大学機能の高度化を牽引するエキスパート人材を“第3の職”として組織化し育成・活躍を加速する/新潟大学 | 高等教育 | リクルート進学総研

大学機能の高度化を牽引するエキスパート人材を“第3の職”として組織化し育成・活躍を加速する/新潟大学

新潟大学 理事 副学長 経営戦略本部UA室 室長 川端氏

第2期PEAKS実証事業に採択される

 新潟大学は、社会に対して大学の研究成果を還元するため、産学連携・地方創生等の取り組みの活性化を目指し、研究者と企業・自治体との間に立って事業企画や研究マネジメント等の役割を担うエキスパート人材の拡充に取り組んできた。民間企業等から採用された特任教員や職員が担うクリエイティブマネジャー(産学連携)、社会インパクトマネジャー(地方創生)等がそれに当たる。

 研究資金の獲得に向けた支援、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進等を担う高度専門職として、近年注目されているURA(ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター)に関しても、エキスパート人材として、育成・拡充を進めている。

 2023年4月には、経営戦略本部にURA等が所属するUA(ユニバーシティ・アドミニストレーション)室を開設(図1)。UA室が中心となり、エキスパート人材の組織化・育成・拡充をさらに先の段階へと進めようとしている。

 このUA室の取り組みは、内閣府の大学支援フォーラムPEAKSが募集する令和5年度「日本型大学成長モデルの具体化及びそれを支える大学経営人材の確保・育成に係る実証事業」(第2期PEAKS実証事業)に採択されている。「エキスパート人材の拡大・組織化による中核拠点研究大学の機能強化(University Administrator 制度)」と題されたこのプロジェクトの目的は、①教員と事務とは異なるエキスパート人材を組織化し、魅力的な“第3の職”のキャリアパス・育成プログラムの構築、②エキスパート人材との協働を通して事務職員の高度化・専門職化、③事務の高度化、教員の時間確保のための大胆な戦略的大学DXの構築・実施。同大学の理事・副学長でもある川端和重室長は一連の取り組みの背景や目的をこう解説する。


図1 新潟大学職員機能の全体像To-Be


URA等のエキスパート人材を組織化

 「従来、産学連携・地方創生の多くは教員が個人レベルで取り組んでいました。しかし、教員には事業化ノウハウがありませんから、成果にはどうしても限界があります。より実効的、かつより大きい規模で大学の研究成果を事業化しようとしたら、大学として戦略的・組織的に取り組む必要がある。そこで本学でもエキスパート人材の採用・配置を進めてきましたが、こうした人材が様々な部署に散在している状況が続いていました。このエキスパート人材を組織化して、全学的な観点からより戦略的に機能させていこうというのがUA室設置の狙いです」

 課題の一つが統一的な人事制度の構築だ。エキスパート人材は、教員と事務職の中間のような役割を担うため、現状では特任教員として採用されているケースもあれば、職員として採用されているケースもある。担う役割は共通していながら、人事制度や評価制度は教員と職員とで異なることが組織化を図るうえでのネックになる。

 「現状のままではエキスパート人材としてのキャリアアップを考えようにも将来像が描きづらいという問題もあります。ですから、エキスパート人材を『第3の職』として確立し、独自のキャリアパスや人事評価制度を構築していきたい。大学では前例がない取り組みなので大変ですが、この半年間のPEAKS事業の間にかたちをはっきりさせて2024年度には制度化したいと考えています」。

事務職の専門職化も重要なテーマ

 もう一つの解決すべき課題はエキスパート人材の育成。エキスパート人材には、大学院レベルの学問に関する専門性と事業を企画・マネジメントできる実務能力が求められる。多くの人の間で調整や交渉も行うため、コミュニケーションスキル等も必要だ。学問的な専門性に関しては大学で養成できる力だが、実務能力に関しては、企業等で実際に該当する業務や経営そのものを経験していることが重視されてきた。しかし、この条件に該当する優秀な人材は希少で各大学・研究機関で奪い合いになっている。「ですから、今後は内部で育成することが重要になります。そこで、PEAKS事業で進めていることの一つが事務職の複線型人事トラックの構築(総合職と専門職)です。さらに事務職からエキスパート人材(UA職)への転籍試験制度の構築等の連携の制度化をどのようにしていくかはこれからの課題ですが、現状はUA室で立ち上げたタスクフォースに事務職からも参画してもらい、実務を通してスキルアップしてもらうことを考えています。今までの事務職とは異なる世界観に接して、もう一段上がっていこうという気持ちを醸成することを重視しています」(図2)

 エキスパート人材は取材時点(2024年1月)で16人。川端室長は、「今後は採用・育成を進めて50人規模程度まで増やしていきたい」と構想を語る。


図2 UA職の魅力化/事務職の魅力化と高度化




(文/伊藤 敬太郎)




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