Goldfinger その1 by Shirley Bassey (OST 『ゴールドフィンガー』より) : Songs for 4 Seasons
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Goldfinger その1 by Shirley Bassey (OST 『ゴールドフィンガー』より)
タイトル
アーティスト
Shirley Bassey (OST)
ライター
John Barry, Leslie Bricusse, Anthony Newley
収録アルバム
Goldfinger (OST)
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Al Caiola, Billy Strange, Count Basie, Elliott Fisher, Hank Marvin, Hugo Montenegro, Jimmy Smith, Leroy Holmes, Mantovani, Nicky Hopkins, Ray Barretto, Ray Martin & His Orchestra, Reg Guest Syndicate, Roland Shaw & His Orchestra, Santo & Johnny, Sounds Orchestral, the Atlantics, the Cheltenham Orchestra, the James Bond Sextet, the John Barry Orchestra, the Ventures
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当地ではこんなことは久しぶりですが、染井吉野は今日あたりがピークで、多くの株が満開になっています。このところ、三月中に満開になってしまうことが多かったので、もはやそういうものと見極めていましたが、あにはからんや、昔のように、入学式の記念写真を校庭の満開の桜の下で撮影できるという、近年ではめずらしい現象が起きました。

三月末の真冬のような寒い数日のせいでこういうことになったのでしょうが、ご近所をまわると、どこの海棠も開花してしまい、こちらは寒さの影響を受けなかったように見受けられます。わたしの頭のなかでは、染井吉野が散ると海棠の出番、ということになっていたのですが、今年は染井吉野と海棠がほぼ同着です。植物のことというのは、毎年毎年、知識の微調整を要求されますなあ。

今年の花見でひとつ知識が増えました。いつも気にしていた、同じ株に紅白の花を咲かせる桃の名前がわかったのです。「源平桃」というのだそうです。いわれてみれば、じつに簡単な命名方法で、なんだよ、そうだったのか、でした。もちろん、「赤勝て、白勝て」で、源氏の旗は白、平氏は赤だから、紅白に咲き分ける桃の品種は「源平桃」というしだい。「紅白歌合戦」だなんて、僅々半世紀余の歴史しかない代物に騙されちゃいけません。紅白といえば、女と男ではなく、古来、源氏と平氏のことなのです。

◆ イレギュラーな構成 ◆◆
昨年、体調を崩す以前に、スパイ/クライム・ミュージックの系譜をしばらく追いかけたのに、それきりで尻切トンボになってしまいました。いちおう、準備だけはしてあったので、そろそろそれを使って、これからしばらくのあいだ、いくつか聴き、そして見てみることにします。

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本日はスパイ/クライム・ミュージックの親玉であるジェイムズ・ボンド・シリーズの転回点であり、ブレイクスルーとなった『ゴールドフィンガー』です。これ以前に、『007は殺しの番号』と『ロシアより愛をこめて』の二作ががありますが、前者はすでに昨年、その1その2の二度にわたって見ています。『ロシアより愛をこめて』は、とりあえず先送りということにさせていただき、できれば後日、取り上げようと思います。

それではまずタイトル・シークェンス。以下のクリップでは、いわゆる「ガン・バレル」とタイトルがつながっていますが、この取って付けたようなぎこちない編集からもおわかりのように、映画ではべつべつのものです。ご存知のように、ジェイムズ・ボンド・シリーズでは、ガン・バレル・カットが冒頭にあり、アヴァン・タイトルで映画に入って、ボンドがなにかの任務を果たし(そのクリップは後出)、しかるのちにタイトルに入るようになっています。



もう10年以上昔のことで、細部はすっかり忘れてしまいましたが、わたしはこの曲をMIDIでコピーしたことがあります。いろいろな曲をコピーしましたが、これほど苦労したのは後にも先にもありません。コピーするべきパートが多く、ヴァイオリンだけで4パートつくった記憶があります。しかも、たとえばE-Cというイントロ・リックも、強いアクセントがついているので、それをのっぺりしたMIDIの発声でどう再現するかという問題がなかなかきびしく、どうしてこんなに苦しい遊びをしているのだろうと、しまいには泣きが入りました。

コピーは理解への最短距離、やってみて、じつに面白い構造の曲だと思いました。最後はEbにゴチャゴチャとテンションがついて、不協和音ぎりぎりの音で終わっていますが、Eだったはずのキーが、どうしてEbになってしまったのか、なんだか猫だましでも食らった気分で、どこで「すり替え」があったのだろうかと、グラウチョのように考えこんでしまいました。

ジョン・バリーというのは、頭の構造がノーマルではないタイプの作曲家で、こういうイレギュラーなところが、彼の曲にはたくさん仕込まれています。たとえば、Goldfingerのストップ・タイム(It's the kiss of death from Mister...のところ)のチェロのリックのように、それがはまると、じつになんともいえない効果を生みます。

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この曲のアレンジで目立つのは、アコースティック・ギターのストロークが、聞こえるか聞こえないかはべつとして、冒頭からずっと鳴りつづけていることです。オーケストラの下敷きとしてアコースティック・ギターのストロークを使う手法というのは、フィル・スペクターの諸作をはじめ、ハリウッドのポップ・ミュージックでは当たり前のものになっていましたが、それを映画音楽に応用したところは、ポップにも片足をかけていたジョン・バリー(たとえば、Goldfingerのころにチャド&ジェレミーのプロデュースもしている)らしいセンスだと感じます。

同時期にモリコーネも同じ手法を使っていることを考え合わせると、要するに「時代精神の産物」ということなのかもしれませんが、保守的なメインストリームのバラッドにすぎなかった前作のテーマ、From Russia with Loveから考えると、Goldfingerのコンテンポラリーなタッチは、やはりクォンタム・リープに思えます。Goldfingerのテーマがヒットしたことが、このシリーズのヒットと安定化につながったのはまちがいないでしょう。子どもだったわたしは、あとからFrom Russia with Loveを聴いて、なんだよこれは、と嗤いました。Goldfingerのすごみとはまったく無縁な、同じシリーズのテーマとは想像もつかない、つまらない曲だと当時は思ったのです。

◆ ヴァリアント2種 ◆◆
映画音楽の楽しみのひとつは、場面に応じたテーマ曲のヴァリアントの使い方です。エンニオ・モリコーネのように、ジョン・バリーにも匿名のオーケストレーターが付いていたのかもしれません。しかし、そのクレジットは見あたらないので、とりあえずバリーのアレンジだと考えておきますが、Goldfingerの場合、もっともすぐれた変奏曲は、アルプスのシーンに使われたAlpine Driveというタイトルのスロウ・バラッド・アレンジです。

サンプル1

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スロウ・バラッド・ヴァージョンが流れるアルプスの場面。

もうひとつはその反対側、レヴ・アップしたインスト・ヴァージョン。このヴァージョン自体は、映画のなかには出てこないようで、最終段階でカットされてしまったのかもしれません。出来はすばらしいので、惜しいことをしたものです。

サンプル2

うちにあるカヴァー盤の多くは、シャーリー・バシー歌うテーマではなく、こちらのほうを元にしたアレンジが過半を占めています。このアレンジのままで、アル・カイオラあたりが弾いてもぜんぜん問題ない、というか、アル・カイオラの盤かと思ってしまうほどなので、それも当然でしょう。

カヴァーについては、本日は検討する余裕がないので、次回まわしとさせていただきます。

◆ ハロルド坂田の怪演 ◆◆
このシリーズのヒット、そしてなかんずく『ゴールドフィンガー』がブレイクスルーになった背景には、いくつかの工夫があったと思います。子どもとしては、なんといっても、つぎつぎに登場するガジェットが最大の魅力でした。いや、媚態を振りまく女優陣に魅力がなかったというわけではないのですが、それは「あったほうがいい」ぐらいのあたりで、Qのつくりだすガジェットのほうは「なくてはならないもの」でした。

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いま、大人の目で振り返ると、短いインターヴァルで、小さな工夫をつぎつぎに繰り出すあたりに、新しいアクション映画の作り方が示されていたのだと思います。毎度毎度のお楽しみである、アヴァン・タイトルの「短編アクション」がその典型で、『ゴールドフィンガー』の場合は、つぎのようなシークェンスになっています。

アヴァン・タイトル


ウェット・スーツの下に白いタキシードというのはなかなかすばらしいアイディアで、赤いカーネーションかなにかを挿すところは、まさに錦上花を添えるダメ押しというところ。

さらに、女の瞳のなかに背後から襲いかかる敵の姿を見るというのも小さな工夫だし、古来人の殺し方にも四十八手ありてなぐあいに、瞬時の判断で感電死させるというのも、また小さな工夫で、大技のあいだにこういう細かなアイディアがたっぷり詰め込まれていることが、このシリーズに躍動感をあたえたと思います。

アクションものでは悪役にも工夫を凝らさなければなりませんが、ジェイムズ・ボンド・シリーズはその面でもつねに高得点をあげていました。首魁も大事ですが、それよりも、じっさいのアクションを担当する悪役が重要で、この映画ではハロルド坂田扮するオッドジョブがそれにあたります。映画でのオッドジョブの活躍はDVDかなにかで見ていただくことにして、ここではオッドジョブのキャラクターを援用したハロルド坂田出演のヴィックスのCMをどうぞ。



これを下敷きにした、Tonight Showの一こま。



こんなものは、日本にいては見られなかったわけで、ウェブというのはありがたいものです。

それでは、次回はGoldfingerのカヴァーを聴きくらべることにします。
by songsf4s | 2009-04-06 23:28 | 映画・TV音楽
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