「セミナーや研修に参加しても、『なるほどなあ』と感心するだけで実践につながらない」
「その場では『たしかに!』と納得できるのに、しばらくすると忘れてしまう……」
このように、「本当は勉強したことをきちんと覚えて、仕事や生活に活かしたいのに……」と悩んでいる人は多いのではないでしょうか。そんな悩みは、ノートを活用すれば解決するかも。今回は、その日の学びを記憶に残して実践につなげるためのノート術をご紹介します。
「なるほどなあ」で終わる人には何が足りない?
勉強しても感心しただけで終わってしまうのは、「勉強した」と言いながらもじつは “すでに知っていることを確認しただけ” に過ぎないからかもしれません。つまり、新しい情報を学び取れていないため、その後に活かせないのです。
株式会社学びデザイン代表取締役社長の荒木博行氏によれば、「学び」とは「とある経験をする前の自分(A)と、その後の自分(B)の差分(BーA)」。しかし、「前後の差分のないものを『学び』と言ってしまっている」ケースも多いのだとか。「何か学んだ気」になっただけで、満足してしまっているのです。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|学びをそれっぽい一般論で終わらせない方法 )
例として、DX研修を受けたのに、業務にまったく活かせていないケースで考えてみましょう。学びとは研修を受ける前後の差分のことですから、研修前には知らなかったことを研修を通じて知れたのであれば、そこが差分となるはずですね。
たとえば「DXとは何か」については以前から知っていたけど、「DXに関する他社の成功事例」については研修で初めて知ったのだとしたら、後者の知識については研修を通じて得た差分=学びとなります。
しかし研修を受け「なるほどな」と感心したわりには、新しい何かを学び取ることができなかった(つまり、差分がなかった)のだとしたら――、その「なるほどな」という感覚は、すでに知っているDXに関する知識を確認したことだけによるものかもしれないわけです。それでは、その後に何も活かせなくて当然ですよね。
荒木氏いわく、「『自分にとって』何が新しい発見だったのか、ということを突き詰めていく必要」があるとのこと。(カギカッコ内引用元:同上)
これを実践するには、勉強した内容をしっかりと振り返ったり、客観視したりする必要がありそうです。手掛かりになるようなノートをとっておけば、自分なりの差分を見つけられるかもしれません。
「なるほどなあ」で終わらせないためのインプットメモ
「なるほどなあ」と感心しただけで終わらない勉強をするためには、ぜひノートを活用しましょう。勉強内容に加え、自分なりの気づきや発見をノートに記録していくのです。
ここで参考にしたいのが、『考える人のメモの技術』などの著書をもつ下地寛也氏が推奨する、インプットメモというノート術です。ポイントは以下の2点。
- 「自分に必要だと思うことを選んでメモ」する
- メモに「気づきを加えて、情報を使う一歩手前までイメージ」する
こうすることで、「インプットした情報をアウトプットにしっかり活用でき」るのだとか。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|「これ、どう思う?」と聞かれて、自分の言葉で返せる人・返せない人の差)
たとえば、セミナーの前に「コミュニケーションに役立つことをメモしよう」と決めておき、それに当てはまる内容だけをノートに書くといった感じです。加えて、「後輩指導に使えそう」といったように自分の気づきも書いておけば、実践につなげやすくなります。
上記の2点については、筆者もかなり納得がいきます。というのも、勉強中なんにでも「なるほどなあ」と感じてあれもこれもとノートをとってしまい、あとで見返したときに何が重要なポイントかわからなくなることがよくあるからです。必要なことだけを選んでメモすれば、そうした問題が解消しそうです。
また、筆者は自分のメモをあとで見て「どうしてこれをメモしたんだっけ? 何かに使えそうだと感じたはずだったんだけど……」と思うこともしばしば。下地氏の言うように、メモしたことがなぜ重要だと感じたのか、何に活かせそうかを書いておけば、あとになって迷わずにすむに違いありません。
インプットメモを実践してみた
ここからは、インプットメモの具体的なやり方を、筆者の実践とともにご紹介します。
今回筆者は、以前から関心のあった「言語とジェンダー」に関するオンライン講座を受講しました。オンライン講座には興味深いものがたくさんあり、たまに受講するのですが、仕事には活かせずにいたのです。そんな状況を、インプットメモにより改善したいと考えました。
まずはノート選びから。下地氏によると、「すぐに取り出せて常時持っていたいと思える愛着が持てるノートがいい」とのこと。(カギカッコ内引用元:コクヨステーショナリー|【W杯森保監督愛用~キャンパス~のコクヨが語る】仕事ができる人はインプットをどうアウトプットにつなげている?)
そこで筆者は、普段持ち歩いているバイブルサイズのシステム手帳に、方眼紙をセットして使うことにしました。
ノートが決まったら、勉強を始める前に「この情報は自分にとって必要か?」と考えるための基準を決めましょう。
下地氏はそれを「メモの基準」と呼び、つくり方を次のように説明しています。
ノートのはじめのページに、「活用したい情報」と「面白いと感じる情報」は何かを考えてリスト化する
(引用元:同上)
そこで筆者は、次のようにメモの基準を決めました。
勉強中は、事前に決めた基準に合うと思った情報に絞ってノートをとりました。同時に、前述したとおり気づきも記録。
気づきを書く際は「マークをつけ」るといいとのことなので、筆者は情報の下に「▶」を書いて気づきを追記しました。(カギカッコ内引用元:同上)
完成したノートは、次のとおりです。
感心しただけで勉強を終わらせないコツは○○にあった
実践の結果、勉強を「なるほどなあ」で終わらせないために効果的だと感じたポイントや、これからインプットメモを試したい人へのおすすめ事項をご紹介します。
「メモの基準」を決めると、勉強の目的がクリアになる
以前の筆者は、「タメになりそう」「仕事に使えそう」と思って勉強を始めるものの、「なるほど」「興味深いなあ」で終わってしまいがちでした。
しかし、メモの基準を書いたことで「記事制作に活かせる知識を吸収しよう」といったように、勉強の目的がよりはっきりしました。その結果、本当に必要な内容をインプットできたと思います。
また、勉強のゴールを定めたため、無駄なメモをとることもなく、ノートがすっきりとして見やすくなるというメリットも感じられました。
今後も、研修やセミナーなどに参加する際にはメモの基準を決めておき、自分にとって重要な情報だけをもち帰り、実践につなげていきたいです。
気づきこそが学びである
さらに、インプットメモで、前出の荒木氏が述べていた差分を発見しやすくなりました。気づきをメモしたことで、自分にとっての新たな発見に自然と目が向いたのです。
たとえば筆者は、講義を受けながら「言語にも無意識のバイアスがある」とノートをとりました。その気づきとして書き加えたのは、「英文で考えると明らかなのがおもしろい」という内容。
講義では例題として「I washed my hands, and then the professor washed ○○○ hands too.」という穴埋め問題が出ました。日本語の場合、「教授」と言うだけでは性別はわかりませんが、英語の場合は「hands」の前に「his・her・their」などの代名詞をつける必要があり、教授の性別が明らかになります。筆者は「professor」になんとなく男性のイメージがあって「his」を思い浮かべていたため、自分にバイアスがあるという気づきを得られたのです。
この気づきがあったからこそ、現在は仕事で必要な文章を読む際、安易に「男性っぽい」「女性っぽい」という先入観をもたないよう、注意することができています。気づきのメモによって、学びを実践につなげられたわけですね。
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勉強したことをきちんと身につけ、実践へつなげるには、ノートの工夫が有効です。今回ご紹介した「インプットメモ」、ぜひ試してみてくださいね。
東洋経済オンライン|学びをそれっぽい一般論で終わらせない方法
ダイヤモンド・オンライン|「これ、どう思う?」と聞かれて、自分の言葉で返せる人・返せない人の差
コクヨステーショナリー|【W杯森保監督愛用~キャンパス~のコクヨが語る】仕事ができる人はインプットをどうアウトプットにつなげている?
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。