- タイトル
- アーティスト
- Billy Strange
- ライター
- John Barry, Leslie Bricusse, Anthony Newley
- 収録アルバム
- Goldfinger
- リリース年
- 1965年
- 他のヴァージョン
- Shirley Basey, Al Caiola, Count Basie, Elliott Fisher, Hank Marvin, Hugo Montenegro, Jimmy Smith, Leroy Holmes, Mantovani, Nicky Hopkins, Ray Barretto, Ray Martin & His Orchestra, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Santo & Johnny, Sounds Orchestral, the Atlantics, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, the Ventures
さて、前回のGoldfingerその1でお約束したように、今回はカヴァー・ヴァージョンの検討です。やや数が多いので、全部を聴けるかどうかはわかりませんが、とにかく「レディー、アクション!」
◆ ビリー・ストレンジ ◆◆
昔から文句なしに好きなのはビリー・ストレンジ盤です。例によって、これは右のリンクから行けるAdd More Musicの「レア・インスト」ページで、LPリップを入手することができます。No.42がこの曲をタイトルとしたアルバム、Goldfingerです。
アレンジとしては、前回ご紹介した、ジョン・バリーによるレヴ・アップ・インスト・ヴァージョンに非常に近いのですが、並べてみると、ほんの1小節で、あっ、これは格がまったく違う、とたちどころにわかります。グルーヴの差が歴然なのです。さすがはレッキング・クルー、イギリスのミュージシャンなどまったく寄せつけず、ビリー・ザ・ボスのギターとともに爆走しています。
いや、ホント、聞き比べというのはやってみるものです。単体で聴いたときは、ジョン・バリーのレヴ・アップ・ヴァージョンもかなりいい出来だと思ったのですが、それはたんにギターが攻めるプレイをしていることにごまかされていただけであって、真打ちの前では、霞むどころか、じつはかなりトロいグルーヴだったということが白日の下に露呈されてしまいます。ドラマーの力量の差というのは、じつになんとも恐ろしいものだと改めて痛感しました。
ビリー・ストレンジ・ヴァージョンのハイライトは、終盤近く、F-Ab、F-Dbというダブル・ピッキングのギターのフレーズに呼応して、ハル・ブレインが16分でタムタムを叩き、ギターとドラムのインタープレイになるところでしょう。ハル・ブレインはいろいろ奇妙な工夫をしましたが、こういうタイプのプレイはほかに例がないと思います。このインタープレイを聴くだけでも、このヴァージョンを入手する価値があります。
◆ ヒューゴー・モンテネグロ ◆◆
つぎに面白いのは、またレッキング・クルーがらみですが、ヒューゴー・モンテネグロのヴァージョンでしょう。OSTにようにホットな路線はとらず、ヴァイブラフォーンなどを使ってクールなアレンジをしています。
毎度のことながら、またしてもなんだかわからない鍵盤楽器がリードをとっています。オンディオラインとか、クラヴィオラインとか、そういった新開発のものなのでしょう。ヘンリー・マンシーニがときおり使っていた(たとえばMoon Riverなど)キーボード楽器に近いサウンドです。
この曲ではハル・ブレインは活躍しませんが、だれだかわからないアップライト・ベースのグルーヴがすばらしく、やっぱり音楽はグルーヴで決まるなあ、と思います。ハリウッドにはうまいアップライトのスタジオ・プレイヤーがたくさんいて、もっとこうした人たちの研究が進めばいいのですがねえ。ざっと名前をあげておくと、ライル・リッツ、レッド・カレンダー、チャック・バーグホーファー、レイ・ブラウン、ジミー・ボンド、レッド・ミッチェル、ジョー・モンドラゴンといったところでしょうか。すくなくともわたしは、アップライトが攻めのプレイをしていたら、この人たちの名前を思い浮かべます。
◆ ギターもの ◆◆
なめていたら、意外にも面白かったのがアトランティックス盤です。ドラムは微妙に走っていますが、ギターのトーンの作り方とプレイはなかなか楽しめます。このバンド、ものすごく下手になったり、そこそこ安定したプレイを見せたり、なんだか怪しいところがあります。影武者はハリウッドの特許ではなく、NYでもあったし、イギリスでもあったし、もちろんわが日本国でもあったことなのを思い出すのですが、さて、どうでしょうか。
それにくらべて、アル・カイオラのヴァージョンは、うーん、です。いや、カイオラのギターはいつだってそれなりに楽しめるのですが、アレンジ、サウンドがねえ……。同時期のハリウッドが「完成されたグルーヴ・マシーン」であるレッキング・クルーによって、つねにグルーヴで楽しませるサウンド作りをしていたのに対し、このころのNYは地盤沈下がはげしく、ただタイムが安定しているだけで、楽しいとか面白いとか、そういうものではなくなっていったことを、アル・カイオラの盤ではしばしば痛感します。アレンジャーのセンスも時代遅れになりつつあったのでしょう。
ついでなので、さらにギターものをつづけます。おつぎは、ギターはギターでもペダル・スティール・ギターのサント&ジョニー盤。うーん、判断がむずかしいところですねえ。アレンジがはまったとはいいかねますが、ほかに似ているヴァージョンがない、ということはいえるので、まあ、悪くはない、というあたりでしょうか。リズム・パターンも、狙いどおりにうまくいったとはいえませんが、工夫を凝らしたところは買えます。
ヴェンチャーズは例によって箸にも棒にもかからない出来です。ビリー・ストレンジやハル・ブレインが影武者をやっていたころをのぞけば、このバンド、どこにも聴きどころのないガービジですな。まだこれから取り上げる予定の映画のテーマをカヴァーしているのですが、どれを聴いても悲惨なものばかりなので、これ以上は無駄と見極め、これを最後に検索対象から外します。
ハンク・マーヴィンは、ヴェンチャーズよりずっとマシなミュージシャンですが、それでもやはり、この曲のサウンドはボロボロで、ギターだけ聴くというわけにはいかず、ドラムを聴いていると脳溢血で即死してしまいそうになるので、健康被害を考えて、これも検索対象から外すことにします。やっぱり、シャドウズで終わってしまった人ですねえ。
ちょっと疲れもしましたし、長い記事はやめにして、できるだけ短く、さっと読める(というより、さっと書けることのほうが重要なのだが!)ものにしようと思ってもいるので、本日はこれまでとさせていただきます。まだまだたくさんヴァージョンが残っていますし、なかには聴くに足るものもあるので、しつこくて恐縮ですが、もう一回延長させていただきます。