11/16(土)17:30~ @大阪四季劇場
ハービスPLAZA ENTの7階にあるこの劇場。もちろん普通に大阪在住の民としてハービスPLAZA ENT自体には何度も行ったことがあるのですが、劇場内に入るのは初めてでした。なぜかというと、だいたいここでかかっているのがディズニーミュージカルか「オペラ座の怪人」で、「リトル・マーメイド」以外は既に見たことのある作品だったからです。
そして今回の「WICKED」ですが、これも実は初演を見ています。
でも再演までこんなに月日が経つとは思っていませんでした。東京で先行して再演がはじまった時は遠征しようかと思うほど好きな作品だったので、大阪でも再演されるのは大変嬉しかったです。
何よりハービスPLAZA ENTはエレベーターやエスカレーターに古い時計をモチーフにしたデザインが施されているので(詳しくはこちらをどうぞ)、「WICKED」の世界観にぴったりで、7階にある劇場もたいてい簡素な四季の劇場とは思えないほどのラグジュアリー感に素晴らしいセットがものすごく合っていました!
そんなわけでキャスト表です。
スティーブン・シュワルツの珠玉の曲たちと、豪華なセットに衣装は改めて見ると「これぞグランドミュージカル!」とそれだけで感動します。これほどの潤沢な製作費をかけて作れるブロードウェイってすごいなあとしみじみ思いました。
しかし2004年のトニー賞ミュージカル作品賞は低予算なパペットミュージカル「アベニューQ」だったことを思うと、本当に当時のブロードウェイのなんというか作品の多様さに唸ってしまいます。だって「アベニューQ」も本当に素晴らしい作品なんです。愛していると言っていいほど大好きで、こちらもずっと来日公演の再演を待っているんですが...いや、待っています、いつまでも!
で、WICKED再演なんですが、初演の短い感想と同じような感じで終わりました。
いや楽しかったんですよ!四季だから当たり前かもしれませんが、皆さん歌が本当にお上手だし、活舌もしっかりしているからセリフもクリアすぎるほどクリアに聞き取れる。
でもグリンダの「記号的かわいさ」以外にも何かが足りない・・・と思ってしまうのです。
何度も何度も見たこのトニー賞の映像や
何度も何度も聴いたオリジナルキャストのCDから感じられる
(CDの時代ではないので、一応配信サントラもリンクしておきます。Amazon music、Apple music、Sportify、You Tube)
グリンダとエルファバの盟友感が、劇団四季バージョンでは希薄に見えてしまっているように思うのです。
たぶん初演を見たときも同じように感じたからこそ「四季から版権を借りて、ソニンのエルファバ、神田沙也加のグリンダが見たい」とずっと言い続けていた気がします。
でも今回、再演で多分みんな大好きな「Defying Gravity(自由を求めて)」のシーンを見ながら、グリンダが「空飛ぶほうき」から手を放して歌うところで「あれ、ここ、めちゃくちゃ感動するポイントなのに、なんでグリンダがこの判断を下したのか分からないように見える」と戸惑ってしまったんです。
(しかし戸惑わせても感動させてくるここは本当に大迫力の素晴らしいシーンなので、ミュージカル好きの方は全員見てほしいです!)
その理由を考えると、四季独特の発声法や演技のせいではなくて、英語歌詞に対して、日本語訳の情報が少なすぎるせいじゃないだろうか、という結論に至りました。
エルファバが「悪い魔女」とされてしまった後がトニー賞で披露された動画のシーンに続くのですが、ここに行くまでの二人の言い争いの部分の英語はこうなっています。
(ちなみに英語歌詞の日本語はわたしのなんとなくの直訳なので間違っていたらすみません。)
英語歌詞
GLINDA
(spoken) Elphie - why couldn't you have stayed calm for once, instead of flying off the handle!(エルフィー、どうして一度くらい冷静でいられないの!すぐカッとなって)
I hope you're happy!(ハッピーよね!)
I hope you're happy now(今、あなた、ハッピーだよね)
I hope you're happy how you hurt your cause forever(ずっと願っていたことを自分で永遠に台無しにしてもハッピーって思えるよね)
I hope you think you're clever!(自分が賢いって思ってるよね)
ELPHABA
I hope you're happy(ハッピーだよね)
I hope you're happy, too(あなたもハッピーだよね)
I hope you're proud how you would grovel in submission
To feed your own ambition(あなたの野望が満たされるなら彼らの言いなりになってもいいのね)
BOTH
So though I can't imagine how(なんでこうなったか分からないの)
I hope you're happy right now(今この瞬間もあなたはハッピーなんだよね)
ここの日本語歌詞はこうでした。
四季版日本語歌詞
グリンダ
エルフィー、落ち着きなさいよ!
いい加減にして!
もういやよ!我慢できない
自分が何をやっているのか
分かっているの?
エルファバ
あなたにはもううんざり
バカにしているの
イライラする 身勝手な人
2人
あなたとこれ以上
話してもムダ
まあ言い争いをしていることは同じです。ここからエルファバはどんどん覚醒していき、グリンダもエルファバの言葉に心動かされるのですが、一緒に歌いながら握った「空飛ぶほうき」から手を放してしまいます。
そこから続くのが下記の部分です。この英語が喧嘩部分とほぼ同じ言葉を使っているのに「are」がなくなるだけで違うニュアンスになるの、うまくてずるい。
英語歌詞
ELPHABA
Well,are you coming?(あなたも来ない?)
GLINDA
I hope you happy(幸せになってほしいの)
Now that you're choosing this(あなたが今、選んだ道だから)
ELPHABA
you too(あなたも)
I hope it brings you bliss(この決断が本物の幸せをもたらしますように)
BOTH
I really hope you get it(本当に望みをつかみますように)
And you don't live to regret it(そしてこのことを後悔しないように)
I hope you're happy in the end(最後にはあなたが幸せになりますように)
I hope you happy my friend(あなたに幸せになってほしい、友達だから)
この英語の強みを活かした歌詞を日本語にするのは、本当に難しいのがよく分かる日本語版が下記です。
四季版日本語歌詞
エルファバ
グリンダ?一緒に来てくれないの?
グリンダ
後悔はしてないのね
エルファバ
あなたこそ
これでいいのね
2人
この先のこと
分からないけど
選んだ道だから
悔やまない 決して
と、こんな風に「2人の友情」というよりも「2人のそれぞれ決意」が全面に出てしまっているのです。そのため2人がお互いに「それぞれの選択を後悔せず、幸せになってほしい」と思っていることが非常に伝わりにくい。
(このシーンについては、こちらの訳付き動画がすごくわかりやすいので、リンクしておきます。
ちなみに2006年から約5年間、ユニバーサルスタジオジャパンのショーとして上演されていたバージョンでは、英語と日本語まぜこぜではあるのですが、後半のグリンダの「I hope you happy Now that you're choosing this」は「祈ってる ただ幸せを」と歌われていました。この言葉が入るだけでも印象は違うと思うのですが、いかがでしょうか。 )
そんなわけで、二幕も幕開きのグリンダが全然エルファバのことを気にしていないように見えなくもないのが残念で、かつ時々会う2人が相変わらず言い争いをするのにハグしたり、かばったりするのが、ちょっと不自然に見えてしまう。
まあ二幕はフィエロのことがあるので、2人の諍いや感情は分かりやすくはなるのですが、本当はその前に「友情」があることが見えづらいのです。
だからこそ最後にたどり着く、これも絶対みんな大好きな「For Good」も、エルファバが、自分の全てを知っているグリンダだからこそ「託す」ことが説明されず、なんでかただただ「あなたはわたしを変えてくれた大切な友達、ずっと忘れない」的なことだけが歌われて、ううーむとなってしまったのだな、と思いました。
ということで今回の観劇の結論がどこに向かうかというと、
来年、2025年春日本公開予定の映画版をめちゃくちゃ楽しみにしてます!
なんです、本当にすみません・・・。
英語の歌詞をプロの翻訳家さんが作りあげた字幕で見ながら味わえる、それだけでも嬉しい。
その上でエルファバ、2016年のトニー賞で主演女優賞を獲り、圧巻の歌声を披露したシンシア・エリヴォですよ。
グリンダ、MIKAとWICKEDの「POPULAR」をアレンジした「Popular Song」とかまで歌っているアリアナ・グランデですよ!
ああ楽しみ!
ところで大阪での再演が来年7月までのロングランが決まっているからこそ、個人的に四季の舞台版にお願いしたいなと思うのは、グリンダ役に「かわいいコミカルムービング」を徹底的に細かく演出し、かつ専属のヘアメイクアーティストを付けること、だったりします。
なぜならグリンダの「記号的かわいさ」は、エルファバの「記号的な異物感」に対峙するものとして私個人は重要だと思うからです。そしてそれはキラキラの衣装や金髪のカツラだけではまかなえないと思うんです。
舞台である限り、本当にかわいいルックスというのは必要じゃないけれど、顔が見えない二階の観客まで、グリンダには「誰からも愛される魅力」があるのだ、ということがちゃんと届く動き方とヘアスタイル、メイク、衣装の着こなしはほしい。そして四季の場合「どのキャストでも差がなくいい舞台を魅せる」というのが劇団の目標としているところだと認識しているので、歌声と同じくらいルックスも必要なものとして、個人努力じゃなくスタッフ側で完璧に整えてほしいなと思います。(中山理沙さんの歌はちょっとアニメっぽいかわいさで、それはグリンダとしてとってもよかったんです。なのでやっぱりその他を欲張りたくなるのです、すみません)
せめて「POPULAR」はグリンダの「かわいいコミカルさ」が満ちあふれたシーンになってほしい。
足バタバタさせたり、エルファバにギュッとする仕草もわざと拙い踊りも、コミカルでかわいく見えてほしい。
前半早い目の見どころシーンってここだと思うので、進化してくれることを今からでも期待しています。