Amazon Music HD について記事したのは約二年前。あのときと高音質ストリーミングサービスの状況が変わっていないのが寂しい限りです。外国籍の振りして Tidal や Qobuz に加入している方もいらっしゃるとは思いますが、日本国内に居住して正規のサービスを受けるなら選択肢は Amazon Music と Apple Music の二択。過日 Apple Music へ再加入してわかったことは、この二択であれば Apple Music も悪くないと申しますか、Apple Music のほうが良い感じることも幾つかあるということでした。良い機会なので一度まとめておきたいと思った次第です。
まだハイレゾ慣れしていない方がこの記事を見つけて下さったことも想定し基本的なことにも触れながら、Amazon Music よりも良いと感じた点を記します。
Apple Music ではハイレゾロスレス
iOS のデバイスで、イヤホンジャック ( もう無いですが… ) にイヤホンを挿して聴くことのできる解像度の限界は 48kHz 24bit です。ちなみに CD 音源が 44.1kHz 16bit。この、CD 音源から iOS デバイスにイヤホンを挿して聴くことのできる上限解像度までを「ロスレス」。イヤホンを挿して聴けない解像度、即ち外部の機器を使わないと聴けない楽曲を「ハイレゾロスレス」と呼称しています。48kHz 24bit も立派なハイレゾですが、Apple では一つ下のグレード扱いです。
Apple Music のロスレスオーディオについて - Apple サポート (日本)
JEITA や日本オーディオ協会のハイレゾの定義と Apple の「ハイレゾロスレス」とは異なります。
一般社団法人 日本オーディオ協会 | ハイレゾ | ハイレゾロゴ | 定義と運用
Apple はイヤホンジャックや AirPods Pro などの自社デバイスの事情で区別をしたのでしょう。そうすれば、顧客への説明の際に「ロスレスは聴けます」「ハイレゾロスレスは聴けませんので外部機器をお使いください」とシンプルに伝えることができます。
外部の機器について
Apple のデバイスから Bluetooth 接続で無線を使いハイレゾを楽しむことはできません。一度は必ず有線の機器を経由して楽しむ必要があります。
「一度は必ず」という遠回しの言い方をしたのは、iPhone から有線接続で LDAC に対応したトランスミッターを経由し無線化している方もいらっしゃると思われるためです。こういった使い方については一旦おいておきまして、折角なのでフル有線で楽しむことを想定しましょう。ここでいうフル有線で楽しむための外部機器というのはデジタル・アナログ・コンバーター、略して DAC のことを指しています。
この DAC、以後ここでは PC やスマホと USB 接続で使用する USB DAC という機器を指しますが、これを Lightning 端子の iOS デバイスに接続して使用するとなると注意が必要になります。変換ケーブルを買うか iPhone 対応と謳っている機器を買う必要があるためです。もちろん USB-C を採用している iPhone や iPad でこの心配は不要です。
それでは、Lightning 端子の iOS デバイスでの注意点について機器種別ごとに記します。
Lightning 端子専用機器
最初から Lightning 端子の外部機器を買ってしまえば、PC や Android スマホで使うことはできませんが失敗もしませんので確実です。私みたいに麻痺したマニアはコンパクトに使いたいという理由だけで Android スマホや PC 用のデバイスを別に買いつつ Lightning 端子専用機器を買ってしまいます。麻痺していない方であっても、Lightning 端子の iPhone しか持っていない方なら専用機器のほうが利便性が高くて良いと思います。
前回の記事で紹介した ddHiFi TC44Pro Lightning は Lightnig 端子専用機器です。
変換コネクタ、接続ケーブルつき機器
USB-C 端子の機器ですが、Lightning 端子の iOS デバイスに接続するための変換コネクタや接続ケーブルを同梱してくれているという製品もあります。これであれば複数の機器で使いまわすことができるうえにメーカーが iOS デバイスに対応した状態で製品化しているので安心です。二年前に紹介した AK HC2 は変換コネクタ付きの機器です。
iPhone対応を謳っていない一般の USB DAC
今回の DAC との接続に限らず、iPhone や iPad に USB 機器を接続するニーズは様々にあります。ですので、Apple は純正変換ケーブルを販売しています。それを購入すれば大型、小型問わず様々な DAC が接続できます。二種類発売されていて、電力をあまり消費しない低電力の機器しか接続できないものと、外部から電力を供給することで電力消費量が高い機器でも接続をできるものがあります。
細かい話をしますと、低電力機器専用のほうは 5V 200mA を超えると iPhone 側で電力消費量が高いと判断し接続が拒絶されます。購入した ( しようとしている ) 機器が iPhone 側の閾値を超えてしまうか否かわからない場合、買ってから「接続が拒絶されて使えなかった」となったら悲し過ぎますので、外部給電可能な後者を買った方が無難でしょう。もちろん、大丈夫だとわかっていれば前者でも問題ないと思います。
サイズ比較
私は残念なことに上述の変換コネクタ類を一通り揃えています。買って実験し、いや失敗し学んだ格好です。ということで、全てを並べた比較用の画像を貼ることができます。サイズ比較用に iPhone 6S Plus も被写体に収めました。ご覧ください。
ハイレゾロスレスを聴くためのアプリ設定
外部の機器が無いと聴くことが出来ないことに加え通信量も飛躍的に大きくなるということで、MUSIC アプリの初期設定ではハイレゾロスレスを聴けないようになっています。聴くための設定変更の仕方を紹介します。
iOS デバイスでの設定変更箇所
「設定」という歯車のアイコンをタップし「ミュージック」を選びます。
音の処理を DAC 側で完結したいため、ビットパーフェクトになるような設定にしておきます。
今回はステレオ音声 ( 2mix などとも呼称 ) の高音質再生を前提としていますのでドルビーアトモスはオフに、オーディオ品質はハイレゾロスレスに変更します。イコライザ、音量自動調整はどちらも音源データを弄ってしまう機能なのでオフにしてください。
Android アブリでの変更箇所
理由は後述しますが、今回は Android アブリ版も取り扱ってみました。
Apple Music アプリを起動し、右上をタップすると設定を呼び出すことができます。
設定内容の考え方は iOS 版と同様です。ハイレゾを有効にして、音源データを改ざんするような計算処理にあたるクロスフェードやイコライザなどをオフにします。
ビットパーフェクトで音源を楽しむ
もしも、ビットパーフェクトの意味について知りたい場合は、過去記事の Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(前編)をご参照ください。
iOS デパイスと外部機器を接続して楽しむ
Amazon Music と違い Apple Music は、iOS デバイスを用いて上述で説明した変換ケーブルと設定さえ間違えなければ、下の写真のように簡単に楽しむことが出来ます。
写真では iPhone 6S Plus と据え置き型の DAC を AK HC2 付属のコネクタを介して接続しています。再生している楽曲の周波数のまま外部機器にデータが送られています。
DAC と iOS デバイスを有線で接続しているため、据え置き型のスピーカー環境にてソファで寛ぎながらゆったりしながらリモート操作で楽曲をザッピングという訳にいかないのが難点です。そうなると、Wiim Mini で Amazon Music のほうが快適です。逆に言いますと、リモート操作が不要なら Apple Music のほうが良いかもしれませんです。
ほぼ有線部分ゼロ長で外部機器を接続する
前回の記事で紹介したデバイス、ddHiFI TC44Pro Lightning と iPhone の組み合わせはほんとうに楽です。この「イヤホンジャックがスマホにまだ付属していた時代と変わらない感覚」のままで、ストリーミングサービスをビットパーフェクトで楽しむ方法は他には無いと思います。 カジュアルさを追求したら唯一無二です。この使い方を知るに Apple Music を選んでおいてよかったと思う方もいらっしゃれば、Amazon Music では実現不可能という現実に歯がゆい思いをする方もいらっしゃるでしょう。
Android デバイスで楽しむ?
良いともダメとも言い切れない状態でしたので "?" つきのタイトルにしました。
Android「スマホ」に外部機器を接続 ⇒ ダメ
結論から申しますとダメです。所有している Android スマホ二機種に Apple Music のアプリをインストールして実験しました。二年前に書いた Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(後編) の頃と状況は変わっていません。一応写真を撮りしましたので貼付しておきます。この端末は上述の記事で「96kHz で出力するよう設定してるスマホ」と書いた機種でして、Amazon Music アプリ使用時と同様に Apple Music でも一律で 96kHz 出力がされてしまいます。お手持ちの機種によって 48kHz で出力されてしまう方もいれば、192 kHz 出力の方もいらっしゃると思います。
Android DAP で楽しむ ⇒ 大丈夫?
所有している Android DAP 「HiBy R6 Pro II (過去記事)」に Apple Music アプリをインストールして試しました。楽曲ごとに再生周波数が切り替わりました。
44.1kHz から 192kHz までの再生周波数を一通りテストした画像がこちらです。
主要な再生周波数全てで追従しています。ちょっとしたサプライズです。これは丁寧に検証しないとと思い、まずは Amazon Music で再実験しました。
Amazon Music ではダメでした。こちらが想定内の Android スマホに接続したときと同様の挙動、 Amazon Music HDをビットパーフェクトで聴く(後編) で書いた「192kHz で出力するよう設定」状態です。
この Apple Music アプリの楽曲周波数に追従する挙動。幸運なことにと申しますか、HiBy が頑張ったと申しますか、その両方でしょう。HIBy が Android OS に仕込んである改造がうまく当たっているようです。公式の HiBy R6 Pro II クイックガイド を見ると最後のほうに Direct Transport Audio という名称で Android OS の周波数変換機能をバイパスするような改造をしてあることと、アプリによってバイパスがうまくいくときといかないときがあることを書いてあります。必ずうまくいくとは限らないと書いてある点は誠実で良いです。
Android OS 内には音を再生させる API が複数あり、どこに対しどのような改造を加えたらうまくいくかは、対象となる音楽再生アプリの開発者がどの API でどのように音楽再生させているか知らない限り答えは出せません。なので手あたり次第、弄れそうなところを弄ることになります。そもそも、音楽再生アプリの開発者が素直に API を叩く保証は無いです。一部に自前の処理を加えるかもしれません。そうなったらお手上げです。
逆に、DAP メーカー側が Android OS に下手な改造したせいで、Android スマホで音楽再生できるアプリなのに DAP にインストールすると鳴らないなどということが起こります。「だったら、余計な改造なんてしてくれるな。アプリがバグるぐらいなら 192kHz 固定の方がマシだよ」となってしまいます。
どこのメーカーの DAP とは申しません。あります。Amazon Music がバージョンアップしたら起動しなくなったとか、Apple Music がよく落ちるとか。某メーカーの DAP が自慢げに改造の優秀さをアピールしていたのを信じて買ったら、それがろくでもない改造で Android スマホの方が音質が悪くてもアプリが起動するし再生中に落ちないだけマシという有様だったことがありました。
幸運なことに Apple Music アブリの OS の叩き方が比較的素直だったことと、HiBy の改造の仕方が優秀だったことの両方が重なっているのでしょう。今後、Apple Music アプリがバージョンアップした際に API の使い方を変態的にするかもしれません。そうなったら、現在のようなビットパーフェクト出力でなくなっても仕方ありません。
それはそれ、今は今。有難く高音質の環境を享受させていただきます。
結論、Android DAP で大丈夫かどうか断言できないが、HiBy R6 Pro II で執筆時点なら大丈夫となりました 。
Android DAP に外部機器を接続 ⇒ 大丈夫?
こちらは結論から申します。上記同様に Android DAP で大丈夫かどうか断言できないが、HiBy R6 Pro II で執筆時点なら大丈夫でした。写真を貼っておきます。
Amazon か Apple か
DAP でビットパーフェクト再生が出来ると知ったその日に、Apple Music の契約を月単位から年単位にしました。DAP で本格的にハイレゾストリーミングサービスを楽しめる日がついに来たと感動しました。Qobuz が最初になると思っていたのですが、なかなかサービスインせず待ちくたびれていたところでしたので感激ひとしおです。
それにしても、機種やサービスを限定した特定条件下でないと本来の楽曲周波数での再生はできないという状態はいつまで続くのでしょうか。困ったものです。
最後に執筆時点の最新状況をまとめてみます。
状況まとめ
スマホでカジュアルに楽しむなら
iPhone と超小型 DAC に Apple Music が確実です。Amazon Music はダメ。
Android スマホと超小型 DAC では、Apple Music と Amazon Music どちらもダメである可能性が高いです。「可能性が高い」という表現に留めたのは Android スマホは様々なものが発売されており、その中には Apple Music や Amazon Music をビットパーフェクトで再生できる改造を加えたというものが存在し、私が知らないだけかもしれないからです。とはいえ、存在すればとっくに音楽ファンの注目を集める製品になっているでしょうし、結果として私も知るところになっているでしょう。
DAP で手軽さと音質を追求するなら
Apple Music ならビットパーフェクトで出力できる機種がありました。記事にした HiBy R6 Pro II 以外にもあるかもしれませんが、私は「SRC回避」と自慢している他社 DAP に騙されて損失を出しています。皆様には「騙されないでください」としか言えません。Amazon Music では見たことも聞いたこともありません。様々な Android DAP が発売されているので、もしかしたら存在するのかもしれませんね。
また、実際に買って使っている人の話でも、192kHz 固定出力を「対応している」と言ってしまう人がいるので、それも含めて判断が必要です。
USB や Toslink などで USB DAC に有線接続するなら
Apple Music なら IOS デバイスが確実かつ機器を追加で買わずに済むので楽です。逆に言いますとストリーマーなどのサードパーティー製専用機器では対応できません。
逆に Amazon Music の場合は専用のストリーマー機器が必要です。記事にした Wiim や Node 、HEOS デバイスなどが対応しています。機器なしで、スマホや PC で済ませることができないのは難点です。
甲乙、優劣つけるなら
わたしは機材もいろいろ買った後かつ Amazon も Apple も契約してしまっているので使い分けていくつもりですが、もしも機材をこれから買う状態で一択なら Apple を選びます。Amazon ではポータプルの高音質環境がどうやっても実現できない 。Wiim Mini に電池ボックスつけてポタアンという環境も作りましたが、それを持ち歩いて外出先で使うかという話です。スマホのみ、DAP のみでハイレゾストリーミングを楽しめる手軽さは素晴らしいです。
しかし、これだけのお金を使って初めて「TC44Pro ( のようなケーブルレス DAC ) と iPhone と Apple Music が SIM 環境の唯一の選択肢」「HiBy OS は Apple Music なら対応できている」「ストリーマーの Wiim は Amazon Music 対応で使い勝手が非常に良い」という成果を得ることができました。
これから環境構築する方におかれましては、この記事を見つけていただいて、同じような失敗を繰り返さないでいただけると嬉しいです。