物事の嫌なところばかり目についてストレスをためがち……。
仕事や将来のことですぐ不安になり、気持ちが暗くなる……。
こうしたネガティブな感情に悩むことが多く、仕事や勉強に十分に打ち込めていない人は、「感謝のリスト」をつくってみるといいかもしれません。
じつは、日々の幸せや楽しかった出来事を書き出すと、ストレスや不安が減る効果が期待できるのです。仕事にも勉強にも落ち着いた気持ちで取り組めるようになるので、パフォーマンスアップにつながるはず。そんな感謝のリストのつくり方を、筆者の実践例とともにご紹介します。
「感謝の心」が脳に与えるメリット
感謝の心をもつと、脳にはある影響がもたらされます。脳内の神経伝達物質の分泌に作用して、ポジティブな感情が保たれて不安が軽減するのです。
カナダ出身のライフコーチで『GRATITUDE 毎日を好転させる感謝の習慣』著者のスコット・アラン氏は、感謝の気持ちをもつとドーパミンの分泌が促されると説きます。ドーパミンとは、快感をもたらす神経伝達物質です。
人生のよい面に感謝するたびに、脳はドーパミンを分泌する。その結果、気持ちがよくなり、それをもっとほしくなるので、さらに楽しいことを考え、ポジティブな感情を維持し、人生のよい面により意識を向ける。
(引用元:スコット・アラン (2022),『GRATITUDE 毎日を好転させる感謝の習慣』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.)
つまり、“ありがとう!” と思うと、自然と明るくポジティブな気持ちになるということ。これはみなさんも経験的に実感していることころではないでしょうか。
また、感謝の気持ちをもつということは、物事のよい面に目を向けることでもあります。たとえば、今日も元気に職場に行けて嬉しい、上司や同僚との会話が楽しかった、など自然と “よかったこと” に思いをはせますよね。
アラン氏によれば、そんな意識のもち方は、セロトニンの分泌を促すのだそうです。その効果は次のとおり。
仕事やプライベートに関してポジティブな側面に意識を向けると、脳はセロトニンを分泌する。セロトニンは気分を盛り上げる働きがあるから、抗うつ薬に似た作用を持つ。その結果、たちまち元気が出て、人生でうまくいっていることに意識を向け、落ち着きを取り戻すことができる。
(引用元:同上)
感謝の気持ちをもてば、セロトニンのおかげで、気持ちが落ち着くうえに前向きにもなれるのですね。
さらに、「副交感神経の働き」をよくして「全身のリラクゼーション」を促し、「ストレスと緊張をやわらげる」効果もあるとのこと。(カギカッコ内引用元:同上)
つまり、感謝の心をもつことは、何かとストレスや不安を抱えがちなビジネスパーソンにとって、とても大切な習慣なのです。
「感謝のリスト」の書き方
そんな感謝の心をもつことを習慣化するのに有効なのが、朝と夜に「感謝のリスト」を書くことです。
アラン氏が提唱するこのノート術のやり方は、とても簡単。起床時と1日の終わりに、感謝している5つのことを書き出すだけです。具体的には、幸せを感じたことやその日の楽しかった出来事を、感謝していることとしてピックアップするとよいと同氏は述べています。(参考:同上)
たとえば、
- 朝の日の光が気持ちよかった
- ランチがおいしかった
- ゆっくりお風呂であたたまった
など些細なことでいいので、自分が「幸せだな」「楽しかったな」と思うことを自由に書き出します。なお、文章の長さや書き方などに決まりはありません。
朝と夜に「感謝のリスト」を書いてみた
筆者も朝と夜に感謝のリストを作成することにしました。ミスによって落ち込んだ気持ちを引きずったり、仕事のストレスを感じたりすることがよくあるので、気持ちを前向きにしたいと考えたのです。
実践にあたっては、筆者なりの工夫もしました。それは以下の2点です。
「手書き」でつける
今回筆者は、手書きで感謝のリストをつくることにしました。というのも、習慣化コンサルティング株式会社 代表取締役で、「書く」習慣を提唱する古川武士氏が、こう述べていたからです。
普段は目には見えない感情を「文字」で可視化することで、こんなことを思っていたのかと客観視することができます。
結果、自分の感情・思考と距離が生まれて、新しい見方・とらえ方が生まれてきます。
(カギカッコ内含む引用元:ダイヤモンド・オンライン|「今すぐできて効果絶大!」科学的に証明された不安を消し去る方法 ※太字は筆者が施した)
つまり、手で書くことで “気づき” が得られるということ。
ネガティブに感じることも多い毎日ですが、感謝のリストを手書きすれば、こんなによいことがあるんだ、嫌なことばかりではないという気づきが得られそうです。
なおノートは、コクヨのキャンパスノート(B罫、6mm×35行、30枚)を使用。ペンはゼブラのジェルボールペン・サラサクリップ(黒、0.5mm)を使っています。
実践期間は「14日間」
今回筆者は、14日間感謝のリストを書き続けてみることにしました。この14日間という数字は、以下の研究結果を参考にしたものです。
ブラジルのポルトアレグレ連邦保健科学大学(UFCSPA)心理学部心理評価研究所のルージエ・フォフォンカ・クーニャ氏らが1,337人を対象に実施した臨床試験の結果、14日間毎日感謝リストを書いたグループは、ポジティブな感情、主観的な幸福感、人生の満足度が向上し、ネガティブな感情やうつ症状が軽減したのだとか。(参考:Frontiers | Positive Psychology and Gratitude Interventions: A Randomized Clinical Trial)
そこで筆者も14日間に渡り実践を続けました。できあがった紙面がこちらです。左ページに朝の感謝リストを、右ページに夜の感謝リストを書いています。
ある日のリストを抜粋してみましょう。
【朝のリスト】
- アラームが鳴る前にシャキッと目覚めることができた。
- ご近所さんとあいさつをしたら、気持ちが明るくなった。
- 新しく買ったグラノーラがおいしかった。
- 寝癖が少なくて、身支度に時間がかからなかった。
- 10分間スクワットができた。
【夜のリスト】
- 仕事の相談を聞いたら「ありがとう」と言ってもらえて、こちらも嬉しい気持ちになった。
- 家族で食べた鍋がおいしかった。
- YouTubeを見ながらたくさん笑って、心が軽くなった。
- ホットマスクで目のまわりを温めたら癒された。
- お風呂でマッサージをして明日に備えることができた。
リストなので、1項目あたり1行(多くて2行)の短文です。10分前後で書くことができて、無理なく14日間続けられました。
ポジティブな記憶が強化され、仕事や勉強にいい影響があった
今回筆者が書いた感謝のリストのなかには、大きなプロジェクトを任されたとか、学生時代の友人から久しぶりにメッセージが届いたといった特別な出来事はめったになく、些細な出来事に対する小さな感謝がほとんどでした。
ですがむしろ、この “小ささ” がよかったようにも感じています。「スクワットができた」「動画を見て笑った」といった、毎日当たり前のようにある健康や環境に感謝することでこそ、幸福感が高まると感じたのです。
そんな幸福感の高まりは、仕事や勉強にもよい影響をもたらしてくれました。
仕事や勉強に対する意欲が高まった
感謝したいことを紙に書くことで些細な幸せをかみしめるようになり、その余韻が続いてポジティブな気持ちでいられる時間が増えたと感じました。
これは、手書きによってポジティブな記憶が強化されたおかげだと思います。
東京大学教授で神経科学者の酒井邦嘉氏は、「紙の手帳」を使うことで「記憶の想起に対する脳活動が確かに高くなった」という研究結果があり、紙に書くことは「記憶の定着に有利」だとしています。(カギカッコ内引用元:東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部|紙のノートの脳科学的効用)
つまり、手書きには記憶を強化する効果があるということです。感謝のリストに手書きしたポジティブな内容が記憶に残り、幸福感が増して、自然と仕事や勉強に対する意欲も高まりました。
また、仕事での失敗も前向きに反省し、スキルアップのために行動を起こすきっかけにつなげられるようになりました。筆者が作成したリストから抜粋してみましょう。
- 作成したデータやグラフの修正が多かった。医療統計をもっと勉強しようと反省する機会になった。
- 医療統計の勉強におすすめのテキストを教えてもらえた。
以前なら、ミスしたあとは落ち込んだ気持ちを引きずることが多かったので、前向きに考えられるようになったのは大きな収穫です。
定期的に読み返すのがおすすめ
ノートに書いた感謝のリストは、定期的に読み返しました。新しいページに切り替わるタイミングで必ず読み返すことに。
すると、当たり前と思っていることがいかに幸せであるかを再確認できますし、仕事や人間関係でストレスがたまる出来事があっても「お互い様。自分も周りの人に助けてもらっている」と物事の見方を改めることができると感じました。
アラン氏も先述の著書内で、リストを読み返す効果をこう述べています。
毎朝、そのリストを見て感謝すべきことを思い出すことができる。落ち込んだときや何に感謝していいかわからないときはとくに効果的だ。
(引用元:スコット・アラン (2022),『GRATITUDE 毎日を好転させる感謝の習慣』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.)
今後もしネガティブな出来事があっても、この感謝のリストを読み返せば、気持ちを切り替えて仕事に励めそうです。これからも、定期的に読み返そうと思います。
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朝と夜に感謝していることを5つ書き出すだけで、ストレスや不安を減らせる「感謝のリスト」。ネガティブな気持ちになってしまって仕事や勉強に手がつかないことがある方は、ぜひ試してみてくださいね。
スコット・アラン (2022),『GRATITUDE 毎日を好転させる感謝の習慣』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
Frontiers|Positive Psychology and Gratitude Interventions: A Randomized Clinical Trial
ダイヤモンド・オンライン|「今すぐできて効果絶大!」科学的に証明された不安を消し去る方法
東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部|紙のノートの脳科学的効用
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。