「仕事で嫌なことがあると、しばらく悶々と引きずってしまう……」
「思いつきで行動したり、周囲の意見に流されたりしがち……」
こうした悩みを抱える方は多いのではないでしょうか。実は、これらの問題は「メタ認知」を活用することで大きく改善できます。
📚 この記事で学べること
- 仕事の生産性をあげる「メタ認知」の基本と活用法
- イライラや不満を解消する思考テクニック
- 正しい判断力が身につく3つのメタ認知トレーニング
- 第一線で活躍するビジネスパーソンが実践する「自問自答」の具体例
本記事では、ビジネスパーソンには欠かせないメタ認知の働かせ方や活用術、トレーニングのコツなどをお伝えします。客観的な視点をもつことに苦手意識がある方は、ぜひご一読ください。
- メタ認知で「もうひとりの賢い自分」登場?
- 悶々としたら「メタ認知」で気持ちの切り替え
- 将来に迷ったら「メタ認知」で情報を吟味
- メタ認知的な質問で「メタ認知トレーニング」
- さっそく始める! メタ認知習慣化のためのデイリーチェックリスト
メタ認知で「もうひとりの賢い自分」登場?
📌 Point
メタ認知とは「頭の中にいるもう一人の自分」が自分の思考や行動を客観的に観察し、より良い判断へと導いてくれる能力です。この力を意識的に使うことで、仕事の質が大きく向上します。
認知心理学の専門家で大阪大学名誉教授の三宮真智子氏は、認知とメタ認知について、こう説明しています。
- 認知:頭を働かせること全般
- メタ認知:自らの認知を俯瞰して客観的にとらえること
後者のメタ認知について、三宮氏の説明を参考にすると、自分のなかにいる、もうひとりの賢い自分が、確認を促したり提案したりして、より適切に導いてくれるイメージです(STUDY HACKER・三宮氏のインタビューより)。
仕事をしながら「このまま進めて大丈夫かな?」「他のメンバーの意見も聞いてみようかな?」などと、客観的な視点で思考をめぐらすような状況でしょうか。いずれにせよ、メタ認知がビジネスパーソンにとって重要な能力のひとつであることは間違いありません。
心理学博士の榎本博明氏は、仕事ができる人はメタ認知力ができていると述べ、それにより以下が可能となることを伝えています。*1
- 自分の理解が足りていない部分、仕事の進め方の問題点に気づける
- 自分の問題点に気づいたら、知識を増やす、理解を深める、進め方を工夫するなどして、仕事力を高められる
- 周囲を納得させる成果が出せていない場合も、その不足に気づくことができる(だから改善に向けて動ける)
こうしたことをふまえ、次項からは、異なるシチュエーションでのメタ認知の働かせ方や活用術、トレーニングのコツなどを説明していきます。
悶々としたら「メタ認知」で気持ちの切り替え
📌 Point
不快な感情が生まれたとき、それを「放置」するのではなく「観察」することが重要です。感情を文字にして客観視することで、冷静な判断を取り戻すことができます。
仕事をしていれば、誰にでも不満を感じることぐらいあるでしょう。悶々とした気持ちが続くことだってあるかもしれません。しかし、それを放置するのは非常に危険です。
たとえば、取引先から文句を言われて「あんな言い方をしなくてもいいのに……」などと、悔しさや不満で頭がいっぱいになったとします。そんなときに仕事を再開しても、集中できない状態が続いてしまうからです。大きなミスにもつながりかねません。
脳科学者の中野信子氏は、「嫌な気持ちを抱えたままでいると、脳のワーキングメモリ(ものを考えるときに使う脳のスペース)が狭く」なり、冷静さを欠いてほかのことを考える余裕がなくなってしまうと警鐘を鳴らしています。
そこで実践するといいのが、抱えている不満を文字にすることです。文字にすれば嫌な気持ちが処理しやすい記号と化し、自分の気持ちを客観視しやすくなるといいます。つまり、アウトプットでメタ認知を働かせるわけです。中野氏いわく手書きでもパソコンでもOK。(STUDY HACKER・中野氏のインタビューより)
先のケースで言えば、「取引先から文句を言われた」「相手の言い方が不愉快だった」などと書き出すことで不満が記号となり、メタ認知が働いて冷静になれるはず。「ところで、なぜあの人はあんな言い方をしたんだろう?」などと相手の事情を汲み取ったり、自分自身にも非がなかったか振り返ったりすることもできるかもしれません。
不満を抱えていることに気がついたら、ご自身がやりやすい方法でアウトプットしてみてください。ただ悶々といらだちを募らせているよりも気持ちを切り替えやすく、次の作業にも前向きに取り組めるでしょう。
将来に迷ったら「メタ認知」で情報を吟味
📌 Point
情報過多の時代では、メタ認知を使って「なぜ自分はそう考えるのか」「この情報は自分の状況に当てはまるのか」と問いかけることで、本当に必要な情報が見えてきます。転職などの重要な意思決定の際は特に重要です。
さまざまな情報があふれかえっている現代では、どの選択が正しいのかよくわからなくなってしまうことがあります。前出の三宮氏は、そんなときにもメタ認知が役立つと言います。*2
たとえば転職に悩み、人に相談したり情報収集したりするうち、ますます迷いが深まったとします。その際には、
- 「なぜ自分は転職したいと考えた?」
- 「本当はどんな仕事がしたいと考えている?」
などと自問してみるのです。そうすればメタ認知が働いて自分の思考を客観視でき、本当にやりたいことにも気づけるのではないでしょうか。
三宮氏も「メタ認知を働かせて情報を吟味し,自分自身の将来を考えることは大切」だと伝えています。*2
見聞きした情報や、人から言われたことをそのまま信じてしまうのではなく、まずは「なぜそう思うのか?」「その情報は本当に正しいだろうか?」「自分にも当てはまるだろうか?」などと思考をめぐらせてみることが大切です。
メタ認知的な質問で「メタ認知トレーニング」
📌 Point
メタ認知力を高めるコツは、問題に取り組む前・最中・後の各段階で自分に問いかけることです。「理解できているか」「別の方法はないか」「次回に活かせる学びは何か」といった質問を習慣にすることで、仕事の質が向上していきます。
なお、前出の榎本氏によれば、心理学者のデルクロス氏とハリントン氏は、メタ認知的モニタリング能力の向上を目的としたトレーニングを行なったといいます。
そのトレーニングでは、「問題を注意深く読んだか」「解く手がかりは見つかったか」「何点くらい取れたか」などの質問を通して、問題解決に対する深い考察を促し、自分の理解度についても振り返るよう導きました。
その結果、このトレーニングを受けたグループは、受けなかったグループに比べて成績が向上したといいます。*1 メタ認知が学習に有効だと示されたわけです。
それと同時に、どんな場合でも問題解決のプロセスで自分の思考を振り返り、自問することは、メタ認知のトレーニングになるといった可能性も示されたのではないでしょうか。
たとえば、キャリアアップのための勉強をする際や、仕事のうえで解決するべき問題がある際にも、
- この問題を正確に理解しているか?
- この問題を解決するための手がかりは何か?
- 問題解決に必要な情報をすべて確認したか?(収集したか?)
- どう解決しようとしているのか?
などと自問してみるのです。
誤った判断をすることがないよう、常にメタ認知を働かせる意識をもつことが、結果としてメタ認知トレーニングにもなるのです。今日からでも取り入れてみてはいかがでしょう。
さっそく始める! メタ認知習慣化のためのデイリーチェックリスト
ここまで解説してきたメタ認知を、明日から実践していただくための具体的なチェックリストをご用意しました。毎日すべてをチェックする必要はありません。最初は「朝の振り返り」だけ、または「感情マネジメント」だけというように、できるところから始めてみましょう。
メタ認知デイリーチェックリスト
🌅 朝の振り返り(5分)
⚡ タスク実行中(随時)
🌇 夕方の振り返り(10分)
😌 感情マネジメント(必要時)
📊 週次振り返り(30分)
▼チェックリストの活用ポイント
- 始めは1日1セクションから取り組む
- スマートフォンのメモアプリなどに保存して、いつでも確認できるようにする
- 1週間続けてみて、自分に合う項目だけを選んでカスタマイズする
***
ビジネスパーソンが仕事をするうえで身につけておきたいメタ認知の働かせ方、活用例、そしてトレーニング法を紹介しました。よろしければ参考にしてください。
*1: ダイヤモンド・オンライン|仕事ができない人ほど「なぜか自己評価が高い」納得の理由とは?
*2: 日本心理学会|心理学ワールド 100号 「弱み」を「強み」に変える心理学 メタ認知の心理学
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。