NHK杯は9位に終わったアイスダンスの吉田唄菜と森田真沙也カップル【アメリカのカップルが圧勝】 11月9日、国立代々木第一体育館。GPシリーズ・NHK杯でリンクを舞うアイスダンサーたちはお互いが化学反応を起こしていた。 フリーダンス、リトア…



NHK杯は9位に終わったアイスダンスの吉田唄菜と森田真沙也カップル

【アメリカのカップルが圧勝】

 11月9日、国立代々木第一体育館。GPシリーズ・NHK杯でリンクを舞うアイスダンサーたちはお互いが化学反応を起こしていた。

 フリーダンス、リトアニアのアリソン・リードとサウリウス・アンブルレヴィチウスが高得点を叩き出し、総合195.52得点で首位に立つ。続くアメリカのクリスティーナ・カレイラとアンソニー・ポノマレンコは、総合198.97点と逆転した。プログラム全体のスピードが心地よく、技術精度も高いため、短編のお芝居のような感覚があった。

 ところが、同じくアメリカのマディソン・チョックとエバン・ベイツはそれを凌駕した。一つひとつのエレメンツをこなすというのではなく、ダンスを楽しんでいるため、心に響く。動きに無駄がなく、小さなミスもない。世界選手権連覇、GPファイナル優勝の絶対王者は、総合215.95点と圧勝だった。

 世界のアイスダンスシーンは熱い。

【あずしんは逆境のなかの演技】

 一方、村元哉中と高橋大輔の「かなだい」が日本でセンセーションを巻き起こしたあと、日本勢は世界でどの位置にいるのか?

「あずしん」と呼ばれる田中梓沙と西山真瑚のカップルは151.27点で10組中10位だった。しかし、結果以上の成果と言える。田中はケガで練習ができない状況から、大会を戦い通した。

「今回出場する決断をした梓沙ちゃんが、昨日今日のMVP。『ありがとう』っていっぱい言いたいです」

 西山はそう振り返る。

「10月末の東日本(選手権)でフリー当日から(ろっ骨の)痛みがあったようで。NHK杯に出られるか、出なかったらどうか、出て悪化しないのか。そのなかで本当にいろいろあって、日本の病院で診察してもらってやってみる決断になりました」

 当然、ぶっつけ本番だったが、苦難を乗り越えたことで、あずしんは力を身につけたはずだ。

「東日本が終わってから、フリーは滑っていなくて。今日(11月9日)の公式練習から滑り出したので、それで滑りきれたのはうれしいです。でも貴重な舞台で、コンディションを合わせられず......」

 田中は悔しさに悶えたが、カップルらしく西山が引き取った。

「今度こそふたりで整えて、『やったよ』っていう演技ができればと思います!」

【うたまさは世界との距離を実感】

 一方、「うたまさ」と言われる吉田唄菜と森田真沙也のカップルは161.36点で9位だった。『ロミオとジュリエット』の世界観を氷上で表現。喝采を浴び、晴れやかな表情を浮かべた。

「フリーダンスの点数は納得がいくものではなかったですが、滑りきれたなって。この感覚を大事にしつつ、全日本まで糧にしていきたいです。『ロミオとジュリエット』は、みなさんも知っているストーリーで、どれだけ忠実に再現できるか。大会ごとにブラッシュアップできればなと思います」

 森田は汗を輝かせながら語った。ステーショナリーリフト、ローテーショナルリフト、シンクロナイズドツイズル、ダンススピンなどはレベル4。リフトのタイムオーバーで減点はあったが、見せ場をつくった。

 一方、吉田も手応えを感じていた。

「一つひとつの振り付けに意味があるので、それを感じながら、ジュリエットになりきって滑ることができました。真沙也くんの衣装が青くなって、星空みたいな感じなので。夜の星空の下の世界観、物語を出せるように頑張りました」

 そして彼女は、世界との距離についても意識していた。

「後半グループの方々の演技は、一つのプログラムに変な間がない。ずっと一つの作品だなって思います。私たちはまだ変な間があったりするので、そこを磨いていきたいですね」

 彼らはしっかりと世界のトップと自分たちの位置を認識していた。

「世界のトップ選手と比べると、僕たちはまだまだ。それは今回の大会でより明確になりました。見比べられるのは、いいチャンスで。周りの選手はできているって嘆くんじゃなくて、自分たちもうまくなれる気持ちでやっていきたいです」

 森田の言葉も前向きだ。

 あずしんも、うたまさも、アイスダンス転向から間もない。カップル結成は2年目。アイスダンスは引き算の競技でミスが許されず、時間がかかる種目だ。

【かなだいに続けるか】

 国内でアイスダンスのブームを起こしたかなだいが、あらためて快挙を成し遂げていたことがわかる。カップル結成3年目で全日本選手権優勝、世界選手権11位。世界トップ10にあと一歩まで迫った。

 シングルを続けてきた高橋にとっては、別種目の挑戦だった。それも一度現役復帰し、再び引退したあとで甦っている。年齢的ハンデ、膝の古傷との暗闘を続けながら、アイスダンサーに変身したのだ。

「僕はゼロからのスタートで、成長しかありませんでした」

 高橋はそう語っていたが、2年目でアイスダンサーになる実感を得たのは、天性のセンスと渾身のトレーニングのおかげだ。

「アイスダンスを始めたばかりの大ちゃん(高橋)が、ここまで変われたのは本当にすごい。世界観というか、感性がすごくて。見たことのないプログラムを一緒に表現できるのがうれしかったです。大ちゃんにしかできないことで」

 もともと国内でアイスダンス第一人者だった村元にとっても、高橋は特別だった。

 かなだいはふたりの才能と経験がスパークする形で、奇跡を起こした。あずしん、うたまさがあとに続けるか。

「これが100%ではない、まだ伸びしろはある」

 高橋は滑るたび、そう言って超進化していた。その姿勢はひとつのヒントになるかもしれない。