカは小学校一年生から「私は.......と考える。なぜならば.......(I think… because…)」と定型化された言い方で意見を述べる訓練を行なっているそうです。
小学校一年生から繰り返しこの方法で訓練したアメリカで教育を受けた人と、それをやってこなかった日本の教育を受けてこなかった人では、それができないのも当たり前ですよね。
株式会社スタディーハッカーのシニアリサーチャーである時吉秀弥氏もこの訓練については非常に重要であると述べています。
実際、弊社が運営する社会人向け英語スクールであるENGLISH COMPANY / STRAIL(ストレイル)では Comparison Game と呼ばれるゲームで英語で理由を述べる練習を行なうことがあります。
時吉氏は、理由はなんでもいいので意見に対して理由を瞬時に考えることを推奨しています(最初は日本語で練習して、それから英語で練習するトレーニングを行なっています)
英語にする必要はありますが、日本語で行なうことは最も手軽にアメリカ式の論理的思考を鍛えられる第一歩となります。ぜひみなさんも試してみてくださいね。
英語の論理が学べる無料ウェビナーのご案内
「わかるけど話せない」を卒業 - ビジネス英語は「型」で攻略
最後に少しだけ宣伝させてください。
弊社、スタディーハッカーでは英語スクール「ENGLISH COMPANY」「STRAIL(ストレイル)」を運営しています。この度、12月14日にビジネス英語をテーマとして無料ウェビナーを開催いたします。
このウェビナーでは、本記事で見てきた英語での論理的思考をベースにビジネス英語で必要な「型」を学ぶことができます。登壇者は先ほど本記事で触れたスタディーハッカーのシニアリサーチャーの時吉秀弥です。
本記事がおもしろかった方、ビジネス英語を巧みに使えるようになりたい方は必見の内容ですので、ぜひご参加ください!
まとめ
この記事では、日本人が論理的思考(ロジカルシンキング)が苦手な理由を、渡邉雅子氏の『論理的思考とは何か』をもとに紐解いていきました。
ビジネスでは、〈主張 - 根拠 - 結論〉のアメリカ型のエッセイが絶対の論理的思考のように扱われていますが、渡邉氏は同著で本質論理の価値観から思考法を選択する「多元的な思考」が大切であると述べています。
本記事では、一部の紹介となりましたが『論理的思考とは何か』は私たちが日々向き合う論理の多様性にどう向き合っていくかについてのヒントが数多く書いてあります(筆者は個人的に毎年100冊以上の新書に目を通していますが、今年読んだ新書の圧倒的ナンバーワンです!)
さらに深く知りたい方は、同氏の『「論理的思考」の文化基盤 4つの思考表現スタイル』もおすすめです。(こちらもおもしろすぎます...!!)
この記事は、アメリカ式の「直線型」の論理展開と東洋式の「渦巻き型」論理展開をミックスして書いてみました。
それが成功しているかは読者のみなさまのご判断におまかせするとして、この記事がみなさんの論理的思考について少しでも参考になれば筆者としてそれ以上の喜びはありません。
最後までこれをお読みになられた方は、まずは下記のゲームをしてみることから始めてみませんか?
(私は)この記事がおもしろいとおもいました。なぜなら〜だからです。
(私は)この記事がつまらないとおもいました。なぜなら〜だからです。
個人的には、おもしろかった理由をたくさん挙げていただけると幸いです!
*太字は編集部が施した
渡邉 雅子(2024),『論理的思考とは何か?』, 岩波書店.
渡邉 雅子(2023),『論理的思考」の文化的基盤 4つの思考表現スタイル』, 岩波書店.
時吉 秀弥(2023),『英文法の鬼100則』, 明日香出版社.
黒澤隆之
株式会社スタディーハッカー ブランド・マーケティング部 部長 / 社長室 室長。2018年スタディーハッカー入社後、ENGLISH COMPANYトレーナー、STRAIL事業責任者を経て、現職。趣味は本を買うこと。日々増え続ける蔵書に悩んでいる。