【視点提供インタビュー】若者の生態を知る | 高等教育 | リクルート進学総研

【視点提供インタビュー】若者の生態を知る

大学や専門学校に今進学しているのが、1990年代後半から2010年ごろに生まれた「Z世代」だ。
進学をきっかけに地元を離れて移動するZ世代の判断の裏にある価値観とは?求める場所とは──?
有識者に伺う。



#「移動」に至るZ世代の価値観

僕と私と株式会社 今瀧健登 氏

Z世代の価値観を形成する「SNSネイティブ」

 Z世代といえば、「自分らしさが大切」「タイパを重視する」などと喧伝される。これら特徴はどうやって形成されるのか。大きく影響を与えるのが、「Z世代がSNSネイティブであること」と話すのは、僕と私と株式会社代表で、自らもZ世代の今瀧健登氏だ。「学生時代からXやInstagramが普及しており、コミュニケーションや情報収集に使うことが当たり前。もともとは同じ考え方であっても、膨大な情報に接する中で誘発されて分岐していくため、Z世代の価値観は実に多様です。というのも、今やSNSがなかった時代には出会うことのなかった世界中の他人の情報を知れてしまう。若者は、常に自分と他人とを比較する環境にあるため、『自分らしさ』を見つけなくてはいけない、大事にしたい、と思う傾向にあります」。

見通しのつかない時代。切迫する「らしさ」

 自分らしさを重視するのはZ世代が生きる社会にも起因する。人生100年時代と言われて久しい。働く期間が長期化する一方で、サービスや企業の寿命は短くなる。Z世代が生きるのはまだ誰も経験したことのない社会だ。「時代の見通しがつかないうえに、ロールモデルもおらず、どこにも正解がない。だからこそ自分なりの正解を見つけなくてはなりません。華やかな都会に暮らす幸せもあれば、自然豊かな地域で家賃4万円の生活という幸せもある。多様な幸せのあり方を知っているZ世代は、何かを選択する際の、自分らしい判断軸が必要なのです」(今瀧氏)。

 一方、高校生が進路選択時に「自分らしさ」をどれだけ反映できているかといえば懐疑的だと今瀧氏。「就活を経験したZ世代であれば、終身雇用が崩壊した未来の社会で生き残るために、個の力が必要だ、という危機感はあるでしょう。他方、高校生にとって社会は遠い存在。何が必要なのか見極められるほどの判断材料も軸も持っていない。SNSでの情報や、義務教育を通して、未来の社会に対する漠然とした不安は抱いているものの、『個の力を高めるために○○を学びたい』というバックキャスト的な考えや、『自分らしい選択』にまで至っていないのでは」。

判断基準が未成熟な高校生を動かす「エモ」

 判断基準が未成熟ゆえに、「偏差値といった序列や、知名度のような一般的な指標、『ICT』『アントレプレナーシップ』といった目新しいものに影響されやすい。また、仲が良く一番身近な社会人である親の影響も大きい」と今瀧氏は指摘する。

 しかし未熟なりに、自分らしい選択をしようとする高校生にとって、どんな情報が有益なのか。「遠い存在の社会人の姿や言葉よりも、その手前にいる大学生が、大学で楽しそうに過ごしている様子や、どんな雰囲気なのかといった、感性に訴える情報にリアリティを覚える。自分に合っていそうといった親近感や興味が湧いて、『エモ』が生まれます。『エモ』とはハッピーな共感。Z世代が共感し、自分ゴト化できる情報提供こそが、行動変容を促せるのではないでしょうか」(今瀧氏)。



# Z世代が「移動」したい場所


株式会社 電通 大島佳果 氏、兵澤 諒 氏

まちに求める、ネットにはない「ガチャ感」

 Z世代はどんな場所を求めて移動するのか。電通若者研究部が実施した「若者にとって居心地の良いまち」を大学生と考えるワークショップからヒントが見えてきた。

 電通の大島佳果氏は、「若者がまちに求めるのは、ネットでは味わえないガチャ感」と話す。「大学生からは、失敗はしないけど、未知の体験や出会いを味わいたい、という声が多数あがりました。アルゴリズムやAIによって、SNSやネット広告に自分の興味のある情報が提示されるのが当たり前の今。失敗しない一方で、興味の外側にある新しい発見が減っています。だからこそ、リアルなまちには予定調和を超えた体験を求めているようです。

 ただ、目的がなければそもそも移動しません。Instagramで見つけたカフェを訪れたら、店内が狭くて隣の人と会話が弾んだ、といった具合に、最初の目的があったうえで、プラスアルファの体験があるとタイムパフォーマンスが高まるのでしょう。これが楽しめますよ、というガチャガチャの中身は分かったうえで、何が楽しめるかは行ってみないとわからない。そんな最低限の保証があったうえでの冒険にワクワクを感じているようです」(大島氏)。

上からではなく「横から目線」の情報提供

 進学時、多くのZ世代が地元を離れる決断をしている。どのようにしてその判断に至るのか。電通の兵澤 諒氏は「移動する/しないは、親によって許容範囲が違うため、年齢的に高校生本人の意思だけで決定できない」と前置きしつつ、「都心でも地方でも情報は等しく無限に手に入る時代であり、情報感度も高い世代。親や友人、メディア、進学の場合であれば大学や専門学校、同じ話題に興味のある人や経験者の口コミなど、多面的に情報を取得、検証、判断していきます。一つの情報源、一方向の情報は信頼しないのが特徴」だと話す。

 そんな若者に情報発信するとき、ポイントは「上から目線ではなく、横から目線」だと大島氏は提案する。「大学がウリだと思う情報を一方向で伝えるのではなく、実際はこんな感じ、こういう面もあるなど、受け取る側の視点に立った等身大の情報が重要。リアリティのある情報こそが信頼感を醸成し、若者の意思決定を促します」。

失敗しないフォーマット+「余白」で自分らしさ

 学校が学生募集で謳いがちな、「地元の大企業に就職が強い」といったウリも、必ずしも若者には歓迎されない。「絶対的な幸せなどないVUCAの世に生きる若者は、『地元企業に就職すれば幸せ』という誰かの決めた正解に懐疑的。内側から見た情報と、外側から見た情報との乖離がSNSによって可視化される時代なので、不安を煽られると同時に、自分らしい幸せを見つけたい、と感じています。

 だからこそ、学びたいものがある、地域に憧れがあるといった、移動する1つ目の理由は必要なものの、そこを舞台にして、さらに可能性が広がる期待を抱ける場所に若者は惹かれる。答えが分かりきった場所ではなく、失敗を回避できるフォーマットが用意されたうえで、自分らしさを発揮できる『余白』を求めているのです」(大島氏)。


(文/武田尚子)




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