STUDENT NOTE #05 玄蕃莉子 | STAND UP STUDENTS | Powered by 東京新聞

ABOUT PROJECT

STAND UP STUDENTS Powered by 東京新聞

Powered by 東京新聞ABOUT PROJECT

いま、わたしたちのまわりで、
起きていること。

毎日の勉強や、遊びに恋愛、就活。普段の暮らしの中では見えてこないたくさんのできごと。環境のことや政治、経済のこと。友達の悩みも、将来への不安も。小さなことも大きなことも全部、きっと大切な、自分たちのこと。

確かなこと。信じること。納得すること。コミュニケーションや、意見の交換。
あたりまえの自由さ、権利。流れてきた情報に頼るのではなくて、自分たちの目で耳で、手で、足で、感動をつかんでいく。

東京新聞『STAND UP STUDENTS』は、これからの社会を生きる若者たちに寄り添い、明日へと立ち向かっていくためのウェブマガジンです。等身大の学生たちのリアルな声や、第一線で活躍する先輩たちの声を集めることで、少しでも、誰かの明日の、生きる知恵やヒントになりたい。

時代を見つめ、絶えずファクトチェックを続けてきた『新聞』というメディアだからこそ伝えられる、『いま』が、ここに集まります。

STUDENT NOTE

05
玄蕃莉子
Riko Genba

小さな声に耳を傾け、社会のこと、これからのこと、身近なことを一緒になって考えていくために、学生が書いたエッセイを『STUDENT NOTE』としてお届けしていきます。

日々の暮らしの中で思ったこと。SNS やニュースを通じて感じたこと。家族や友人と話して気づいたこと。もやもやしたままのこと。同世代の学生が綴る言葉が、誰かと意見を交わしたり、考えたりする<きっかけ>になればと思っています。

第5回は、心理学部での学びやアルバイト先で感じた疑問から、生まれた環境や障害について考えるようになった玄蕃莉子さんによるノートです。

「違い」を理解しよう 声を上げよう
~人に寄り添うことが当たり前の社会へ~


文:玄蕃莉子
絵:ワタミユ


世の中には多種多様な人たちがいます。

すべての人が、生まれ育った環境や、触れてきたもの、見てきた世界が違います。人それぞれ「違う」ことが当たり前なはずなのに、自分とは「違う人」に対して、どうして傷つけたり、避けたりするのでしょうか。心理学部での学びや経験がきっかけとなって、いつしかそんな社会の風潮に対して、疑問を感じるようになりました。

中でも「福祉心理学」や「障害児・障害者心理学」では、さまざまな事例に触れることができるのですが、「障害者だから挑戦できないことだらけ」「家庭環境に恵まれなくて人生をあきらめた」という人たちがたくさんいるということが、強く印象に残っています。

ちゃんと能力もあるし、一生懸命がんばっているのに生まれ持っての「吃音」が原因で面接時に笑われ、就活がうまくいかないと悩む男の子。幼少期から、保護者による虐待を受けてきたという女の子は、衣食住さえ不十分で、しかも家庭での愛情を受けられない中で生きていました。愛されたことがないから人間関係の築き方がわからず、友達も好きな人もいない。彼女が言っていた「親ガチャに外れたんです。私は運が悪かった」という自分を責める言葉に、心が痛くなりました。



そのような状況に対して社会が向ける目は、表向きは優しいものもありますが、「障害者と関わるのは大変」「結婚する時の相手の家庭環境は気になる」「虐待を受けた人と子どもを持つことに抵抗がある」という考えを持っている人もたくさんいる、という現実も知りました。

私は、生まれた環境や障害のようにそれぞれが持っている「特性」によって、つらく悲しい思いや、苦しい思いをする人がいる世の中は良くないと思っています。「一般的」「普通」という価値観から少しでもはみ出たら「一般的でなく普通とは違う人」という感覚になり、生きづらくさせてしまう世の中は残酷だと思います。

例えば、私のアルバイト先には、順序だててものごとを行うことが困難だというハンディキャップを抱えている発達障害の方がいます。しかもこのハンディキャップは目に見えるものではないのでなかなか周囲に理解されにくく、ミスをしては怒られる場面を毎日のように見ていました。時には理不尽なことで怒られたり、怒る側もヒートアップしてしまうのか、発言が攻撃的になってしまっている時もあり、本人の心理的な負担が大きくなりすぎているのは、誰が見ても明らかでした。

「その人の特性に合わせた仕事の割り振りを行えたらいいのに」

そう思っても、学生の私は職場では最年少。しかも新しく入ったばかりのアルバイトの身分⋯。なかなか自分から言い出すことはできませんでした。でも、なんとかこの状況を変えたい。そこで私は、特性を理解して,安心して仕事ができる環境にしていく方法は必ずあるという思いを文章にし、新聞に投稿することにしました。

後日、私の思いが掲載された新聞を、職場の方々に読んでもらえることになりました。それがきっかけとなって、職場の環境改善に向けた話し合いの機会を設けることができたのです。仕事の割り振りを見直すことで、職場環境が徐々に改善し、少しずつみんなが働きやすい環境に変わっていきました。障害の有無にかかわらず、それぞれの特性を生かすことができるようになったおかげで、全体の業務時間の短縮にもつながりました。



人にはいろいろな「違い」があることが当たり前です。それぞれが、自分らしく輝くことができるように「違い」を「理解し合う」ことが大切です。すごく勇気のいることでしたが、行動に起こしてよかったと思っています。

大学生が声を上げようとすると「まだ社会に出ていない、学生の身分でしょ。それは社会を知ってから言おうよ」そんな目を向けられることがあります。

しかし、数十年後の未来を担うのは私たちです。すべての人が生きやすい社会にするには、次の世代を担う私たちが声を上げることが大切だと思います。しかも特定のコミュニティの中の人たちだけではなく、いろいろな立場の人たちが声を上げることが必要です。そして声を上げられない人の声も拾って、広げていくことが「すべての人が生きやすい社会」を実現するための手段だと思います。



世の中には、心に傷を抱えた人がたくさんいます。その心の傷は簡単には消えないことを心理学部で学びました。だから、どんな環境に生まれても、人生の途中でどんな心の傷を抱えたとしても…その傷を抱えながら、豊かに、幸せに生きていけるような社会を目指したいです。人に対して偏見を持つのではなく、それぞれの「違い」を理解して寄り添っていくことが、当たり前の社会になったらいいなと思っています。

大学卒業後、私は心理学専門の公務員として、さまざまな「違い」によって生きづらさを感じている人たちの心のケアに尽力したいと考えています。公務員として社会環境の整備に携わる際には、さまざまな「声」を拾い集めて、新たな取り組みに生かし、すべての人が、より豊かに生きることができる社会が実現できるよう、貢献していきたいです。

2021年9月17日

※ エッセイへのご感想やご意見がありましたら STAND UP STUDENTS の公式インスタグラム へ DM でお送りいただくか、匿名でも投稿できるフォームにお送りください。STAND UP STUDENTS では、今後も、学生たちがさまざまな視点で意見や考えを交換し合える場や機会を用意していきます。お気軽にご参加ください。

玄蕃莉子
Riko Genba
1999年生まれ。大学4年生。心理学部。
フィギュアスケート部に所属していました。今は見る専門。
趣味は音楽を聴きながら文章を書くこと。
残りの大学生活は卒業研究を進めながらのびのび過ごします!

------

イラスト:ワタミユ
https://www.instagram.com/w_t_m_y/

シェアする

GO TO TOP