「結果を出して、評価を得たい」という思いは、向上心のあるビジネスパーソンなら誰もがもっているものです。その思いを叶えるためには、どのような力が必要でしょうか。人材・組織開発コンサルタントとして活躍する大西みつるさんは、その答えとして「修正力」を挙げます。そもそも修正力とはどのような力で、どうすれば高められるのか――詳しく解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
大西みつる(おおにし・みつる)
1961年生まれ、大阪府出身。人材・組織開発コンサルタント。株式会社ヒューマンクエスト代表取締役CEO。立命館大学経営学部客員教授。立命館大学経済学部に入学し、硬式野球部に所属。卒業後、本田技研工業に入社。ホンダ鈴鹿硬式野球部でプレー後、戦略マネージャー、監督を歴任。チームを都市対抗野球大会で日本一に導く。その後、社業に専念してからは、日米双方で人材開発や管理職のリーダーシップ開発に取り組む。自らの体験からリーダーシップ開発の重要性を強く感じ、働きながら筑波大学大学院ビジネス科学研究科で経営とリーダーシップを学ぶ(経営学修士)。2009年、企業のリーダー育成トレーニングと企業変革を支援する株式会社ヒューマンクエストを設立。大手民間企業の従業員を中心に年間延べ4,500人以上のリーダーと向き合い、「自分にリーダーシップを!」のビジョンに向かって活動中。著書に『新しいリーダーシップをデザインする(共著)』(新曜社)、『はじめて部下を持った人のための 超リーダー力』(ぱる出版)、『ビジネス×アスリート・トレーニング式 最高の自分のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
仕事がデキるビジネスパーソンに共通する「修正力」の高さ
人材・組織開発コンサルタントの立場から見た場合、ビジネスパーソンが成果を出すために最も重要なものが、「修正力」だと考えています。ここでの修正力とは、目指すべき最高の結果を手に入れるために、「状況に合わせて自分を柔軟に変えていく力」を意味します。
私がそう考えるようになった背景には、ビジネスだけでなく、スポーツからの影響もあります。かつて私は、選手、戦略マネージャー、監督として13年間にわたり社会人野球の「ホンダ鈴鹿硬式野球部」に所属していました。その経験もあって、現在はアスリートやスポーツチームのメンタルコーチングも行なっています。
長年にわたりスポーツと接するなかで、自身がもつパフォーマンスを最大限に発揮して成果につなげていくことができるアスリートたちには、修正力がとても高いという共通点が見えてきました。アスリートは、インタビューなどで「アジャスト(調節する、調整する)」という言葉をよく使いますよね。そのアジャストが、修正力だととらえてもらってもいいでしょう。
優秀なアスリートがもつ「修正力が高い」という共通点は、ビジネスの世界にも言えることです。修正力が高いビジネスパーソンほど大きな成果を挙げているというのを、人材・組織開発コンサルタントとしての活動を通じて強く実感しています。
しかも、ビジネスパーソンにとっての修正力の重要性は、ますます高まっています。以前のような「会社の指示が絶対」という時代なら、仕事の進め方などを自ら主体的に修正していく必要はありませんでした。でもいまは、個人の意見が尊重されるようになってきた流れのなかで、成果主義の導入が進み、能動的に行動することも求められています。
そのような企業社会のなかで自身の人材価値を高めるために、冷静に状況を分析し、固定観念や既成概念にとらわれず、課題解決策を柔軟に考えられる力の重みが増してきているのです。
「できなかったところ」ではなく、「できたところ」にフォーカスして振り返る
では、その肝心の修正力はどのように高めていけばいいのでしょう? アプローチはさまざまですが、必ず必要になるのは「内省」、つまり「振り返る」ことです。
もちろんなんらかの問題や好ましくない状況があるために修正するわけですから、「できなかったところ」を振り返るのは、ある意味で当然です。ただし、「できなかったところ」ばかりにフォーカスしてはいけません。
なぜなら、できなかったところやその要因を振り返る際には、「『なぜ』できなかったのか?」「『どうして』できなかったのか?」と考えがちだからです。このことは、特に上司の立場にある人に意識してほしいのですが、日本語の「なぜ」「どうして」には、ただ理由や要因を問うだけではなく、「詰問する」「責める」というニュアンスが多分に含まれているのです。
上司から「なぜ」「どうして」と問われると、若手社員は自分が責められていると感じて萎縮してしまい、冷静に状況や要因を分析したり、解決策を考えたりするのが難しくなります。もちろん、自分自身への問いかけでも、程度の差こそあれ同じです。自分に対して「なぜできなかったんだ?」と問うと、やはり自分を責めることになりかねません。
でも、問題が生じたからといって、100%すべてができなかったというわけではありませんよね? なかには「きちんとできたところ」もあるわけですから、そこに注目してほしいのです。
まずはきちんとできたところにフォーカスして振り返りましょう。すると、同じようなシチュエーションに遭遇したとき、同じように成功に導けるようになります。いわば、「再現性」をもてるわけです。また、きちんとできたところを認識することで、不必要に自信を失うこともありません。
一方、できなかったところに関しては、「なぜできたかったのか?」ではなく、「もう一度同じ局面がきたら、次はどうする?」と問うのです。そうすれば、自分を責めることなく、冷静に状況や要因を分析し、「次はこうしよう!」と前向きな気持ちで具体的な行動を考えられるようになるはずです。
大きく変えようとせず、「小さな改善」を意識する
そして、なんらかの修正をするときには、「小さく変える」こともポイントです。なにかを変えようと思うとき、つい張り切りすぎてしまい、どうしても大きな目標を立てがちです。でもそれでは、心理的なハードルが高まってしまい、結局はなにも変えられないということがよく起こります。
ですから、ここで意識してほしいのは、「スモールチェンジ(小さな改善)」です。やり方をほんの少し変えるだけでも、それを積み重ねていくことで、最終的には大きな改善や成長につなげていけます。
たとえば、上司からの仕事の指示や依頼の内容に疑問をもっても、これまでは「はい」とだけ言っていた人がいるとします。そうして疑問を放置していたために仕事が滞ったりうまくいかなかったことがあったなら、今後は「ひとつ、質問していいですか?」と言ってみるといった具合です。
これも文字にすると簡単に感じますが、人によっては相当な勇気が必要かもしれません。同じことをするにも、どの程度の心理的なハードルを感じるかは人それぞれですから、「これくらいならできそうだ」という、自分なりの「小さな改善」を考える癖をつけてほしいと思います。
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。