YouTubeのおかげで、動画サンプルを見せたいウェブサイトは大助かりですが、いざ邦画を検索してみると、外国映画にくらべてじつに貧弱な「品揃え」だということに気づきます。アップしても、すぐに消されてしまうのではないでしょうか。
著作権保護もだいじかもしれませんが、いわゆる「露出」のほうがはるかに重要で、拒否するよりは開放し、受け入れる方向で動いたほうが、多くのものごとはうまくいくように、わたしには思えるのですがねえ。
◆ スコア1 テーマ ◆◆
裕次郎の歌う、未発売のオリジナル版「狂った果実」もきわめて魅力的ですが、いまになると、武満徹が書いたと考えられるスコアもやはり魅力的で、『狂った果実』は音楽的にも実りの多い映画です。
残念ながらサウンドトラック・アルバムはないので、いくつか映画から切り出してみました(音質は落としてあります)。まずは、当然ながら、タイトルに流れるテーマから。
サンプル1(テーマ)
なかなかグルーミーなサウンドで、わたしは『錆びたナイフ』を想起しましたが、スティール・ギターのサウンドが、ちがうぜ、と主張しています。タイプは違うのですが、エスクィヴァルのように、非ハワイアン的、非カントリー・ミュージック的なペダル・スティールの利用法で、じつに興趣あふれています。もうひとつ妙な方向に連想が飛びますが、ジェリー・ガルシアの最初のソロ・アルバムにも、こういうペダル・スティールがあったような気がします。エスクィヴァルにしてもガルシアにしても、『狂った果実』よりあとのことです。
検索していたら、「湘南という独立国」などと書いているところがあって、苦笑しました。「いまや湘南はダサさの象徴である」といった矢作俊彦のほうに賛成しますね。「湘南」ナンバーなんかぶら下げて、トップを開いている「トッポイ」お兄さんをご覧なさい。あれがダサくなければ、この世にダサいものなんてなくなってしまいます。
『狂った果実』は、「湘南」ナンバーをぶら下げただけで「出来上がって」しまうような、お気楽な「湘南映画」ではないので(そもそも、そんなものがかつてあっただろうか?)、武満徹のこのグルーミーなースコアは正しいのです。貧乏人が登場しないのは、たんに作者が貧しい家庭の生まれではなく、まだ人生の経験が浅くて、それ以外の階層を知らなかっただけであり、鎌倉や葉山を別世界の楽天地として描こうという意図ではなかったでしょう。「そうなってしまった」だけです。
◆ オープニング:鎌倉駅 ◆◆
このテーマが流れるタイトルには、クライマクスと同じ、津川雅彦がモーターボート(「Sun Season」という船名!)に乗っているショットが使われています。その絵とは釣り合ったサウンドなのですが、その音のまま鎌倉駅のオープニング・シーンに入ったのは、あまりいい処理とは思えません。音を消すか、強引なつなぎでもいいから、アップテンポの曲に切り替えるべきだったように思います(と書いてから、武満徹のアップテンポ? と自分に反問してしまった)。
映画のトポロジーという記事で、軽くふれているのですが、先日、写真を撮っておいたので、すこしロケーションを追ってみたいと思います。南関東にお住まいの方以外はご興味が薄いでしょうから、飛ばしてください。では、そのアップテンポの曲に切り替えるべきと感じた、劈頭の数分間の流れを追ってみます。
今日はずっとグーグル・マップで地図をつくっていたのですが、結局、ここには貼れませんでした。ほんとうになにも貼れないブログで(YouTubeですら、貼れるようになったのはつい最近のことだから呆れる!)、また癇癪を起こしています。いずれにせよ煩雑で、読みながら地図を見るというわけにもいかないでしょうから、ご興味のある方はあとで、以下のリンクをご覧あれ。どういうわけか、最後の場所が最初に開くようになってしまい、修正する方法を発見できませんでした。左側の一覧の先頭にある鎌倉駅のリンクをクリックしてください。最初に表示される真鶴の海はラスト・シーンです。
散歩地図
ゴチャゴチャ動く地図は煩瑣で、表示に時間がかかったりするので、結局、いちばんいいのは、紙の地図をスキャンしたJPEGかもしれません。
鎌倉駅の正面は地図には東口と書いてありますが、生きている人間がそんなことをいっているのを聞いたことはかつてありません。みな「表駅」と呼んでいます。東の反対だから、江ノ電のある側は正式には「西口」というのでしょうが、これまただれもそうは呼ばず、「裏駅」と呼び習わしています。この稿でも、表と裏という言葉を使うことにします。「裏駅の通り」とか「裏駅の商店街」などという言い方もします。この表現もあとで必要になります。
表駅でタクシーを降りた裕次郎と津川雅彦の兄弟は、切符を買わずに駅に飛び込みます。ここから横須賀線の下り電車に乗るまでの二人の身のこなしと、キャメラワーク、編集、いずれもスピード感があって、うん、この映画は面白そうだ、という期待が生まれます。あんなにあわてなくても、すぐにつぎの電車が来るはずですが、そこはそれ、「映画的リアリティー」というやつです。中平康は、まずなによりも、観客に二人の若さを印象づけたかったにちがいありません。
以前にも書いたのですが、駅に着いてからの二人の動きは、現実を忠実になぞっています。駅構内に入って、下り線の線路下を駈け抜け、(彼らから見て)左(すなわち逗子側)に曲がって階段を駈け上がって、左側、1番線に停まっている下り横須賀・久里浜方面行きに飛び乗ります。
じっさいに鎌倉から逗子までいけばわかりますが、これがもっとも自然な動きで、階段のところで右に曲がるのはレア・ケース、すなわち、ちょっとした距離にもグリーン車(当時は一等車か二等車)を利用する人だけです。右に曲がって階段をあがると、そこはグリーン車停車位置なのです。
◆ 逗子駅:昔を今になすよしもがな ◆◆
二人は鎌倉のつぎの駅、逗子で下車します。鎌倉-逗子間は5分ほどの距離です。逗子駅の改札は上り線のほうにあるので、下り電車から降りたら、跨線橋を渡らねばなりません。そして、中平康は、この跨線橋で登場人物たちを接触させます。意図的ではないものの、津川雅彦が落とし物をし、それを北原三枝が拾うという、いわばルーティンですが、このシーンは成功しています。北原三枝の輝きと津川雅彦の初々しさのおかげでしょう。
橋とか階段といった場は意味をもつことが多く、フィクションはしばしばそれを利用するのですが、いまの逗子駅ではどうでしょうかねえ。わたしが映画監督なら、ここはパスして、さらにロケハンをつづけることになるでしょう。いまの逗子駅は、テレビドラマのロケ地にはなりえても、本編には不向きです。とくに、最近、エスカレーターができてからは、味のない場所になりました。
正面にまわっても、これまた鎌倉駅の新駅舎同様というか、鎌倉の上を行く味気なさで、とうていレンズを向ける対象ではありません。わたし自身、こんなところを写真に撮っている自分が、周囲の人にどう見えるかを意識して、赤面してしまい、2カット撮影するのが精いっぱいでした。
写真を撮ってきたロケ地をすべて取り上げても、ちょいちょいとできるだろうと考えていたのですが、どうしてどうして、スクリーン・キャプチャーと自分の写真を比較するだけで時間を食ってしまいました。もう一回だけ、『狂った果実』を延長させていただきます。あと三カ所もロケ地が残っているのですが。
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オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽
(『狂った果実』は、サウンドトラックではなく、ボーナス・ディスクに武満徹のこの映画の音楽に関するコメントが収録されているのみ)
武満徹全集 第3巻 映画音楽(1)
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