「ここ最近ずっと在宅ワークをしていたから、全然歩いてないな……」
「運動が身体にいいのはわかるけど、仕事で忙しいし、やらないとだめ?」
みなさんは、こんな感じで運動をおろそかにしていませんか? じつは、運動不足を放置したままだと、ビジネスパーソンとして大切なことを失ってしまうかもしれないのです。今回は、運動をしないデメリットと、少しでも運動するための簡単な方法をご紹介します。
1. 運動しないと「脳が老化する」
仕事をはかどらせるうえで肝心な「脳」に、じつは運動が大きく関わっています。運動不足に陥ると、脳の老化が早まり、仕事に必要な能力が衰える可能性があるのです。
ボストン大学などの研究チームが、40歳のときに運動不足の状態だった人は、20年後に脳が早く委縮するという研究結果を発表しました。
研究では、平均年齢40歳の男女1,583人にランニングマシンで運動をさせ、脳の状態をMRIで検査。そして20年後にも同じ検査を行なった結果、40歳のときにランニングマシンでのテスト成績が低かった人は、好成績だった人よりも早く脳が委縮していたのだそうです。
最も運動能力の低かったグループでは、最も高かったグループに比べて、なんと2年分も脳の老化が加速していたのだとか。
40歳の時点で、ウォーキングやランニングですぐに息切れしてしまう人は注意が必要なようです。研究者によれば、運動する習慣が、脳の萎縮や認知機能の低下を防ぐ助けとなりうるそうですので、記憶力や集中力といった仕事に重要な認知機能を損なわないよう、若いうちから運動の習慣を取り入れて、脳の老化を食い止めましょう。
ここで、運動のコツをひとつ。精神科医のジョン・J・レイティ氏は、脳の成長を促すという観点で、単調な運動よりも、強弱のあるインターバルトレーニングをすすめています。
「運動には、脳細胞を増やすほか、既存の脳細胞を活性化させる役割もある」と語るレイティ氏。強度の高い運動で脳と身体にストレスを与えたあと、回復期間でバランスやリズムを整える――この繰り返しによって脳に好影響がもたらされるほか、気分もよくなると説いています。
ランニングだけだとハードでも、ウォーキングと組み合わせながらであれば、無理なく運動を続けられそうですね。
2. 運動しないと「メンタル不調のリスクが上がる」
仕事中心の毎日で心が疲れていませんか? 「やる気が湧かない」「なんだかイライラする」といったメンタル不調の原因には、運動不足も挙げられるかもしれません。
ピッツバーグ大学などの研究チームが行なった調査によれば、運動や家事・通勤などの身体活動が減少すると、うつ病のリスクが高まる可能性があるそうです。
研究チームは、2019年2月から2020年7月まで、時間の使い方とメンタルヘルスに関する調査を、682人の大学生を対象に繰り返し行ないました。すると、新型コロナウイルスが流行してからとその前とを比べると、次のような変化が見られたのだとか。
- 1日の平均歩数:10,000歩から4,600歩に減少
- 1日の身体活動量:4.4時間から2.9時間に減少
- うつ病のリスク:90%増加
研究チームはこれらのデータから、身体活動量の減少がメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、うつ病のリスクを上げたと考えたとのことです。
医学博士の西城由之氏は、メンタルヘルスが不調になると、集中力やモチベーションの低下、ミスの増加などが、仕事において生じてくると指摘します。
「なんとなくやる気が湧かない」「集中できない」という状態を防ぐには身体を動かす習慣が大切であることを、覚えておきましょう。
3. 運動しないと「疲れがなかなかとれない」
仕事で高いパフォーマンスを維持するには、日々の疲れをきちんととることも重要。でも、家でゴロゴロしたりたくさん眠ったりしても、十分に疲労回復できません。
じつは、疲れたときこそ身体を動かすほうが、疲れがとれるのです。
アスレティックトレーナーの西村典子氏によると、疲労には2種類あるそう。
- 身体を動かしたことによる疲労
スポーツや肉体労働によって疲労物質が筋肉内に留まり、うまく代謝できていないときに、身体のだるさを感じる。 - 身体を動かさなかったことによる疲労
デスクワークや立ち仕事など、長時間同じ姿勢でいることによって血液の循環が悪くなり、身体のだるさや肩こり、腰痛などが起こる。
西村氏によると、どちらの疲れをとる場合でも共通して「血流をよくすること」が大切だとのこと。
そこで西村氏が推奨するのが、「アクティブレスト」です。これは、疲れたときにあえて体を軽く動かして血行を促進し、疲労物質の代謝を早める疲労回復法。
酸素や栄養素が身体の末端まで行き渡り、二酸化炭素や老廃物の排出がスムーズになるほか、脳にも酸素が供給されるため、頭のリフレッシュもできるそうです。
アクティブレストをするときのポイントは、息が切れない程度の運動に留めること。激しい運動だと筋肉疲労がたまってしまうため、ウォーキングやストレッチなどがおすすめです。
身体を適度に動かして疲れをとれば、仕事で常にいいパフォーマンスができるはずですよ。
全然運動していないなら、こうしよう
「運動の習慣をつけるなんてハードルが高い」「できれば動きたくない……!」そんな人には、日々の生活に取り入れやすい簡単な方法をふたつご紹介しましょう。
1. 椅子に座ったままストレッチ
西村氏は、デスクワークの合間に、椅子に座ったままできる3つのストレッチをすすめています。
身体をひねるストレッチ
- 後ろを振り向くように上体をひねって、背もたれをつかむ。おへそからひねるイメージで。
- 背筋は伸ばし、息を吐きながら10秒ほどキープ。
机も利用して腕を伸ばすストレッチ
- 両手で机をつかみ、椅子を後ろに引いてひじを伸ばす。
- 順手・逆手それぞれ10秒ずつ行なう。
太ももの裏を意識して足のストレッチ
- 椅子を後ろに引き、片足の膝を伸ばした状態でつま先を天井に向ける。
- 太ももの裏に意識を向け、少し上体を前に倒しながら深く伸ばす。
- 左右それぞれ10秒ずつ行なう。
思い立ったらすぐにできるため、運動習慣がない人でも挑戦しやすいはず。仕事がひと区切りついたときや、気分転換をしたいときに試してみてください。
2. 寝る前3分の体幹トレーニング
2014年ソチ冬季オリンピックでスキージャンプの銀メダリストとなった葛西紀明氏は、寝る前の3分間で体幹トレーニングを行なっているそうです。その手順は、以下のとおり。
- ベッドや布団に仰向けになり、両ひざを立てる。
- おへそから1cm下をへこますように力を入れる。
- 2の体勢をキープしたまま、おへそが見えるところまで上半身を起こす。
- 3の体勢を3秒間キープ。
- ゆっくりと息を吐きながら、上半身をおろす。
- 1〜5を5セット繰り返す。
この体幹トレーニングを行なうと、体の軸が安定して姿勢がよくなると葛西氏。正しい姿勢がとれると、おのずと疲れなくなると言います。パソコンやスマートフォンを使うときに猫背になったり、立っているときに左右どちらかの足に体重をかけたりと姿勢が崩れがちな人に、特に効果的だとのことですよ。
ベッドに寝転がった状態でできるため、気軽にチャレンジできそうですね。
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運動を怠ると、損をする場面が増えてしまうかもしれません。簡単なものでもいいので、少しずつ身体を動かす習慣を身につけましょう!
(参考)
保健指導リソースガイド|40歳時の運動不足が脳の萎縮につながる 認知症予防のために運動が必要
Tarzan Web|『SPARK』著者・レイティ博士が、2021年に考える「脳と運動の関係」
PNAS|Lifestyle and mental health disruptions during COVID-19
THE OWNER|あなたは大丈夫?職場でメンタルが不調な人に現れる「7つの症状」
All About|アクティブレストとは…疲労回復に効果的な積極的休養
All About|運動不足は仕事時間に解消! 健康的な身体への道
東洋経済オンライン|40代でも「姿勢」は良くなる、寝る前3分改善法
【ライタープロフィール】
藤真 唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいてわかりやすく伝えることを得意とする。