- タイトル
- You Only Live Twice
- アーティスト
- Nancy Sinatra
- ライター
- John Barry, Leslie Bricusse
- 収録アルバム
- You Only Live Twice (OST)
- リリース年
- 1967年
- 他のヴァージョン
- Billy Strange, Roland Shaw & His Orchestra, the John Barry Orchestra, Mantovani, Nancy Sinatra (remake, Hollywood version)
昨16日は久しぶりに鎌倉を歩いてきました。満開の八重桜が目立ちましたが、ジャスミンも開花していました。へへえ、と思ったのは、黄色い花をつけるカロライナ・ジャスミンがあちこちのお宅に植えられていたことです。10年近く前、元の築地川の上につくられた公園にひと株だけあったのを見て、名前を覚えましたが、それからほんのわずかの年月で、ごく当たり前のものになってしまったようです。
はてさて、こういうのはいいことなのかどうか。外来種の無思慮な栽培、ともいえます。植物には足はありませんが、たとえばクローヴァーや米粒詰め草、さらには背高泡立草を見てもわかるように、在来種を駆逐してはびこっていくことにかけては、動物や魚類にひけをとりません。最近では、ポピーなんか、どこにでもある雑草といった状態ですが、あれだって無思慮に庭や公園・庭園に植えたせいです。動物、魚類、鳥類(そして『ジュラシック・パーク』によれば恐竜)にかぎらず、植物も囲い込むことは不可能なのだから、これからは外来種について、園芸家はもっとストイックになる必要があるのではないでしょうか。
鎌倉に出かけたついでに、このブログのために少々、取材のようなことをしてきました。このところずっと映画音楽をやっているのだから、たまには邦画も取り上げたいところで、それで鎌倉を扱った映画の主題歌をやろうかな、と思ったのです。といっても、時間がなくて、写真を撮ったのは、鎌倉駅、由比ヶ浜の商店街、そして光明寺だけです。これだけのヒントではなにもわからないでしょうからもうひとつ、日活作品です。昨年秋の逗子・葉山取材と、今回の鎌倉歩きで材料はそろったので、まもなく取り上げます。
◆ ザ・ベスト&ワースト ◆◆
さて、今回は同じく日本が舞台でも、邦画ではなく、ジェイムズ・ボンドの『007は二度死ぬ』です。ロケ地は東京(赤坂、銀座、代々木、中野など)、神戸、姫路、霧島、鹿児島といったあたりです。
まずはタイトル・シークェンスをご覧いただきましょう。
数あるジェイムズ・ボンドのテーマのなかでも、わたしはこれがいちばん好きですし、タイトルの映像との親和性ももっともよいと思います。フィルムのテンポと音楽のテンポにズレがありません。想像ですが、音楽が先で、フィルムはプレスコに合わせて撮影と編集をおこなったのでしょう。
しかし、この映画で好きなのはオープニングとエンディングぐらいで、あとはずっと居心地が悪くてしかたありません。こんなに尻をもじもじさせながら見た映画もそれほどたくさんはないでしょう。そう感じたのは日本人だけで、他国の客は、日本はあんなものだろうと思ってみたのでしょうが、さりながら、自分が日本人であることを忘れ、自国に関する知識も一時的に機能停止させて映画を見る、というぐあいには、なかなかいかないものだなあと思います。
このあとがシドニー・ポラックの『ザ・ヤクザ』、そして、リドリー・スコットの『ブラック・レイン』という順番で日本がメイジャー作品に登場しますが、『ブラック・レイン』に到る道はけわしかったなあ、と思います。その『ブラック・レイン』も、日本ロケはいろいろ手間取って、女プロデューサーが日本に駆けつけ、ヘリでロケ地に乗りつけるや、「リドリー!」と怒鳴りつけ、監督があわてて駆け寄ると、いきなりバシーンとビンタを食らわせ、このバカヤロー、あたしの金を無駄にしやがって、という鶴の一声で、あえなく撤収となった、という噂話を小耳にしたことがあります。プロデューサーの権限は絶対で、たとえリドリー・スコットでも、ビンタを食らってもなにもいえないようですな。
だから、ほら、ダイレクターズ・カットとかいって、編集し直したものを二度売りするじゃないですか、あれはプロデューサーの権限で切られたものを、未練たらしく生き返らせた代物で、監督になんらかの権限があれば、あんなものがあとから生まれるはずがありません。ビンタの慰謝料、屈辱の報酬、それがダイレクターズ・カットなのです。
わたしなんかもそうでしたが、子どもは得てして、大人になったら映画監督になりたいなんてことを思うものです。まあ、日本では監督に強い権限があるので、それもあながち見当はずれではないのですが(もっとも、映画監督では食えないという大問題があるので、やはりおおいなる見当違いなのだが)、ハリウッドに行ってごらんなさい、監督なんてものはひと山いくら、二束三文のたたき売り、プロデューサーの前にひざまずき、靴にキスしてやっと映画を撮らせてもらえるわけで、目指すならプロデューサーしかありません。あるいは、プロデューサー兼任監督ですな。雇われ監督なんかやった日には、堪忍袋がいくつあっても足りませんぜ。
◆ シンプルでいながら風変わりなコードとオブリガート ◆◆
よけいな脇道に入ってしまいましたが、テーマについてはまったく文句なし。ジョン・バリーがつくった最高の曲であり、アレンジであり、サウンドです。Goldfingerは意図的に異質であろうとしたきらいがありますが、You Only Live Twiceにはそういうわざとらしさはなく、自然にエキゾティックな曲になったと感じます(ナインスの音を使ったマリンバのフレーズは、もちろん意図的に東洋的雰囲気を出そうとしたものだろうが)。
イントロのストリングスはミステリアスにはじまり、そのあとにつづく、Cに移調して書くと、C-B-C-B-A-B-A-G、Bb-A-Bb-A-G-A-G-Fというラインの繰り返しは、すばらしいスケール感があり、これまた文句なしにシリーズ最高峰のサウンドです。
ヴァースではさらに、上記の2種類のフレーズ(C用とGm用)に加えて、Fm用のAb-G-Ab-G-F-G-F-C-E-F-Gというフレーズも登場し、これがやや強引なせいで、もっともエキゾティックに響きます。ヴァースは(Cに移調して)C-Gm-Fm-Cというコードで構成されていて、このコードの遷移も、シンプルでありながら、自明ではなく、ありそうでいて、じっさいにはあまりないコード進行でしょう。ジョン・バリーの異質性がよく出ています。
コーラスもなかなかけっこうで、Fm-G7-Bbm-Gというコード進行の響きもいいし、左チャンネルのストリングスのオブリガートの作り方も、ノーマルではなく、ハッとさせられます。
余計なことを書いたり、ヴィデオ・クリップ探しに手間取ったりして、時間がなくなってしまったため、カヴァー・ヴァージョンについては次回に検討させていただきます。