「もう少し高い視座で考えてみて」と言われて困惑した経験はありませんか? 全体のビジョンを見失っているという指摘を受けて、戸惑ったことはないでしょうか?
こうした経験をお持ちの方は少なくないはずです。視座とは何か、どうすれば高められるのか。多くのビジネスパーソンが抱えるこの悩みに、本記事では実践的な解決策をご提案します。
視座を高めるための2つのフレームワーク、「なぜなぜ分析」と「バックキャスティング」をご紹介します。これらを活用することで、問題の本質を捉え、長期的な視点で戦略を立てる力が身につくでしょう。
短期的な対症療法から脱却し、根本的な問題解決や将来を見据えた意思決定ができるようになれば、あなたの仕事の質は大きく向上するはずです。ぜひ、この記事を通じて視座を高める方法を学び、キャリアの飛躍につなげてください。
視座とは?
“視座”とは、物事を観察する視点や立場のことです。“視座が高い”とは、物事を広い視野で見ることや、高い視点から客観的に捉えることを指します。
たとえば、経営者が企業戦略として、短期的な利益ではなく長期的な利益や社会への影響を考えることを、“視座が高い”といいます。
逆に、“視座が低い”とは、物事を狭い視点や短期的な観点から見ることを指します。広い視野や長期的な視点をもたず、近い将来の利益に固執する状態です。たとえば、報告書のフォーマットに時間をかけすぎ、プロジェクト全体の進捗や最終目標に対する貢献度を見失ってしまえば、それは“視座が低い”といえるでしょう。
職場で「視座が低い」と言われたことがある人は、つまりは短期的な作業や利益に集中してしまい、最終的な目標に目が向いていない、と指摘されているのです。
では、“視座”が低いと、どのような悪影響があるのでしょうか。改善方法と合わせて、確認していきましょう。
“なぜなぜ分析”で視座を高める
視座が低い人の特徴のひとつとして、問題を解決しようとするときに、その場しのぎの対策を繰り返すのみで問題の根本的な原因を探ろうとしないという点が挙げられます。
つまり、低い視座で問題解決に取り組むと、根本的な改善ができず、同じ問題を何度も発生させてしまうという悪影響があるのです。
そこで、視座を高めるために「なぜなぜ分析」というフレームワークを活用することをおすすめします。
「なぜなぜ分析」とはトヨタで使われている問題解決手法であり、問題を明確化するための分析手法です。
問題に対してなぜそれが起きたのか原因を見極め、さらにその原因に対して「なぜ?」を問うことを繰り返し、直接原因だけではなく背後にある根本原因を抽出します。一般的に、5回「なぜ」を繰り返すと、根本的な原因にたどり着くことができるといわれています。*1
なぜ? を5回繰り返して、問題の本質に迫るというわけですね。
たとえば、健康補助食品の製造会社で、売り上げが伸びないという問題があるとしましょう。この問題になぜなぜ分析を活用するならば、次のとおりです。
なぜ? を5回繰り返してみると、原因にたどり着く手ごたえを感じます。
このように、問題の根本的な原因を掘り下げるためのフレームワークを活用することで、高い視座で問題の解決に取り組むことができそうです。
もしもなぜなぜ分析を使わず、低い視座で問題解決を考えたならば、「新製品の売り上げが伸びていないから、自分がもっと小売店に出向いて営業をかけよう」というような、直接的な解決策しか考えつかないかもしれません。
これでは根本的な解決になっていないので、また同じ問題が起きるかもしれませんよね。問題の再発を防ぐために、なぜなぜ分析を使って広い視野で解決方法を探るようにしましょう。
“バックキャスティング”で視座を高める
もうひとつ、視座が低い人の特徴を挙げましょう。それは、短期的な利益を得ることしか考えていないことです。短期的な利益ばかりを求めた結果、将来的な利益を失うかもしれません。
先ほどの健康補助食品の例を用い、“低い視座”で販売戦略を考えてみましょう。
すると、
認知度を上げれば利益が上がる
↓
機能性の高さを押し出した、目につく広告戦略を採用する
↓
“これだけ食べれば一日元気”と宣伝する
という方法が採用されるかもしれません。
栄養の高さを前面に出して広告することで、一時的には認知度が高まるでしょう。しかし、将来的に誇大広告や機能誤認により企業としての信頼性やブランドの低下を招いてしまうかもしれません。
反対に、短期的な利益を追うのではなく、社会課題の解決を目指したとすれば、それが“視座が高い”ということなのです。
では、視座を高くもち、将来的な利益を考えるためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには“バックキャスティング”というフレームワークが有効です。
金沢工業大学教授の平本督太郎氏によると、バックキャスティングとは次のようなフレームワークです。
バックキャスティングは理想の未来として野心的な目標を提示することによって、人々の意識や行動の変化を促し、また目標に共感する人たちのリソースを集めることで、現状の延長上では達成不可能な目標を実現していくという特徴があります。*2
バックキャスティングを用いると、以下の手順で企業戦略を考えることができます。
- 未来情報をインプットする
- 理想の未来像を描く
- 理想の未来像にたどり着くためのステップを考える
- 今取り組むべきアクションを考案する
*2よりまとめた
この4つの手順で、理想的な未来に向けて達成すべき具体的な目標を設定することができるのです。先ほどの健康補助食品の例で挙げるならば、次のようになります。
このように、バックキャスティングのフレームワークを用いることで“低所得層や栄養不良地域を含め、全ての人が健康的な世界”を理想的な目標とし、今実施すべき戦略を決めることができました。
ここで注目すべきなのは、“理想の未来像にたどり着くためのステップ”として“低所得層が購入しやすい価格設定を行う”という内容があることです。
このプランだと、もしかしたら売り上げが一時的に落ちるかもしれませんよね。売り上げを伸ばすことだけを考えてしまえば、このプランは出てこないでしょう。
しかし、“全ての人が健康的な世界”を目標にする企業となれば、企業イメージや信頼性が大きく高まります。短期的には利益が見込めなくとも、長期的に見れば大きな成果を見込めます。
このように、バックキャスティングのフレームワークを用いることで、短期的には損に見えても、長期的に見ればより大きなメリットを生む戦略を考えることができるのです。
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今回は視座の意味と、視座を高めるふたつのフレームワークをご紹介しました。ぜひこの記事を参考にして、これまでより広い視野で物事を考える習慣をつけてくださいね。
※引用部分の太字は編集部が施した
*1 Keyence|5回の「なぜ」で導き出す「なぜなぜ分析」とは?
*2 SDGs ACTION!|バックキャスティングとは メリットや注意点、フレームワークを解説
World Japan SDGs|目標2「飢餓をゼロに」|現状と取り組み、私たちにできること
髙橋瞳
大学では機械工学を専攻。現在は特許関係の難関資格取得のために勉強中。タスク管理術を追求して勉強にあてられる時間を生み出し、毎日3時間以上勉強に取り組む。資格取得に必要な長い学習時間を確保するべく、積極的に仕事・勉強の効率化に努めている。