魔法使いの世界 : 風白狼日記

風白狼日記

Yahoo!ブログから移転してきました。 ほぼ過去の記事残しておく用。気ままに書いていきます

カテゴリ:小説 > 魔法使いの世界

私が執筆した小説のあらすじみたいなものだけ載せときます。
 

 
序章 魔法使いの世界
 
 その世界は、コルツァイアと呼ばれていた。そこでは、魔法が当たり前のように使われ、学校でも、国語や算数などと一緒に魔法が教えられていた。中には、剣や槍と言った、武術を学ぶものもいた。
 コルツァイアには2つの大陸があり、北にある大きな大陸がビル大陸、南の小さな大陸がスム大陸と呼ばれている。ビル大陸には2つの大国といくつかの小国があり、スム大陸はバイザーと呼ばれる大きな王国が一国で占めている。そのほか、いくつかの小さな島々がある。
 だが、この世界の歯車が、徐々に乱れてきている。ビル大陸にあるマンド大国が、国境を面するレージ大国を攻撃したのだ。それはやがて、他の国々を巻き込む大戦争となった。火花は海をまたいだバイザー王国にまで届いた。バイザーは、独自の技術によって作り出された、飛空艇という空を飛ぶ乗り物を用い、周りにある島々を侵略していった。
 時を同じくして、バイザーでは、“怪盗アシラ”と呼ばれる盗賊が現れていた。どんなに強固な魔法をかけた金庫でも開け、また、誰もその姿を見たことがないという。主に貴族から金品を盗む怪盗だそうだ。
 あるとき、バイザー国中を震わせる事件が起こった。バイザーの城が、石と化してしまったのだ。中にいた兵も、王族も、丸ごと石化した。そして、誰にも元に戻せぬ呪いだった。これは、何かの前触れだろうか。それとも、異変のただ中なのだろうか。
 真実が謎に隠されたまま、1年が過ぎようとしていた――
 

↓良かったらポチッとお願いします↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ

1章 少女と青年

 外は、雷鳴を伴う激しい豪雨だった。
 一人の青年が、窓にぶつかるように降る雨を眺めていた。彼の名は、ジン。短い黒髪は上に向かって伸びている。彼は、赤みがかかった茶色の瞳を窓に向けていた。
 
  ふと、扉を打つ音が聞こえた。どうせ雨だろう、ここはほとんど人通りがないのだから。しかし、扉をたたく音とともに、女性の声が聞こえた。どうやら来客のようである。ジンは、戸を開けて、客人を招き入れた。
 客は、15歳ほどの少女と、20代半ばの青年の二人だった。両者とも雨合羽のようなものをはおっている。二人は、恥ずかしそうに入ってきた。

「すまない。急に押しかけてしまって。」
 少女は、申し訳なさそうに言った。
「別に、たいしたことじゃない。俺も退屈だったしな。」
 そう言いながら、俺はタオルを二人に渡した。そして、二人に座るよう勧めて、客をもてなす準備をした。とは言っても、温かいミルクをだすくらいしかできないのだが。
 少女は、腰まである長い茶髪を後ろで束ねている。彼女は、エメラルドグリーンの瞳をこちらに向け、ほほえんだ。
「おれの名はユウカ。で、こっちがウェール。ちょっと訳あってウェールは口が聞けないけど、堪忍してな。」
 男のような声で、少女、ユウカは言った。漆黒のマントで体を覆っている。ウェールと呼ばれた青年は、きれいな青い瞳と、肩まで伸びた長いブロンドの髪をしていた。彼は朱色の服を着ていた。
「そうか、俺はジン。まあ、ゆっくりしてけ。」
 そうはいったが、二人の名に、聞き覚えがあった。しかし、どこで聞いたのか分からない。俺の思い過ごしだろう。
「しかし、なんだってこんな、なんにも無いところに?」
 俺は、二人に尋ねた。
「ははっ。ここは通過点だよ。1年も経つと街が気になるからな。」
「1年間捕まってでもいたのか?」
「いや、人目を避けるために天璃山(てんりざん)にこもってただけさ。」
 ユウカは愉快だというように笑いながら答えた。天璃山というのは、ここより南にある、大きくて険しく、人がほとんど入らない山だと聞いたことがある。
「なんで山にこもってたんだ?」
「いや、おれたち、ちょっと城でごたごたを起こしてしまってな。」
「城ってバイザー城か?あそこはまるごと石になっちまってるぞ?」
 バイザー城は、このバイザー国を治めていたが、何者かによって魔法で城全体を石にされたと言われている。
「いや、だからその・・・」
ユウカは言いだしにくそうにしていた。
「・・・なんだよ。」
 俺は続きを促した。だが、予想もできないとんでもない答えが返ってきた。
 「実はな、城を石にしたの、おれなんだよなっ。はははっ」
 ユウカは高らかに笑ったが、傍らのウェールはかなり嫌そうな表情をした。当然だ。笑い事ではない。
 そこで気がついた。事件があった日、城から一人の青年が少女を抱えて出てきたという。人々は青年に話を聞いたが、青年は一言もしゃべらず、結局分かったのはウェールとユウカという名前と、収容所の教官とその担当になっていた子供という関係だけだったという。
「ウェールはまだその時の事を気にしているみたいだけど、おれはスカッとした気分だったぜ。」
 ユウカは暗い雰囲気をふりとばそうとして言ったのだろうが、とてもじゃないが良く聞こえない。多くの人を石にしておいて、今もまだ石化が解けていないというのに、笑えるのはおかしいだろう。すると、ウェールは悲しそうな表情でユウカを見つめた。ユウカもその視線に気づき、見つめ返した。ふた呼吸ほどの間のあと、ユウカが口を開く。
「分かってるって。おまえが気にしているのがそれじゃないってことくらい。」
 あれだけで気持ちが通じたというのも疑問だが、それよりも、ほかに何かあったのだろうか。
「じゃあ、何を気にしてるんだ?」
 俺の問いに、ユウカは、
「話せば長くなるけど、簡単に言えば心を操られて利用された事だな。」
「え? 利用・・された? だれが? なんのために?」
「そりゃ、王が、おれを使う為にだろうな。」
 ユウカの声が落ちる。俺は訳がわからなくなった。陛下が人を使う為に別の人を操った? なぜそんなまわりくどいことを? そもそもこの少女をなぜ使おうとした? 様々な疑問が俺の中で渦巻く。そんな俺に気づいたのか、ユウカが言葉を付け足した。
「おれは笛の音色に魔力を宿せる。多分奴らはそれを使いたかったんだろうな。」
魔法使いのなかには、物に魔力を宿し、特別な能力を発揮する者もいる。ユウカも、笛を吹くことで、何か特殊な力をだせるのだろう。
「何ができるんだ?」
「音色を聞いたすべての者に魔法をかける。眠らせたり、惑わせたり、変身させたりな。」
 魔法は、範囲を広げると効果が落ちやすい。大きな力がいるうえ、力が分散する。そのため、一般的に狭い範囲に使う。しかしユウカは、笛の音色に魔力を乗せ、比較的広範囲に効果を出せるのだという。
 
 雨はやんだが、空は暗いままだった。
 ウェールはユウカの頭を撫でたあと、腕を指揮者のように振った。
「・・・そうだな。こいつにも一曲披露するか。」
ユウカはそう言うと、木製の笛を取り出した。ウェールも笛を出し、合奏を始めた。
 小さな小屋に、心地よいメロディーが響く。心のすみずみまで響く音を聞きながら、俺は会話を整理した。このことが本当なら、この美しい音色を利用する者がいるということだ。そんなことはさせたくない。俺は、そう強く思った。
 


↓良かったらポチッとお願いします↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ

 2章 石の城
 翌日、ウェールとユウカに朝食を出しながら、俺は二人にきいた。
「なあ、俺もおまえたちの旅に同行させてくれないか?」
 二人は驚いて、顔を見合わせたが、やがてこちらに向き直った。
「おれたちは別にかまわないけど、いいのか? 長旅になるぞ?」
「こんなところにいるよりマシさ。」
 もう長旅の覚悟はできている。それに、昨夜のうちに準備は終わらせた。
「まっ、人数は多いほうがいいな。ところで、準備はできたのか?」
「もちろんだ。」
 ユウカの問いに、俺は短く返した。
 朝食を終わらせ、俺たちは出発した。
 
 荒れた土地をしばらく歩くと、町が見えてきた。
 街は2種類あり、下層階級の人々(平民)が住む街と、上層階級の人々(貴族)が住む街がある。ここルンドの町は下層階級の町である。
 下層階級の町とはいっても、活気づいていて、にぎやかだ。
「すごいな。1年前はさびれてたのに。」
 不思議そうな顔をしながらユウカが言った。確かに、以前はこんなににぎやかではなかった。すると突然、
「ユウカ様ー」
 子供が何人かこちらに走ってきた。
「ん? なんだよお前ら。」
ユウカには思い当たる事がないようだ。というか、なぜ『様』がついているんだ。
「ユウカ様はこの町にいろいろしてくれたんでしょ?」
「ユウカ様のおかげで楽しい町になったんだよ。」
 子供たちは口々にいった。ユウカに憧れの目をむけている。
「おっ、お前らあの時のガキか! こんなにでっかくなりやがって。分かるわけないだろ。」
 俺には会話の意味がわからなかった。ウェールは眉をひそめていたが、やがて何度かうなずき、納得したような顔になった。
「おお、ユウカ様じゃ。ユウカ様がおられるぞ!」
 子供たちの声に気づいた老人が叫んだ。嬉しくてたまらない、といった様子だった。
「ユウカ、お前人気者だな。」
 俺が皮肉っぽく言うと、ユウカよりも先に子供たちがいった。
「誰? この人たち?」
「金髪の人がウェールで、黒髪の人がジンだ。二人ともおれの仲間さ。」
 ユウカは子供たちにそう紹介した。『仲間』という言葉に、俺は照れくさくなった。
「ほう、ウェール様とジン様ですか。ささ、どうぞこちらへ。」
 俺たち三人は民宿のようなところへ案内された。長いこと歩いていたので、とりあえず休んだ方がいいだろう。疲れた体では、アクシデントが起こりやすいからな。
「なんでユウカをしってるんだ?」
 俺は誰となくきいた。
「以前、この町にいろいろ寄贈したからな。」
 ユウカが、懐かしがるように言った。小さな町にしては豪華な料理が運ばれてきた。
 すでに日は暮れかけていた。明朝に上層階級のファオスへ行くとして、今日は休むことにした。しかし、この町を発展させる手伝いをするなんて、と俺は内心ユウカに舌を巻いた。
 
 翌日、ルンドとファオスを隔てる壁の前へ行った。前までは限られた人しか通れなかったが、城が石化してからは一般通行ができるようになっていた。
 ファオスは貴族が住んでいるだけあって、豪華で壮大な建物ばかりだ。そんな街を歩いていると、二人の女性が話しかけてきた。
「あれ? ユウカじゃない。」
 茶髪でエメラルドグリーンの瞳をした少女が言った。姿はなんだかユウカに似ている。
「マリンにキララか。久しぶりだな。」
 ユウカに似たマリンと、20代くらいで赤っぽい髪にグレーの瞳をしたキララは嬉しそうな顔をした。だが、ユウカは声も表情も嫌そうだった。
「調子はどう? ユウカ。あっ、それともか・・」
「ユウカでいい。」
 キララの言葉をユウカは遮った。キララが言いかけたのはユウカの別の呼び名だろうか。『か』ではじまるあだ名、といったところだろう。
「ねえ、ユウカ。後ろにいる黒髪の人、ジン将軍?」
「ああ、確かにこいつはジンだけど・・・って将軍?」
 ユウカは驚いて振り向いた。俺の方が背が高いので、見上げる形になる。
「今は城が機能していないからな、『元』将軍だ。」
 これには4人全員が驚いていた。今までそんな事を言っていないのだから当然である。
「たまたまその時バイオ諸島にいてな。戻ってきたときにはすでに城が石になってた。」 
 あの時はさすがに驚いた。気が狂ったかと思ったほどだ。
「すごいわねー、将軍様連れてくるなんて。まさか、『かっさらってきた』とか言うんじゃないでしょうね?」
「こいつが勝手についていきたいと言ったんだ。しかも、なんでかっさらう必要がある?」
 マリンは感心したような口調だが、ユウカの声は怒りを帯びていた。かっさらうって俺を? そんなことを言われるなんて、ユウカは一体何をしてきたのだろうか。
 いままで成り行きを見ていたウェールが、ずいっと前へでてきて城の方へ歩き出した。
「あっ、ちょっと待てよ! 悪い、おれら先いくな。」
 慌ててウェールを追いかけ、先を急いだ。
 
 
 バイザー城は、1年前と同じ姿をしていた。違うのは観光地となったことで、中を見られることである。
 城の内部はいままでと変わらないが、立ち入りが規制されていた場所も入れるため、見たこともないものがあった。
「自分でやったことなのに、こうして見ると変な感じだな。」
 ユウカがしみじみと言う。しかし、人々は二人のうちどちらがやったのか知らない。普通はウェールのほうがやったという意識が強い。ぐったりとした少女を抱いて出てきたら、誰だって青年の方を疑うだろう。俺も最初はそう思った。復讐までしようとした。だが、今では城を石にして正解だったのではないかと思えてきた。
 城の外へ出ると、異国の服を着た男性が呼び止めてきた。
「これはこれは。ユウカ様ではありませんか。もしよろしければ、この豪華客船でビル大陸まで連れていきましょう。」
 ビル大陸は、このスム大陸より北にあり、また、ここよりも大きい。二つの大国といくつかの小国があるときいている。ただ、話がうますぎる。罠だろうか。
「俺たち、あまりお金を持ってないんだが。」
「心配はいりません。ユウカ様ほどの魔法使いを迎えいれたいと、陛下がおっしゃっています。お金なんかとりませんよ。」
 男性は恭しく言った。いい話だが、何かひっかかる。
「外の大陸へ行けるのか? だったら行きたい!」
 おもちゃを買ってもらった子供のように、ユウカははしゃいだ。まあ、誘われた本人が行きたいと言っているのだからいいか。ちらりとウェールを盗み見ると、どうやら同意見のようだ。
 俺たちは、男に連れられて、船に乗った。
 

↓良かったらポチッとお願いします↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ

3章 ほろ酔い気分
 
 にわかに揺れる船の中で、俺たちは夕食をとった。味も量も最高だった。
 ユウカは、食後に出された飲み物を見つめていた。
「何だよ、この赤黒い液体は。」
「これは赤ワインだ。バイザー国にはあまりないが、こういう飲み物だ。」
 そう言いながら、俺はワインを飲んでみせた。なかなかいい味だ。ユウカはしばらくためらっていたが、意を決したのか一口飲んだ。
「!! ~~~あぁぁ~~~~~~」
 ユウカが、変な声をあげた。ウェールは、その光景を不思議そうに眺めている。
「おい、こらジン! なにフツーに飲んでんだよ! 毒でも飲んだかとおもったぞ?」
「まあ、初めてではきついだろうな。」
 ユウカの嫌味を俺は軽く受け流した。あまりにもおかしくて、つい笑ってしまった。むっとしたユウカが飲み干す勢いで飲んだ。例の奇声をあげながら。

 すると、急にくたっとしてしまった。そのまま、すーすーと寝息をたてる。グラスのワインは半分ほどしか減っていない。子供というせいもあるだろうが、かなり酒に弱いらしい。
 俺とウェールでユウカを寝室まで運んだ。ベッドに乗せると、千鳥足で立ち上がり、ウェールにしがみついた。ウェールはベッドに座り、俺はそばにあった椅子にこしかけた。
「うぇーる・・・」
聞いたこともない、甘い声でユウカが言った。こうして見ると、男勝りの威勢が消えてしまったように見える。しかし、ユウカは抱きついている状態なのだが、ウェールは頭をなでているだけで、抱き返そうとはしていない。
「その子を抱かなくていいのか?」
 俺の問いに、ウェールはうつむくだけだった。やがて、一枚の紙切れを懐から取り出し、俺にさしだした。
 それは新聞の切り抜きで、見出しには『怪盗アシラ捕まる』と書かれていた。どう関係があるのか分からないが、とりあえず読んでみることにした。
 怪盗アシラは、4年ほど前から貴族を騒がした泥棒で、どんな罠も打ち破り盗みをはたらいていたという。顔をマスクで覆っていて、正体が分からなかったために『アシラ』と呼ばれていた。捕まえた際、子供だったため、素顔は一部を除いて知られていない(捕まえた人たちと、最後の貴族のみが知っているという)。
 ウェールはユウカを指さした。そして、口の形だけで『こいつ』と言っていた。
 俺は体中に稲妻が走ったかのような衝撃を受けた。ユウカが怪盗アシラだってことか?
『それともか・・・』『まさか、かっさらってきたとか言うんじゃないでしょうね?』
 マリンとキララの言葉が脳裏によみがえる。あの二人はそれを知っていたのか? そういえば、罪人の更正をする収容所にいたと言っていた。だとすればつじつまがあっている。だが、とてもそんな悪人にはみえない。ただ、それよりも気になることがあった。
「それは分かったけど、ユウカを抱けない理由になってないぞ?」
 俺が聞いたのはユウカを抱けない理由だ。しかし、いまいち話がつながらない。
「あの時抱いていなければ、悲劇は起こらなかったかもしれない。」
 俺は耳を疑った。しかし確かにウェールは弱く悲しい声でそう言った。何か後悔しているようだが、何のことか分からない。俺が唖然としていると、ウェールが口を開いた。
「私が初めてユウカと会った時、私はユウカを抱き上げた。」
 あいかわらず弱々しい声で、ウェールは言った。
「・・・そのせいで、彼女は私にだけ心を開くようになってしまった。そしてそれをバイザー王に利用された。・・・その後はいうまでもないだろう。」
「まだ後悔してるから抱けないっていうのか? 女に抱きついてもらえない男のほうが多いってのに。」
 俺はウェールに一喝した。すでに怒りが込みあがっている。
「そうだ。私はまだ、ユウカを抱けない男だ。自分を許せていない。」
 ウェールの青い瞳には、決意の光があった。弱い声にも、力がこもっている。そこまで言われて、言い返せなかった。収容所に連れてこられたユウカをなだめるためにとった行動が、結果的に裏目にでてしまったことを後悔しているのだろう。
「後悔するのは勝手だが、もう少し前向きに考えたらどうなんだよ。」
 そうは言ったものの、言葉に説得力が無いのは分かっていた。
「そう・・・だな。ありがとう、ジン。」
 ウェールはほほえみかけると、自分のベッドへ入った。俺もベッドへ仰向けになり、天井に映った夜空を見上げた。過去を乗り越えるのは楽じゃない。けれど、過去を見なければならない時もある。一緒に過ごすからには仲間も見ないとな。星空はその思いに答えてくれるかのように輝いていた。
 

↓良かったらポチッとお願いします↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ

4章 笛の力と魔物

 海の上にいる俺たちにも、朝はやってきた。ベッドから出て、朝日を浴びる。
「なんか頭いてえ。吐きそうだ。」
頭をおさえながら、ユウカが言った。
「どうした。あれだけで二日酔いか?」
俺はそっけなく言った。超がつくほど酒に弱いのだからしかたない。俺は酔い止めの薬をユウカに飲ませた。ウェールは黙ったまま、外を眺めていた。
 
 
 やがて、ビル大陸に着いた。そして、レージ大国を治める、レージ城へ入った。
「ようこそ、レージ大国へ!」
 温厚な顔で髭をたくわえたレージ王が迎えた。その傍らには笑みを絶やさない王妃もいた。
「そんなことより、ユウカをわざわざ連れてきたってことは、何か用があるんだろう。」
 俺は口早にそう言った。用も無いのにここまで歓迎されるのは変だ。俺はレージ王の真意が知りたかった。
「なかなか鋭いですな。実は、私達はユウカ様にお願いがあるのです。」
 レージ王は玉座から降りながら答えた。そして、困ったような顔をした。
「今レージ国はマンド国と交戦状態なのです。ユウカ様の特殊なお力で助太刀をお願いしたいのです。」
王は、深刻な顔つきだった。レージ国は劣勢のようだ。ユウカは王にふいっと背を向けた。「できないな、そんなこと。おれにはできない。」
 ユウカは暗い声でそう言った。
「力を使えないのか? それとも戦争をしたくないのか?」
 俺は、心に浮かんだ疑問をそのまま聞いた。
「両方だ。・・・今のおれにはな。」
 驚きで、小声で付け足した言葉を聞き逃すところだった。今は力が使えない? もともと使えるのになぜ使えないんだ?
「・・・一度、笛の力で人を殺めた事がある。いや、周りの生き物全て、というほうが正しいな。みんな殺した。」
 ユウカの声はとても重々しかった。両手の拳を握りしめている。
「笛に念を込めれば発動する。だから、その時の感情に左右されやすい。・・・・・いくらガキで感情が激しかったからといって、許される事ではない。」
 ユウカは唇をかんでいる。体がわなわなと震えている。相当悔いているようだ。
「死の谷の真実はそれさ。」
 ユウカは笑みを浮かべていた。だがそれは、何かをあざ笑うかのような悪魔の笑みだった。 死の谷は、スム大陸の南西の地にあり、草木すら生えぬことからそう呼ばれている。調査の結果、分かったのは魔法が使われたことくらいで、あとは悪党と動植物の死体があるだけである。ユウカはそんなことをしたのか?
「もう、そんなことはしたくない。だから、力は封印した。」
  どこか遠くを見るような目つきでユウカは言った。とても静かな声だった。いまだに後悔しているようだ。もっとも、何百という命を奪って、後悔しないほうがおかしいが。
 
 そんなことを考えていると、突然、すさまじい轟音とともに城が揺れた。王の間に、兵士が駆け込んできた。
「陛下! 魔物がこの城を襲っています!」
 ごうごうという音とともに、城がまた揺れた。外には数え切れないほどの魔物が城を襲っていた。魔物とは、自然に満ちた魔力により発生する、人ならざるもの。だが、普段はひっそりと暮らしていて、人を襲うことはいままで一度も無かった。それなのに、なぜこんなにたくさんの魔物が城を襲うのか。
 だが、ぐずぐずしていては人々が危ない。そう直感した俺は、真っ先に外へ飛び出した。少し遅れて、ユウカとウェールも出てくる。腰に納めた二つの刀を抜き、魔物へ突進。魔力を帯びた刀が、人ならざるものを次々と両断する。ウェールの放った魔法が第二波を迎撃。そして、ユウカの放った炎が魔物を包み込み、城を襲っていた軍勢は消え失せた。
 
「貴様ら、よくも私の部下たちを・・・」
 ふいに、低いうなるような声が響いた。声の主は人間にこうもりの羽をつけたような姿を現した。と同時に、あたりが闇夜に包まれた。
「お前がリーダーってわけか!」
 俺はそう言い放つと、魔の軍勢の頭領に刀を振りかざした。だが、その一撃は空を切っただけだった。次々と攻撃するが、全て相手にかわされた。俺は、腹部に敵の攻撃をまともにうけ、壁にたたきつけられた。魔物が次に狙ったのはユウカだった。それに気づいたウェールは、両者の間に体をいれ、攻撃をはじく。魔物は驚いたように間合いを広げた。
「貴様、ウェールか? 祖国から逃げ、あげくに敵国の加勢か。この裏切り者め!」
「黙れ、レイン。」
 レインと呼ばれた魔物の言葉の後に、ウェールが冷たい声で答えた。小さな声であったが、相手を威圧するすごみがあった。そのまま、ウェールとレインはにらみ合った。 
「そいつはお前の知っているやつなのか?」
 両者の間に、ユウカが割って入った。少しの間のあと、ウェールが答えた。
「私がマンドにいた頃の親友・・・だった。」
 “だった”というのはおそらく、もともと人間であったということなのだろう。ウェールは寂しそうな表情をしていた。
「親友だと? マンドから逃げ、戦いから背を向けた貴様が? 笑わせるな。」
 耳まで裂けた口の端をつり上げ、魔物が嗤う。
「ウェール、私のもとへ来ないか? そうすれば、この素晴らしい力が手に入るぞ。」
 ウェールは答えなかった。ただ、変わり果てた親友を睨み続ける。と、ウェールにかばわれていたユウカが、体勢を立て直した俺にそっと耳打ちした。
「ジン、しばらくの間、あいつの気を引きつけてくれないか?」
「何か策があるのか?」
 唐突な問いに、俺は思わず聞き返した。すると、ユウカはこくりとうなずいた。
「ああ。レインとやらを助けることができる。」
「そうか。」
 俺は返事をすると、未だにらみ合っている両者の間に割って入った。そして、魔物に刀を振る。かわされても、気にしない。何かをやろうとしているユウカから気が逸れれば十分だ。それを察したのか、ウェールも加勢した。攻撃は全て見切られていたが、二人がかりでは魔物もよけるので精一杯のようだった。
 ふいに、背後に大きな魔力を感じた。振り返る間もなくそれがまばゆい光を発した。
「おのれ!!」
魔物が光を発する者に攻撃しようとする。だが、俺とウェールに阻まれた。一瞬の静寂の後、心地よい笛の音が響いた。ユウカに奏でられたその音は、聞く者を包み込んでいた。それと同時に魔物が苦辛の声を上げた。みるみるうちに光が魔物を包み、やがて全てを覆ってしまうと目を開けていられないほど輝いた。
 
 光が収まり、辺りが本来の明るさを取り戻した。恐る恐る目を開けると、そこに魔物の姿はなく、かわりに一人の男が倒れていた。
「レイン!」
ウェールが男の名を呼び、肩に担いだ。
「良かった。戻ったんだな・・・。」
振り返ると、弱々しい声で話すユウカがいた。そのまま、糸が切れた操り人形のように、前のめりに倒れた。慌ててユウカを支え、レインを担いだウェールとともに、二人を休ませる事にした。
 
 

↓良かったらポチッとお願いします↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ

このページのトップヘ