仕事を速く進めようと思えば、どんなものが必要でしょうか。
もちろん、実際に仕事を速く進めるための実務のスキルも求められるでしょう。しかし、スキルだけではなく「思考アルゴリズム」というものも欠かせないと言うのは、著書『時間最短化、成果最大化の法則』(ダイヤモンド社)を上梓した株式会社北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿(きのした・かつひさ)さん。そもそも、思考アルゴリズムとはどんなものなのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
成果=スキル×思考アルゴリズム
「アルゴリズム」とは、「計算可能な問題の解を正しく求める手順」のことです。つまり、私が言う「思考アルゴリズム」とは、「思考の手順」のことであり、もっと簡単な表現で言うと「考え方のクセ」となります。これが、仕事の成果やスピードを大きく左右するのです。
仕事で成果を出そうと思えば、多くの人がなにか新たなスキルを身につけたり、スキルを向上させたりしようと考えます。しかし、スキルだけではなかなか成果につながりません。
たとえば営業職の人の場合なら、セールストークはスキルのひとつです。一方、「アポイントに遅れない」「前回に出された宿題の回答をキッチリ準備して持っていく」というようなことが思考アルゴリズムです。いかにセールストークに長けていても、その周辺のことがちゃんとできていなければ、成果につながりにくいことは言うまでもないですよね。
つまり、「成果=スキル×思考アルゴリズム」という法則が成り立つのだと私は考えています。
ピッと思いついたらパッとやる、「ピッパの法則」
いま、日本のビジネスシーンでは生産性向上が大きな課題だとされています。生産性を上げる、効率化を図るには、仕事をこなすスピードを上げなければなりません。では、どうすれば仕事を速くこなせるようになるでしょうか? そうするために有効な思考アルゴリズムのひとつが、「ピッパの法則」です。
これは教えてもらった言葉なのですが、「ピッと思いついたらパッとやる」ことを意味します。なにかやるべきことができたときに、「あとでやろう」「いつかやろう」ではなく、その場ですぐにやる。あるいは、どうしてもすぐにやれない場合にはいつやるかをその場で決めるのです。
ミスを怖がってなかなか行動に移せない人も多いものです。もちろんミスをしないことも大切ですが、すぐに行動に移すことから得られるメリットは非常に大きい。そのことを示すエピソードを紹介しましょう。
最近、私の会社では、ある商品のターゲット層にあたる人たちにアンケートをしようとしていました。多くの社員たちは、アンケート調査を行なう企業に委託しようと考えます。簡単に見積もりをすると、10人のモニターを集めてアンケートをするのにだいたい2か月かかり、予算としては50万円が必要だということでした。
ところが、ひとりの学生社員がまさにその場で「私が行ってきます」と渋谷に出かけ、ハチ公前で一気に50人ほどにアンケートをしてきたのです。そして、翌日にはその結果をまとめて報告してくれました。
また、アンケートは基本的に事前に用意した質問事項に沿って行ないますが、想定外の回答も出てくるものです。その回答を受けて予定していなかった質問を続けると、思いもよらなかった事実が見えてくることもあります。わが社の学生社員のように、自分でアンケートをした場合ならそういったイレギュラーの対応もできますが、外部に委託した場合には想定外の回答への対応はできません。
つまり、この学生社員の場合、ピッパの法則に従ってすぐに行動に移した結果、圧倒的に速く仕事を進められたことのほかに、コストもかけず、さらに仕事の質も高かったということになります。これが、ピッパの法則の力なのです。
特に、この法則については中堅以上の人に意識してほしいと思います。若い人の場合、知識がないからこそすぐに動くことができますが、中堅以上の人たちは「アンケート会社に委託しよう」と考えるなど、これまでの知識や経験がパッと動くことの障害になってしまうこともあるからです。
「あとでじっくり考えない」からこそスピードも精度も上がる
また、仕事が速い人の多くは、「あとでじっくり考えない法則」という思考アルゴリズムももっています。じつはこの法則は、私自身がそうせざるを得なかったところから生まれたものです。
取引先と、ある企画についての打ち合わせをしました。先方の要望などをヒアリングして、普通であれば、「それでは、次回のミーティングまでに企画書を作成します」というふうになるでしょう。
でも、たくさんの業務を抱えている私の場合、次回のミーティングまでに企画書を作成する時間はとれません。そのため、その場で一気に話を詰めて、最終的な企画書に落とし込むのは部下に任せるという仕事の仕方をするようになったのです。
こうすることで、ピッパの法則と同様に、仕事が速くなるだけでなく、その質が上がるというメリットもあります。この例で言うと、「あとでじっくり考えよう」と思っていると、先方としっかり話を詰められない、必要な確認や質問をしないといったことが出てきます。
そのため、あとで企画書を作成するときにも「こうすればいい」「こうすべきだ」という確証がないために、企画書の精度は下がります。先方に企画書を見せたら、「そうじゃないんだよな……」と言われてしまうのです。
でも、「あとでじっくり考えない」「いまこの場で考える」と思っていると、必要なことを漏らさずに確認しようとします。そのため、その後の企画書の精度も上がるのです。
速く仕事を進められるうえに精度も上がるという一挙両得なのですから、ぜひ、ふたつの法則を活用してみてください。
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【プロフィール】
木下勝寿(きのした・かつひさ)
兵庫県出身。株式会社北の達人コーポレーション(東証プライム上場)代表取締役社長。株式会社エフエム・ノースウエーブ取締役会長。大学卒業後、株式会社リクルートに勤務。2002年、eコマース企業・株式会社北の達人コーポレーション設立。独自のウェブマーケティングと管理会計による経営手法で東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1,000億企業に成長させる。フォーブスアジア「アジアの優良中小企業ベスト200」を4度受賞。東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」1位。日本政府より紺綬褒章8回受章。著書に『売上最小化、利益最大化の法則』(ダイヤモンド社)、『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』(実業之日本社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。