- タイトル
- Thunderball
- アーティスト
- Billy Strange
- ライター
- John Barry, Don Black
- 収録アルバム
- Secret Agent File
- リリース年
- 1966年
- 他のヴァージョン
- Tom Jones, Al Caiola, Count Basie, Hugo Montenegro, Leroy Holmes, Ray Barretto, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Sounds Orchestral, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, Davie Allan & the Arrows, Dick Hyman, Elliott Fisher, The Jazz All-Stars, Percy Faith & His Orchestra, Dan & Dale
◆ またもビリー・ストレンジ盤 ◆◆
当家のお馴染みさんには、またかよ、といわれてしまうかもしれませんが、Goldfingerにつづいて、Thunderballもカヴァー筆頭はビリー・ストレンジ盤を選びました。ふだんなら、こういう重複は避けるのですが、Goldfinger同様、Thunderballもビリー親分のサウンドは冴えているのです。彼のこの系統の二大作品といっていいでしょう。
例によって、右のリンクから行けるAdd More Musicの「レア・インスト」ページで、この曲が収録されたビリー・ストレンジのアルバム、Secret Agent FileのLPリップを入手することができます。なかなかけっこうなアルバムなので、ダウンロードしても損はありません。オープナーがThunderball、クローザーがGoldfingerとなっているということは、この2曲の出来がすばらしい、ということで作り手とリスナーの考えが一致したようです。
ビリー御大はGoldfingerではフェンダーを使っていましたが、Thunderballはダノ(ダンエレクトロ6弦ベース)でリードをとっています。いや、わかったようなことを書いていますが、以前はこのギターのサウンドが不思議で、ボスにメールを送り、Thunderballではどんなイフェクターを使ったのですか、なんてまるっきり見当違いな質問をしてしまいました。
ボスは、あの時代にはイフェクターはほとんど使わなかった、使ったとしたらファズ・ボックスぐらいだ。ほかに変な音がするものとしては、イフェクターではないが、ときおりダノを弾いた、という返信をくださり、それを読んだ瞬間、わたしは「ダノだ、ダノに決まってるじゃんか!」と、自分のうかつさに腹を立てました。いわれてわかるんじゃ、情けないだろうに>俺。
ダノというのは、うまくはまるとじつに効果的な楽器で、この変なメロディー・ラインをもつ曲には最適の選択だったと思います。以前、なにを取り上げたときだったか、ボスのダノのリードがすぐ終わってしまうのが残念だと書きましたが、この曲は頭から尻尾まで全編ダノ、たっぷり堪能することができます。思うに、映画にも、トム・ジョーンズの歌ものより、このダノ・ヴァージョンを使ったほうがはまったのではないかという気がします。
ドラムはハル・ブレインですが、ほかのメンバーはわかりません。気になるのはサックスで、冒頭からいいオブリガートをつけています。ラインはアレンジャーであるビリー・ストレンジのものでしょうが、音の出がよくて、うまい人だなあ、と思います。数あるボスのホーン・アレンジのなかでも、この曲はベストのひとつだと思います。
◆ ヒューゴー・モンテネグロ、デイヴィー・アラン ◆◆
ビリー・ストレンジ盤以外を見渡すと、もう抜きんでたものはありません。どこかに美点のあるものと、どこにも美点らしいものがないもの、そのどちらかです(当たり前か!)。
例によってレッキング・クルーからみを優先して、ヒューゴー・モンテネグロ盤からいきますか。出だしは、大丈夫かなあ、というおぼつかなさですが、ストリングスが入ってくると、うん、いいなあ、と頷いてしまいます。またまた変な鍵盤楽器が使われていますが、とりあえず解明の手がかりがないので、気にしないことにします。
ギター・インスト好みのためにはデイヴィー・アラン&ディ・アロウズのヴァージョンがあります。なんだか、ヴェンチャーズそっくりのアレンジ、サウンドで、MP3タグに間違ってVの字が書いてあったら、そうなのだと思ってしまうにちがいありません。なんと申しましょうか、二人の銀座サウンドなのですな、これが。ベースがボブ・ボーグルよりうまいし、ドラムがメル・テイラーよりタイムが遅く、つねに突っ込みそうでかろうじて踏みとどまっている断崖絶壁の気分の悪さはない、というのがツアー用Vの字とはちがうところですが、だいたい、Vの字からして、60年代には、ツアー・バンドそのままで録音したスタジオ盤はほとんどないので、アロウズはヴェンチャーズと大差ないといって問題ないような気がします。
デイヴィー・アランというのはマイク・カーブがらみで出てきたそうです。カーブはハル・ブレインのお得意さんだから、当然、クルーのトラックになりそうなものですが、すくなくともこの曲に関するかぎりは、ハル・ブレインでもアール・パーマーでもジム・ゴードンでもなく、一流プレイヤーには思えません。クルーというより、スタジオとステージを行ったり来たりしている一軍半のプレイヤーを随時雇っていた、なんてあたりじゃないでしょうか。
内実はどうであれ、ギターインスト好きならこのトラックはそれなりに楽しめます。ヴェンチャーズ風サウンドで、メル・テイラーよりタイムの遅いドラム(うまいドラムとはいっていない!)だと、そこそこいい感じになる、ということは、あの時期のVの路線もかならずしも間違っていたわけではない、ということになるのでしょう。せっかくだから、「二人の銀座サウンド」だなんて、知らないと思ってテキトーなことをいいやがって、と怒っている人たちのために、証拠を提出しておきます。
サンプル
◆ ギターもの ◆◆
ついでだから、さらにギターものをいきます。アル・カイオラは、レズリーに通したギターは悪くないし、ペラペラしたリズム・ギターのサウンドも面白いのですが、リズム・アレンジが奇妙で、違和感があります。そもそも、このヴァージョンが収められたアルバムはTuff Guitar Tijuana Styleというタイトルで、その名のとおり、マリアッチ風ないしはメキシコ風のアレンジで、という企画です。だからドラムが、スネアのみでタンタラタンタラとTelstar風のリズムを叩きつづけているのでしょうが、マリアッチというより、もろに西部劇風です。ギターはいいのに、惜しい!
ウェブでダン&デイルのThunderballというアルバムを拾ったのがHDDにあったのですが、まったく記憶がなく、どうして拾ったのかと思って調べたら、サン・ラとブルーズ・プロジェクトのメンバーによるスタジオ・プロジェクトだそうです。どんなゲテかという下司な関心だったわけですが、そんなことは忘れてしまい、やっと今回聴きました。
ダニー・カルブのギターはそれなりに好きだったので、そういう意味ではそこそこ楽しめます。60年代の素人バンドに共通の欠点で、みなタイムが早く、リード・ギターもすこし拍を食う傾向があるのはいただけませんが、まあ、そういうことに神経質になる人は少ないでしょう。ブルーズ・プロジェクトのトラックにはものすごいのがあって、中学の軽音楽部を思いだしてゲラゲラ笑ってしまうことがありますが、このトラックでは中学は卒業し、高校生一年生の一学期ぐらいのレベルまでは来ています。
サン・ラはどうしているのかというと、たぶん、オルガンをプレイしたのでしょう。ふつうにやると、当然ながら、ふつうに聞こえるわけで、べつに面白くもなんともなく、わたしだって、これくらいなら弾けます。
プロデューサーはトム・ウィルソンですが、有名な人でこの程度かよ、てえんで、NYのレベルの低さにガッカリしました。企画ものをやるなら、もっと工夫しないと……。サン・ラにふつうに弾かせてどうする気だったのかと思います。ふつうに弾くなら、もっといいプレイヤーが山ほどいるでしょうに。商売人根性のない、商売をナメたプロデューサーだったのでしょう。ジョー・サラシーノの爪の垢でも煎じて飲めよ、です。売るっていうのは芸術をつくるよりはるかにむずかしいんだぜ>ウィルソン。
やはりこれだけたくさんカヴァーがあると簡単には片づかず、またしても、もう1イニング延長させていただきます。グルッと一周して、ビリー・ストレンジ盤にもどると、やっぱり、ダノのゴツい音がカッコいいですなあ。