DXによる新たな価値創出[11]【寄稿】DXハイスクールの意義とデジ連の取り組み/デジタル人材共創連盟 代表理事・京都精華大学メディア表現学部 教授 鹿野利春 | 高等教育 | リクルート進学総研

DXによる新たな価値創出[11]【寄稿】DXハイスクールの意義とデジ連の取り組み/デジタル人材共創連盟 代表理事・京都精華大学メディア表現学部 教授 鹿野利春


デジタル人材共創連盟 代表理事・京都精華大学メディア表現学部 教授 鹿野利春


理系の入学定員増加とDXハイスクール

 政府はデジタル人材が2030年に約79万人不足すると推定し、理系を専攻する学生を2032年度までに5割に引き上げる目標を掲げている。このためには、大学等の理系の入学定員を10万人規模で増やす必要がある。

 文部科学省は、特定成長分野への学部転換等の改革を促す「大学・高専機能強化支援事業」で、3000億円の基金を活用して「デジタル」「グリーン」等の人材育成を継続的に支援している。これにより、2028年度までに理系学部の入学定員は1万9千人増える。

 高等学校では、理系学部への進学者を増やす方策の一つとして、「DXハイスクール」が始まった。「DXハイスクール」の正式名称は、「高等学校DX加速化推進事業」という。この事業は、「情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的・探究的な学びを教科する学校などに対して、そのために必要な環境整備の経費を支援する」ものである(図1)。


図1 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)


 令和6年度は、1010校の公立・私立の高校等に、それぞれ約1000万円の補助金が交付された。総額は100億円である。支援対象としては、ICT機器整備(ハイスペックPC、3Dプリンタ、動画・画像生成ソフト等)、遠隔授業用を含む通信機器整備、理数教育設備整備、専門人材派遣等業務委託費等が示されている。これらを活用して採択校での理系進学者は大幅に増える見込みである。

 「経済財政運営と改革の基本方針2024」では、「DXハイスクール事業の継続的な実施等による初等中等教育段階における探究的・文理横断的・実践的な学びの推進や理数系教育の推進、情報教育の強化・充実とともに、成長分野への学部再編等や半導体等の先端技術に対応した高専教育の高度化・国際化を始めとする大学・高専・専門学校の機能強化を図る」としている。すなわち、国の方針として、今後もDXハイスクール事業を継続し、これを高等教育の機能強化、情報産業の発展につなげることになっている。

DXハイスクールで求められる取り組み

 DXハイスクールで求められる具体的な取り組み例としては、以下のようなものがあり、これらを行うために、遠隔授業などの手法を取り入れることも明記されている。

・情報Ⅱや数学Ⅱ・B、数学Ⅲ・C等の履修推進
・情報・数学等を重視した学科への転換・コースの設置
・デジタルを活用した文理横断・探究的な学びの実施
・デジタルものづくりなど、生徒の興味関心を高めるデジタル課外活動の促進
・専門高校において、大学と連携したより高度な専門科目指導

 令和6年1月25日に示された実施要領では、「情報Ⅱ又は数理・データサイエンス・AIの活用を前提とした実践的な学校設定教科・科目若しくは総合的な探究の時間又は情報Ⅱの内容を含むことにより指導内容を充実させた職業系の科目」を「情報Ⅱ等」と定め、これの開設及び早期に受講割合を全体の2割以上とすることが求められている。

高大連携と大学入試

 文部科学省は、令和6年5月16日にDXハイスクールの理系の入学定員増加と DXハイスクール採択校と大学等との連携を積極的に行うよう事務連絡を発出している。その中で、「大学・高専機能強化支援事業の選定大学の情報も確認の上」と記載している。DXハイスクールの予算は、専門人材派遣等業務委託費としても使えるため、高大連携はこれまでよりやりやすくなる。

 大学にとっても、高大連携により高校段階から優秀な理系人材を育て、これを入学させることは有益なことである。そのためには、情報Ⅱ等に関した個別入試を行うことによって、高校側が高大連携に向かうニーズを作り出し、高校側との関係性を強化することが大切である。これは、入学定員確保といった点から考えても有効な手段である。これからの若年層の人口減少を考えた際、このようなことに早期に着手しておかないと、大学の存続自体が難しくなってくる。ただし、情報Ⅱ等の個別入試については、多くの大学が協調して進める必要がある。

高校の情報科

 高校の情報科は、2003年に全ての高校生が履修すべきものとして始まった。当初は、情報の実践力を重視する「情報A」、情報の科学的理解を重視する「情報B」、情報社会に参画する態度を重視する「情報C」という3科目であった。学習指導要領の改訂により、「情報B」は「情報の科学」、「情報C」は「社会と情報」になり、「情報A」はこの2科目に吸収された。現在は、「情報の科学」と「社会と情報」が統合されて「情報I」となり、発展的な選択科目として「情報Ⅱ」が設置されている。

 「情報I」は、問題の発見と解決を目標とし、情報デザイン、プログラミング、データの活用をツールとして学ぶ。併せて、コンピュータやネットワークの仕組み、情報モラルや法規についても触れる。Society5.0に向かう社会において、国民的素養と呼ぶべき内容を備えた科目であり、大学の数理・データサイエンス・AIのリテラシーレベルの教育に必須のものと言える。国立大学協会が、「情報I」を入試に採用したのは、このようなことが関係している。

 「情報Ⅱ」は、「情報I」の発展的な選択科目である。情報技術の進展により人間に求められる資質・能力が変わってくることや、情報デザインを活用してコンテンツを作成すること、データサイエンスを活用して多様かつ大量のデータを扱うこと、情報システムを作成することなどについて学び、これらを活用して新たな価値の創造を目指す。特にデータサイエンスは、数学Bと連携して統計的な内容を扱い、データ分析、モデル化、予測、機械学習、人工知能まで学びを進める。

 前述したように、国立大学協会は、大学入学共通テストで出題される「情報I」を入試科目とした。私立大学等で大学入学共通テストを導入していないところも、個別入試で「情報I」を導入するようにしたほうがよいだろう。入試に数学を導入するかしないかで、大学に入ってくる学生の質が異なってくるのと同じことが、「情報I」でも起こる。

 「情報Ⅱ」を入試科目として採用しているのは、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスなど、現在のところ一部にとどまっている。世界との比較で考えた場合、「情報I」で多くの国に追いつくことができ、「情報Ⅱ」まで学べば、高校段階としては、卓越したレベルに達することができる。大学が入試科目を設定するということは、大学の学修をどのレベルから始めるかを決定することである。ぜひ、「情報Ⅱ」を入試科目として実施し、高いレベルから大学の学びを開始してもらいたい。入試科目として「情報I」及び「情報Ⅱ」をどのように扱っているかは、企業等から見た際、その大学の情報教育についての見識、育てようとする人間像にまで関係してくる。多くの大学が「情報Ⅱ」を入試科目として導入するようになれば、高校でも「情報Ⅱ」の履修が進み、理系は「情報Ⅱ」を必修とするようになるだろう。

(一社)デジタル人材共創連盟

 筆者は、文部科学省の高等学校情報科の教科調査官として、「情報I」「情報Ⅱ」などの現行学習指導要領、解説、教員研修用教材等を取りまとめた後、京都精華大学に移り、経済産業省で、「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」の座長として、「Society5.0を見据えた中高生等のデジタル関連活動支援の在り方提言」をまとめた。

 (一社)デジタル人材共創連盟(デジ連)(図2)は、その提言を社会実装するための組織として誕生した。現在、情報科教員の研修、大学の情報科教員養成課程の改善、高校生用の教材作成、教育サポーター制度(企業や大学等の人材が高校教育に参画するための研修と認定)、DXハイスクール事業を進めるためのプラン提供、教育委員会と企業や大学との協力関係の構築、大会などの高校生のデジタル活動のアウトプットの機会の創出など、様々なことに取り組んでいる。


図2 (一社)デジタル人材共創連盟


 おかげさまで、Adobe、東京書籍、実教出版、大日本印刷など30社以上の企業に会員としてご協力いただき事業を推進している。また、日本IBMとは、同社の提供する無償の教材である「IBM Skills Build」のパートナーシップ契約を結んでいる。経済産業省の検討会から生まれた組織であり、代表理事が文部科学省の元教科調査官であることから、両省との関係も良好である。

 DXハイスクール事業については、最も早い段階から取り組んできており、補助金を活用した多数のプランを提供している。初期の段階は、文部科学省の提示した取り組み内容に沿って以下の3つのプランを作成した。1,000万円という額のプランを学校が単独でまとめることは難しいと判断したことと、「情報I」「情報Ⅱ」の学習指導要領を取りまとめた者として、その趣旨が生かされるものを提示したかったからである。

Aプラン デジタルを活用した情報Ⅱ・探究や課外活動の推進
Bプラン 情報Ⅱや数学Ⅱ・B、数学Ⅲ・C 等の履修推進
Cプラン 情報を重視したコース設置・学科転換

これらは、「デジタルものづくり」「IoT」「データ活用」など、複数のモジュールからなり、学校の状況に応じてカスタマイズも簡単にできるものとして作成した。社団と筆者に直接寄せられた問い合わせの件数は300を超えている。

 その後、会員企業から、「生成AI を活用した講座プログラム」「数理・データサイエンスを可視化して学ぶ」「メタバースやブレインテックが作る情報空間とセキュリティー学習」「デジタルを活用した情報Ⅱ・探究や課外活動の推進」などのプランを作成いただいた。これらについては、筆者の方で学習指導要領上の位置づけや高校教育で活用するための助言を行っており、実際に多くの学校に導入されている。こういうことを進める際に企業の協力は不可欠であり、それを仲介して教育現場に届ける我々のような中立的な団体の必要性も強く感じたところである。これらのプランは大学教育でも活用できると考えている。

 デジ連としては、DXハイスクールのアウトプットとしても適した大会として、「全国情報教育コンテスト」の開催を決定している。情報の授業や総合的な探究の時間、課外活動などで作成したものを気軽に出せる大会として募集を開始している。高校生の学習、探究、発表に大学が組織として参画することは、人材育成という面からみて意義深いことである。




(一社)デジタル人材共創連盟 https://dle.or.jp/
全国情報教育コンテスト https://zenjyocon.jp/
DXハイスクール https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/shinko/1366335_00009.htm


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