「英語学習に伸び悩んでいる」そんな方はいませんか?
勉強しているのに、前ほど学習の成果を感じられない。むしろ前よりもできなくなっているような気がする――じつはこれ、英語学習者によくある悩みです。
せっかく英語の勉強を続けているのに成長を実感できないと、なんだか悲しくなってしまいますよね。こんなとき、どうすればいいのでしょう?
そんなお悩みを解消すべく、時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でトレーナーとして活躍する “英語の専門家” 中馬剛さんにお話を伺いました。
関連記事:第二言語習得研究に基づいた英語学習のメリットは? 効率的な学び方と継続のコツ
【監修者プロフィール】
田畑翔子(たばた・しょうこ)
米国留学を経て、立命館大学言語教育情報研究科にて英語教育を専門に研究。言語教育情報学修士・TESOL(英語教育の国際資格)を保持。株式会社スタディーハッカー常務取締役、コンテンツ戦略企画部部長。
堀登起子(ほり・ときこ)
大学で言語学を学び、卒業後は英語講師やPR企業の海外担当として活躍。通訳・翻訳として10年以上のキャリアをもつ。大学院では国際言語教育について学びつつ、多読スクールを運営。脳科学とComplex Theoryの視点から第二言語習得をとらえることがライフワーク。大学の助教として英語を指導したこともある。TESOL修士取得。株式会社スタディーハッカーコンテンツ戦略企画部。
言語は「U字型曲線」のように発達する
英語学習を始めたばかりの頃は、どんどんできることが増えていった。でも最近は、前ほど伸びが感じられない。むしろ退化しているような.....。これは気のせい、それともホント?
外国語習得に精通した中馬さんは、そんな瞬間は誰にでもあると語ります。なぜなら、言語習得は「U字型曲線」のように発達するから。どういうことなのでしょう。
大学英語教育学会SLA研究会の佐野富士子教授らによると、言語習得における発達のパターンは「足し算的に単純に進むものではなく、U字型曲線をたどる」のだとか。そのため「一度学んだことがうまく使えなくなる時期がある」のだそう。
第二言語習得研究で示されている「U字型発達曲線(U-shaped learning curve)」を図式化したのがこちら。第二言語習得や子どもの母語習得を含む認知的な発達において、学習者はおおむね3つの段階からなる発達プロセスをたどる、とするものです。
(図:廣森友人著, 大修館書店『英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』および和泉伸一著, アルク『第2言語習得と母語習得から「言葉の学び」を考える』をもとに筆者が作成)
- 暗記→限定的な言語使用
- 規則抽出→創造的な言語使用
- 規則活用+習熟→柔軟な言語使用
(図:同上)
1は、これから言語情報を蓄積していく段階。聞いたり読んだりしたことをそのまま記憶していく「項目学習」が中心になります。教科書の英文や単語帳のフレーズをまるごと再生したり、教師が言うことをオウム返ししたりしているだけなので、誤りの数はさほど目立ちません。しかし知識が少ないため、表現の幅が狭く、言えることは限られています。
2は、1の単なる項目学習から、規則に基づいた「体系学習」に移行する段階。言語知識が増えてくると、いったん取り入れた情報になんらかの一貫性を求めようという脳の働きが生じます。いままで得た情報をもとに、パターンや規則を見いだそうとするのです。しかし例外を知らずに、規則を何にでも過剰に当てはめてしまうことも。そのため誤りの頻度は高まります。
3は、外部から得た情報と、脳内で構築した知識体系の比較分析が進み、両者のあいだでバランスのとれた言語能力を獲得する段階。規則と同時に例外にも順応できるようになり、ようやく柔軟に言語を使いこなせるようになります。
このように、習得の道筋は、U字型のカーブを描きながら進むもの。「英語力の伸び」と「正確さの向上」は、必ずしも一致しないのです。
「U字型発達曲線」の例
例を挙げて説明しましょう。
英語を習いたての頃は、なんの疑問も抱かずに、習ったまま動詞の過去形を覚えていきます。 たとえば go→went、play→played、take→took、laugh→laughedのように、見よう見まねでそれぞれ個別に習得します。
その後、「動詞の過去形には”-ed”をつける」というルールを知ります。すると、初めて見る動詞でも「過去のことを表すときは”-ed”をつければいい」とわかりますね。知らない単語でも状況に応じて自ら変化させて使えるようになるので、創造的な言語使用の力がついたと言えます。
しかし、「すべての動詞に”-ed”をつければいい」と一般化して過去形をつくろうとするので、いったん覚えた不規則動詞の過去形(go→went、take→took)にも、そのルールを過剰に当てはめてしまいがち。そのため、go→goed、take→takedのような誤った使い方をしてしまいます。
さらに学習を進め、規則動詞と不規則動詞をきちんと区別できるようになると、また正しい形式を使えるように。goedではなくwent、takedではなくtookと、再び正確に言えるようになるのです。
(図:廣森友人著, 大修館書店『英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』およびJACET(大学英語教育学会)SLA研究会編著, 開拓社『第二言語習得と英語科教育法』をもとに筆者が作成)
同様に、以下のような間違いを犯してしまうことも。あなたにも当てはまる点はありませんか?
- 名詞複数形の不規則変化(women→womans, feet→foots, mice→mouses)
- 数えられない抽象名詞(evidence→evidences, research→researches)
- 比較級(happier→more happy, more expensive→expensiver)
- 最上級(best→goodest / bestest, most beautiful→beautifulest)
この名詞には複数形の “s” をつけていいんだっけ? この形容詞は「more型」「-er型」どっちだったかな......? 学習初期の段階では特に意識していなかったことでも、学習が進むにつれ、つい迷ってしまう。これは誰にでも起こることです。
英語中級者になると「間違いが増える」ワケ
だんだんと知識が増えてきた。新たに教わったことを実際に使ってみよう! そんなとき、間違いが急に増えてくることがあります。前出の佐野教授らはこの現象をこう説明しています。
新しい項目を学ぶとそれまでに構築した言語体系に混乱が生じ、その影響を受けて一度正確に覚えた項目も一時的に正確さが低下してしまうが、体系が新しい情報を取り込んで修正されると、再び正確さを取り戻す
(引用元:JACET(大学英語教育学会)SLA研究会(2013),『第二言語習得と英語科教育法』, 開拓社. ※太字・下線は筆者が施した)
学習を進めるたびに、学習者のなかで言葉の規則はつど再構成されていきます。その過程で、あるルールを拡大解釈して適用してしまうエラーが生じます(これを「過剰一般化」と呼びます)。
「過剰一般化」により誤りの頻度が高まるために、英語初級者よりも中級学習者のほうが間違いが増えるケースも。「学習を続けているのに、前よりもできなくなっている気がする」という悩みの一因はこれだったのですね。
英語学習に挫折する前に! 伸び悩みを乗り越える方法
あなたがいま伸び悩んでいるなら、U字型曲線の底にいる時期なのかもしれません。
でも安心してください。学習を続けるうえで間違いが増えるのは、単に覚えたことを忘れてしまったからではありません。勉強不足のせいでもありません。これらは、学んだことを自分なりに頭のなかで整理していこうとする働きのなかで生じる、意味のある誤りなのです。
第二言語習得研究を専門とする上智大学外国語学部英語学科学科長の和泉伸一教授は、こう語ります。
U字型発達曲線の中心で正解率が落ち込むのは、学習の“後退”からではなく、“前進”(あるいは“深化”)によって起こる現象である。
(引用先:和泉伸一(2016),『第2言語習得と母語習得から「言葉の学び」を考える 』, アルク. ※太字・下線は筆者が施した)
学習の成果が出ていないように感じても、前に進んでいることはたしか。この時期を乗り越えれば、大きな成長が実感できるはずです。
そうはいっても、やはりつらいもの。「伸び悩んで挫折しそう......」そんな方に向けた約4分間の動画がありますので、ぜひご覧ください!
- 英語学習が伸び悩む原因
- U字型発達曲線とは
- なぜ学習当初よりも誤りが増えるのか
- ネイティブの子どもの場合
- 伸び悩みを乗り越える方法
英語のプロトレーナー・中馬さんによる解説で、「英語が伸び悩んでいる」というみなさんのお悩みを解決できるはずですよ。
YouTube「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」では、英語学習中のみなさんを応援するためのお役立ちコンテンツをほかにもたくさんご用意しています。ぜひチャンネル登録をお願いします!
***
英語は正しい方法で学べば、学習したぶんだけ成果が現れるもの。問題は、その成果が可視化されるタイミング。
「自分には語学の才能がない」そう諦める前に、言語の発達プロセスを知ることから始めてみませんか。きっといつか「諦めずに続けてよかった」と思える日が来るはずですよ。
JACET(大学英語教育学会)SLA研究会 編著(2013),『第二言語習得と英語科教育法』, 開拓社.
和泉伸一(2016),『第2言語習得と母語習得から「言葉の学び」を考える』, アルク.
廣森友人(2015),『英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』, 大修館書店.
小池生夫, 寺内正典, 木下耕児, 成田真澄 編集(2004),『第二言語習得研究の現在 これからの外国語教育への視点』, 大修館書店.
大学英語教育学会 監修, 佐野富士子, 遊佐典昭, 金子朝子, 岡秀夫 編集(2011),『第二言語習得―SLA研究と外国語教育(英語教育学大系)』, 大修館書店.
門田修平(2015),『英語上達12のポイント』, コスモピア.