図書館の階段を上る
本を探していた訳でも、調べ物があった訳でもない
ただ、涼みたかったのだ
猛暑と騒がれていた熱気も和らぎ、朝晩はいくらか過ごしやすくなった
だが、それでも昼間は暑いのだ
ソファに腰掛けてぼんやりと窓を眺める
読みかけの本でも持ってくれば良かったなどと後悔しながら、私はただ座っていた
ばっさりと建物を切ったかのような大きな窓の外
綺麗に舗装された道が真っ直ぐに伸び
その両側に長方形の池がたたずむ
それを見下ろすように大きな木が木陰を落としている
両脇の道は大きな道路に向かって伸び
それに沿って街路樹が並ぶ
木々の間からは大学の建物が並んでいた
私の心に感動に似た何かが湧き起こる
ここは静かだ
図書館の中だから当たり前かもしれない
けれどここは故郷とは違う街中で
真下には人の集まる入り口がある
しかし車の多い道路は木々の影で見えず
入り口で喋る彼らの姿は見えない
窓も木々も喧噪を覆い隠し
歩く人もまばらで木陰に休む者もいる
まるで穏やかな部分だけが目の前にあるようだった
それを理解したとき
私の心に浮かんだのは穏やかな風景に包まれた喜びか
あるいは隠さねば世の中の汚い部分が見えてしまう事への自虐だったのか
自分でも分からない
ただ分かるのは
私の心は穏やかだということだけ