私立大学における新増設・改組の現状まとめ(24年3月) | 高等教育 | リクルート進学総研

私立大学における新増設・改組の現状まとめ(24年3月)

POINT

  • 2024年は私大の新増設・改組が増加傾向
  • 市場等における背景・要因は以下3つ
    • 大学進学者数の頭打ちと18歳人口減少により既存の学部学科編成では入学者確保が困難
    • 専門学校・短大からの参入増加
    • 学び方・学び手の多様化
  • 政策においては「大学・高専機能強化支援事業」の影響が大きい
  • 先の見えない時代に再編を行うにはロードマップの描き方に注意が必要

筆者は、リクルート進学事業において、主に大学・短大の将来構想及びそれにまつわる学部学科の再編、新設に関する案件を担当している。この領域に携わり10年のキャリアになるが、2023年はかつてないほどの「大量」のご相談をいただく異例の年となった。その背景と各大学が抱える課題について、整理したい。

1:私立大学における新増設・改組の概況

 大学設置基準の大綱化以降、高等教育行政は概ね規制緩和の状態が続いている。特に、2004年以降、「届出」による学部学科の設置行為が可能になったことで、私立大学の改革意欲、(当時はそのほとんどが「拡大」意欲)は一斉に刺激された。原則として、既設の学部学科が有する「学位の分野」の範囲であれば、簡略化された手続きで学部学科の設置が可能となり、制度の開始からおよそ20年は下図のように推移している。


図1 私立大学 新増設の概況
図1 私立大学 新増設の概況


 制度開始から20年が経過し、急増期からのサイクルはひと段落したように見えるが、2024年現在は再増期にさしかかりつつある。なぜ、18歳人口の急激な減少期に新増設が「再度」増えるのか。理由は3つある。1つ目は、進学者の「量的」な問題である。大学進学者数の頭打ち、18歳人口の急激な減少が重なり、既設の学部学科の編成や規模、形態では、入学者が確保できない、結果として全体の規模を維持できないという大学が急増したことである。直近の入学定員の充足状況は、私立大学の40%程度で定員割れとなり、危機意識が共有されつつある(図2)。


図2 定員充足率と定員割れ校の割合(私立大学)
図2 定員充足率と定員割れ校の割合(私立大学)


 このような実態を背景に、既設の学部学科構成にはない新たな領域を取り込んだ学部学科の新増設、女子大の共学化など対象の「拡大」以外にも、学部学科を統合し再編、あわせて入学定員の規模を「縮小」するケースも散見される。再編の目的に大小いずれの面からも「規模の最適化」があわせて行われている。(筆者の所感では、学部学科の新増設に合わせて、入学定員の規模を「拡大」「維持」「縮小」いずれの前提にするかの割合は、カレッジマネジメント※1で実施した、理事長調査の結果(1割は規模拡大・6割は規模を維持しつつ内容を変える・3割は規模縮小)にほぼ同じである)
※1 https://souken.shingakunet.com/movie/2024/01/074.html

 2つ目は、専門学校や短期大学からの参入である。専門学校や短大が担っていた地域の専門人材の養成を、大学に設置形態を変えて継続するというケースが地方の医療系に多い。直近3年(2022‐2024)に開設された12の新設大学のうち、6大学が医療系の学部学科を有している(公立大除く、専門職大学含む)。自治体や地域からの要請を背景に、大学を設置することで18歳人口の流出を防ぎ、かつ地域におけるインフラ維持に必要な医療系人材を確保することが目的である。場合によっては、自治体からの補助金、用地提供等の支援を受け設置に至るケースもある。

 3つ目は、多様な「学び方」、多様な「学び手」の存在が顕在化しつつあることである。特に、通信教育課程は社会人のリカレント需要のみならず、中等教育段階(特に高等学校)における「学び方の多様化」を経験してきた世代をメインターゲットにしているケースもある。通信制やフリースクールの増加も進み、18歳の学び方にも多様性をもたせようと、近年の増加が目立ってきている。2025年開設にむけた大学設置は4校(大学院大学は含まない)が申請中であるが、うち3校は通信教育課程であり、3校合わせた入学定員は5550人(編入学定員を含まない)が予定されている(認可申請中)。

 上記のような個別事情に呼応しつつ、23年秋には、文部科学省では24年度(令和6年度)から28年度(令和10年度)までの5年間を集中改革期間と位置づけた。私立大学の経営改革や定員規模適正化などを支援していく考えを示し、大学の主体的な改革を後押しすべく、初年度の概算要求が行われるに至った。この概算要求に先がけ公募が行われたのが「大学・高専機能強化支援事業」である。

2:「大学・高専機能強化支援事業」のインパクト

 「大学・高専機能強化支援事業」(以下、支援事業)とは、教育未来創造会議の提言を受け、大学の理系シフトによる「理系人材の育成」を目的とした改革に、文部科学省からの助成が受けられる制度である。総額で3000億円超の基金が組成され、むこう10年程度の期間で、個別大学へ最大20億円程度の支援が想定されている。学部レベルにおいては、自然科学のうち、「理学・工学・農学」の学位分野を有する学部学科からの人材輩出(支援1)、大学院レベルでは高度情報系人材の輩出(支援2)が支援対象とされている。特に支援1では、公私立大学で250件を選定する目標を掲げており、実現されれば、日本の公私立大学約700校のうち、3割程度の公私立大で何かしらの理系シフトがこの助成によって行われる試算である。

 理系シフトの背景にあるのは、日本における理系の学位取得者の割合の低さである。学部レベルでは全体の35%が理系であるが、国立で34%、公立で14%、私立で20%と設置者による差が大きい。このことにより、深刻化しているのが進学課題である。特に地方では、理系は国立大のみが設置、私大においては文系(医療系含む)の学部のみで構成されているケースが多い。地方の高校生が大学で理系を目指しても通学圏には国立1校しか選択肢がないため、地元の国立大学に合格できなかった場合は、理系を諦めて地元に残るか、地元を諦めて理系を選ぶか、ジレンマを抱えるのである。また、私学が理系(特に工学関係)を設置できない最たる理由は施設設備投資にある。自然科学分野(理学・工学・農学)に新規参入(「認可申請」による設置)するには、寄付行為変更認可申請において「標準設置経費」の計上(投下)が必要になる。これは、学生の教育研究に必要な最低限の環境が整備されるに必要な投資額という位置づけで、収容定員800人の自然科学分野では約20億円が規定されている。(「情報分野」は工学や理学系であっても、「その他」に分類されるが、それでも約10億円が必要である。)これが、多くの私大にとって、負担になる。支援事業における、支援1のフェーズ2で施設設備に関する助成の上限額が約20億円と設定されているのは、このような背景によるものである。

3:再編にあたっての観点

 2004年の届出制度の開始から20年、大学における学部学科の再構築を含んだ「大再編時代」がやってきたようだ。再編を検討する初期段階にあたって重要と思われる2つの観点をお示ししておきたい。1つ目は、「将来構想(中長期計画)を前提にした、ロードマップの必要性」である。支援事業ありきではなく、自学の将来像の中に、この転換期をどのように落とし込み直すのか。支援事業による助成を計画の中に含めるとするならば、一定の検討(構想)期間が認められていることを確認しつつ、将来構想そのものを描き直すことも重要ではないだろうか。

 2つ目は、「ロードマップの落とし穴」だ。全ての計画が成功する前提でロードマップを描かないこと、あるいは一度に全ての課題を解決しようとしないこと、である。理系設置にあわせて文系も含めた大学全体を一気に再編する、というやり方は設置審(大学設置・学校法人審議会)への申請手続きの観点からして、非常に複雑で難易度が高いケースが多い。複数の学部学科を同時に設置(改組)しようとすると、何かひとつでも欠けた際に、全体が成立しなくなってしまうというリスクを孕んでいる。教職課程をはじめとした資格取得課程も含めるとするならば、なおさら複雑度は増す。いずれかの学科が設置できない事態が生じた場合、全体が成立しないので、すべてを元の形態に戻さざるを得ない事態も想定される。そのようなリスクを回避し、継続してニュースを発信するという観点からは、再編や開設は年度を連続的に分散させるほうにメリットがあると考える。当初の効果は限定的に見えるかもしれないが、まずはカリキュラム変更による履修モデルの複線化(コース増)や、名称変更も初手としては有りうるのではないか。あるべき将来像にむけ、小さなことから早めに着手し、段階的に大がかりな改組(再編)に取り組む、確実な方法で継続的に積み上げていく手法をお勧めしたい。

4:まとめ

 上記2つ以外にも、重要なものは多くあるであろうが、検討初期段階(着想段階)に特に重要だと思われるものを整理した。たった20年で大学の新増設を取り巻く景色は激変した。リクルート進学総研2023年度入試実態調査(図3)※2によると、直近5年間の新増設学部志願状況を経年で確認すると、いずれの年度においても開設初年度以降は志願者数が減少しており、新設による志願者数増加を期待した効果は限定的になりつつある。今後も続く人口減少時代においては、新しい学部学科さえ作れば、ある程度の志願者獲得(回復)が見通せるということにはならないだろう。それでも、新たな学部学科の設置が繰り返されるのは、自ら地域や社会の課題を捉え、新たなチャレンジを続ける大学には、社会の関心が集まり、それによって挑戦的な人も集まりやすいからではないだろうか。新増設・改組がもたらす、大学業界全体の活性化に期待したい。


図3 最近5年間の新増設学部の志願状況
図3 最近5年間の新増設学部の志願状況




(文/リクルート進学総研 西村紗智)


※2 リクルート進学総研 2023年度入試実態調査報告書
https://souken.shingakunet.com/research/2022/09/post-3866.html