立教大の安藤圭佑主将。チームは4年生を中心に箱根を戦った photo by Aflo【髙林監督の就任以降、練習に集中できるように】 第101回箱根駅伝の復路終了後――。「髙林(祐介)監督が、『安藤がいてこそのチームだった。精神的にも戦略的に…


立教大の安藤圭佑主将。チームは4年生を中心に箱根を戦った

 photo by Aflo

【髙林監督の就任以降、練習に集中できるように】

 第101回箱根駅伝の復路終了後――。

「髙林(祐介)監督が、『安藤がいてこそのチームだった。精神的にも戦略的にも支柱になっていて、なくてはならない選手だった。すごくありがたかった』と言っていました」

 そう伝えると、立教大の安藤圭佑主将(4年)は涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら、こう言った。

「そう言っていただけるとすごくうれしいです......。本当に髙林監督には......苦しい時期に就任していただいて、ここまで成長させていただいたことがうれしくて、何か恩返しできればと思って、今回、シード権を獲りたかったんですけど......獲れなくてすいませんという気持ちでいっぱいです」

 今シーズンの立教大は、箱根駅伝のシード権獲得を最大の目標に掲げてきた。その先頭に立ったのが安藤だった。昨年の箱根後にキャプテンになった安藤は、当初は指導者不在のなか日々の練習メニューを考え、全体練習を見守るなど、自分の走りに集中できなかった。その影響もあり、「なかなか調子が上がらない」と悩んだ時期もあった。

 だが、4月に髙林監督が就任すると、「自分のことに集中してほしい」と言われ、ようやく集中して練習に取り組めるようになった。夏合宿では常に前を走り、チームメイトを鼓舞しながら、練習を消化していった。そして、箱根予選会で立教大は見事にトップ通過。安藤はチーム4位、全体43位。主将としても一選手としても、責任を果たした。その2週間後、初出場の全日本大学駅伝は、安藤がアンカーとして7位でゴールし、シード権を獲得した。

 箱根前、安藤は胸を張ってこう言っていた。

「今年は全日本、箱根予選会としっかり走れているので、最後の箱根もしっかり走って、後輩たちにシード権を残していけたらと思っています。そのためには、自分を含めた4年生がしっかりと走ることが重要だと考えています」

 今回の箱根駅伝で、髙林監督がシード権獲得の最大のキーポイントに挙げていたのが4年生の走りだった。往路の3区に稲塚大祐、4区に林虎大朗、5区に山本羅生を置き、復路の8区に山口史朗、9区に安藤を置いた。

 果たして往路では、2区の馬場賢人(3年)が快走を見せ、稲塚と林がつなぎ、山上りの山本が渾身の走りで12位から8位まで順位を押し上げ、シード圏内でゴールした。安藤は、彼らの走りを寮のテレビで見ていた。

「往路は、本当にみんなすばらしい走りをしていましたし、絶対にシード権を獲るんだという気持ちを感じるレースでした。そういう姿を見て、モチベーションがすごく上がりましたし、復路を走る選手ばかりでなく、チーム全員が(あらためて)シード権を獲得するんだという強い気持ちを持てたと思います」

【シード権獲得のために足りなかったもの】

 往路を終えた髙林監督は、レース後、「復路も4年生がキーになる」と語り、とりわけ安藤の名前を挙げて期待した。安藤が待つ9区までシード権争いをしていれば、キャプテンが決めてくれると考えていたのだろう。

 しかし、そこまで耐えることができなかった。7区で13位まで順位を落とすと、そこから前との差を詰められなかった。安藤にタスキが渡った時点で、9位、10位争いをしていた日体大、東洋大とは1分3秒の差があった。9区に入ってからも、シードを争うライバル校たちは集団となって競り合う中でペースを上げていった。

「前との距離が少しあったんですが、2年前に先輩の中山(凜斗)さんが出した1時間09分44秒を抜けるかどうかを目安にしていました」

 安藤は12月の合宿で余裕を持って練習メニューをこなすなど、良い状態で箱根を迎えていた。この日も、走り始めの時点では調子の良さを感じたという。だが、前との差をなかなか縮められずに区間11位(1時間10分06秒)。チームも13位のまま、10位との差は1分31秒に開いていた。

「シード圏内にギリギリ食い込めるかなという重要な位置でタスキをもらったのにもかかわらず、戦えなかったです。せめて、あと20、30秒速く走れていれば、次につながったと思うんですけど......、自分の力のなさを感じました。自分が勝負できなかったことが、こういう結果になってしまったと思っています」

 安藤は、OBの中山の記録にも及ばず、苦しい走りで終わった。立教大は復路12位、総合13位となり、目標に掲げていたシード権獲得は達成できなかった。安藤は何が足りないと感じたのだろう。

「やっぱりシードを争う(展開になってからの)他校の本気度というか、走りが全然違う。しっかり粘りきる強さ、たたき合いでの強さがうちにはまだ足りないかなと思いました。ただ、昨年の総合14位からひとつ順位を上げていますし、目標としていた総合タイムは設定とほぼ同じだったんです。そういうところを見ると力はついてきていると思うんですけど、競り合いのところ(の強さ)ですね」

 これから力を入れていくべき点がほかにもあると安藤は言う。

「全体の選手層を厚くするのはもちろん、あらためてピーキングも重要だと思いました。そこを完璧にするといいますか、もう一段、二段レベルを上げていくと、もっと戦えるんじゃないかなと思います」

 現状、立教大は髙林監督がひとりで多くの仕事をこなしている。これから上位を目指すには、監督のサポート体制を整え、専門スタッフを入れるなど、走力だけではない部分にもフォーカスして全体の力を押し上げていくことが欠かせない。実際、上位の大学は、そういう体制で戦っている。もはや箱根は監督ひとりの力でどうにかできるレベルの大会ではない。そのことを安藤は理解しているようだ。

【大学卒業を区切りに競技生活は引退】

 残念ながら求めていた結果を手に入れることはできなかったが、髙林監督がキーポイントに挙げていた4年生はそれぞれに頑張りを見せた。5区の山本は区間5位、8区の山口は区間6位と好走し、3区の稲塚は区間13位、林は4区12位、安藤は9区11位と粘り、最後まであきらめずにタスキをつないだ。

「今のチームがあるのは、4年生がいろいろなところで努力してきた結果かなと思います。自分もキャプテンをやっていくうえで4年生の仲間に本当に支えてもらいました。今回、4年生のサポートメンバーもタイム計測や給水を頑張ってくれましたし、声かけひとつにしても心にしみるものがあって、4年生が支えてきたチームなんだとあらためて思いました」 

「4年間、やりきった?」という問いに、安藤は「うーん」と考え、こう続けた。

「最後の箱根の結果は正直、納得がいっていません。もっと走れたはずなのに、という思いが今も残っています。でも、キャプテンになって一時期は箱根に出られるのかなという不安があったなか、みんなシード権を獲得するために必死になってやってきたし、自分もみんなに支えてもらったので、本当に感謝しかないですね。チームのみんなにはありがとうと伝えたいです」

 安藤は大学卒業を区切りに競技生活を引退する。4年間、競技を続けて成長できたことを、今度は別の道でつなげていきたいという。

「来年も(チームを)応援していますし、可能な限りサポートもできればと思っています。シード権獲得を実現する後輩の勇姿を見られたらいいですね」

 選手の待機所で談笑する後輩たちを見ながら、安藤は「こいつらならやってくれますよ」と優しい笑顔を見せた。