12月27日から1月7日にかけて大阪・東大阪市花園ラグビー場にて、高校ラグビー日本一を決める「花園」こと104回目の全国高校ラグビー大会が開催された。 優勝候補の大本命は、今季15人制で練習試合も含めて無敗のAシード大阪桐蔭(大阪第1)。…
12月27日から1月7日にかけて大阪・東大阪市花園ラグビー場にて、高校ラグビー日本一を決める「花園」こと104回目の全国高校ラグビー大会が開催された。
優勝候補の大本命は、今季15人制で練習試合も含めて無敗のAシード大阪桐蔭(大阪第1)。春の選抜だけでなく、海外の強豪チームが参加する5月の「サニックスワールドユース」も制し、15人制の「高校3冠」がかかっていた。
過去6年で4度目の花園制覇を果たした桐蔭学園
photo by Saito Kenji
しかしそれを阻んだのが、昨季の花園覇者であり夏の7人制を制したAシード桐蔭学園(神奈川)。抽選によって準々決勝で大阪桐蔭と激突することになり、試合序盤で0-14とリードされるも巻き返し、26-14の逆転勝利を収めた。
大阪桐蔭を倒した「東の横綱」の勢いは、さらに加速する。準決勝では國學院栃木(栃木)に25-14、決勝でも東海大大阪仰星(大阪第2)に40-17と快勝し、2年連続5度目の栄冠に輝いた。
「(監督として)20年ほど前に初めて花園に来て、10回決勝に来て5回優勝することができた。桐蔭学園もすごいことをやったな」
大東文化一高で花園優勝を経験し、日体大を卒業してすぐに桐蔭学園で指導者となった現在56歳の藤原秀之監督は、感慨深げに今大会を振り返る。
昨季は初の選抜と冬の花園を制し、高校2冠でシーズンを終えた桐蔭学園。しかし、今季は春から好調だったわけではなく、例年になく苦しんでいた。
昨季の花園決勝を経験している選手は、キャプテンFL申驥世(しん・きせ)、副将FB古賀龍人、No.8新里堅志の3人(いずれも3年)のみで、しかもFWの平均体重は昨季より4kg減。個人技によって接点で前に出られる選手も少なかった。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
昨年2月の関東新人では、國學院栃木の堅守の前に1トライしか挙げられず7-10で敗れ、春の選抜ではBKにタレントの揃う大阪桐蔭に7-13、サニックスワールドユースで再び大阪桐蔭に15-17、さらに夏合宿の練習試合でも東福岡(福岡)に15-51で大敗を喫した。
【世界の潮流を読んだ練習の成果】
結果の残せなかった桐蔭学園がどのようにしてV字復活し、花園の舞台で大阪桐蔭や國學院栃木といった堅守チームを攻撃力で下していったのか。
藤原監督は今季のチーム作りにおいて、「昨季はボールを持って突進できる選手がいた。だが今季はいないので、変えなければいけない」と考えたという。そして「攻撃で前進した時はつなごう」と、桐蔭学園の代名詞である継続ラグビーをさらに進化させた。
かつての桐蔭学園はラックを連取し、相手との我慢比べに勝つラグビーを信条としていた。しかし、2年前から藤原監督はオフロードパスやキックパスといったスキルを使い、判断よくボールをつないでトライまでもっていく練習を重ねてきた。
その理由を、数多くの日本代表を育てた名将はこう語る。
「ラックで停滞してからでは、そんな簡単に綺麗な形でトライは生まれない。それが世界の潮流なので、『イレギュラーをイレギュラーじゃないようにする』『リスクはリスクじゃない』練習を2年間、ずっと積み重ねてきた」
昨季よりFWが小柄だったこともあり、よりスキルとフィットネスに活路を見いだしたというわけだ。
準々決勝の大阪桐蔭戦、7-14とリードされていた桐蔭学園は後半5分にSO丹羽雄丸(3年)のラインブレイクから同点トライを挙げた。自陣からラックとオフロードパスを使って相手ディフェンスを崩し、5対3という数的優位を作ったからこそ生まれたトライだった。
準決勝の國學院栃木戦では、SH後藤快斗(3年)が相手ディフェンスの隙を突くトライを挙げた。これもスキルを活かしたハーフ団の活躍が光ったシーンだ。藤原監督は「今大会はうちの9番(後藤)と10番(丹羽)が一番だった」と目を細める。
さらに決勝戦でも、今季の桐蔭学園を象徴するトライが生まれる。5-0でリードしていた前半最後の時間帯で、相手キックからボールを継続して自陣から70メートルを8人でつなぎ、最後はWTB西本友哉(2年)がトライを挙げた。オフロードパスを交えた、見事なつなぎだった。
【スーパーエースがいたわけではない】
「大阪桐蔭さんがいたから、ここまで来られた」
キャプテンの申はこう語る。今季2度も苦汁を飲まされたライバルの存在があったからこそ、高校日本一の座を掴むことができたのだという。「昨季のチームが強くて、今季のチームは弱くて勝てないと言われて、本当にうまくいかないことばっかりでした。ですが、自分たちも花園で優勝することを信じて練習を積み上げてきたので、最後に優勝できて本当によかった」。
大阪出身の丹波は、大阪桐蔭などに進んだ中学時代の友人を倒すべく、憧れの桐蔭学園に進学した。「昨季はスタンドで優勝を見ていましたが、自分たちの代で優勝したうれしさは格がぜんぜん違います。桐蔭学園はみんなでひとつのことができるチームです」。
中学時代、福岡県選抜に選ばれなかった後藤は、夢を叶えるために神奈川の桐蔭学園を選んだ。「花園決勝で大阪勢と対戦して(桐蔭学園が)勝てたのは自分たちの代が初なので、新たな歴史を作れたという意味でもうれしい!」。
高校3年生の彼らは卒業後、申は慶應義塾大、丹羽は同志社大、後藤は明治大に進学する予定だ。
令和になって6シーズンで4度目の優勝を遂げた桐蔭学園。まさに「令和の常勝軍団」だ。しかし、2019年度〜2020年度に連覇した時のHO/No.8佐藤健次(早稲田大4年)やFB矢崎由高(早稲田大2年)のようなスーパーエースが今季のチームにいたわけではない。
「こんなに成長したチームは今までなかった」
藤原監督が振り返ったとおり、今季の桐蔭学園は敗戦を糧(かて)にチーム一丸となり、花園優勝まで右肩上がりの成長曲線を見事に描いてみせた。